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無と有 15

王宮の庭で


幼馴染の仇と出会った事をアナスタシアに話すセバスチャン。


「あの当時、どう行動すれば良かったかもわからない。本当は彼を救いたかった。あの時自分にもっと力があれば……」

セバスチャンは、自分の感情を整理しようとするかのように、ゆっくりと息を吐く。

悔しさと無力感が彼の声を覆い尽くしていた。

彼の目にはまだ迷いが残っているが、アナスタシアに話す事によって少しずつ心が落ち着いてきている。

彼女はそっと彼に寄り添い、目を伏せながら、彼の苦しみを感じ取っている。彼女は言葉を慎重に選びながら、思いを伝えようとする。

「カインを救いたかったんだね……。でも、セバスチャンがその時、きっと全力を尽くしたことはわかっているよ。結果が悲しいものだったとしても。」


彼女は静かに言葉を紡ぎ、彼を見上げる。セバスチャンの肩は依然として重く、彼の心の痛みが消える気配はないが、彼女の言葉が少しずつ彼の中に浸透している。


「……分かっているんだけどさ、自分に問いかけてしまう。

彼を助ける方法はなかったのか……そればかり考えてしまうんだ。」

彼の声は低く、どこか遠くを見つめるようにしている。彼の手は力なく膝の上に置かれていて、緊張が見て取れる。


「セバスチャンはその時、できる限りのことをしたのはきっとカインも分かってたと思う。

彼が最後に選んだ道がどうであれ、セバスチャンを恨んでいたわけじゃないはずだよ。」

彼女はそっとセバスチャンの手に触れ、その温もりを伝えるように握る。

セバスチャンは一瞬驚いたような表情を浮かべるが、すぐに目を閉じてその感触を感じ取る。


「……そうだといいな。でも俺は、あの悪魔を放っておけない。

カインを、あんな姿にした張本人だ。倒さなければ、きっと俺も前に進めない……

でも、本当にそれがカインが望んだことなのか、まだ分からないんだ。」

セバスチャンの声は少し震えているが、彼の目には新たな決意が浮かび始めている。

その瞳の奥には、過去と向き合い、未来に向けて動き出そうとする葛藤が感じられる。


「セバスチャンが今、何を感じているのかが大事なんじゃないかな。

復讐は、必ずしも答えになるとは限らないけど、あなたがその将軍を倒して、カインのために何かを成し遂げたいと思うなら、それはセバスチャンの選択だし、間違っていないと思う。」

彼女はしっかりと彼の目を見据え、その言葉に力を込める。セバスチャンはその視線に何かを見つけたように感じ、少しだけ微笑んだ。


「ありがとう、話を聞いてくれて。まだ迷いが残っているけど、俺は前に進むべきなんだろうな。カインのために、そして自分のためにも……。でも、僕の悩みなんてちっぽけだよ。ニコラスに比べたら」

彼はため息交じりに笑みを浮かべる。

「ちょっとだけ聞いた、その話。テラの後に現れた鎧の将軍が愚者のトーラーで、しかもニコラス様の双子だったなんて、信じられないわ。運命が皮肉すぎるわよね。」

アナスタシアはそう言って顔を曇らせ、風に揺れる草花を見つめる。

「ああ……。彼は、将軍を倒すことができたけど、今思えば、それは兄弟同士の戦いだったんだ。彼は冷静で、あの状況でも、自分の感情を抑えて戦ってた。俺にはとてもできない。」

彼の視線も遠くを彷徨い、複雑な表情が浮かぶ。

彼らは戦いについて、そしてジャックとニコラスの関係について考えを巡らせている。

そこに、後宮でマディラと面会を終えたニコラスが偶然通りかかる。

「誰の話をしている?」


セバスチャンとアナスタシアが驚いて顔を上げる。

「あ……ニコラス様!すみません、鎧の将軍のことを話していて……。その……双子って話を聞いて。」

アナスタシアにそう言われ、ニコラスは一瞬眉をひそめ、やや険しい表情になるが、すぐに穏やかな表情になる。

「……俺自身も、あの戦いまで知らなかった。」

セバスチャンは一瞬戸惑ったが、意を決して問いかけた。

「でも、正直どう思ってるんですか?実の兄弟と知らずに出会い、そしてその事実を知りながら戦ったことについて。」


アナスタシアの前だからか、それとも先日の戦いで少しはセバスチャンの事を認めたのか、ニコラスは憎まれ口を叩かず、少しの間、黙ってから答える。

「どう思うか、か……。正直なところ、答えが見つからない。それを知った時、正直に言えば……混乱した。だが、戦場では感情は役に立たない。」

彼の声は静かだが、その中に確かな苦悩が滲んでいた。

「今は、それをどう受け入れるか考えているところだ。奴が愚者であり、俺が魔術師であることには変わりない。」

ニコラスは拳を握りしめ、苦悶がその瞳に刻まれていた。

「でも、そんなに急に受け入れられるものではないですよね?しかも、相手は大臣に育てられたんだから……。」

アナスタシアの問いかけにニコラスが淡々と話す。

「……わからない。育った環境が違えど、血が繋がっているという事を受け入れるのは、容易ではない。」

しばらくの沈黙が続き、風が3人の間を吹き抜けた。庭の花々はそよ風に揺れ、葉の音が微かに耳に届く。

アナスタシアは少し沈黙するが、再び口を開く。「それでも、やっぱり……悲しい運命だわ。家族なのに。」


セバスチャンは目を細め、少し気になる様子で尋ねる。

「ご家族は、このことをご存知だったのですか?」

「ああ、帰ってから聞いた。父上は、俺が兄弟に会ったことに驚いていた。

出会うことはないだろうと思っていたらしい。だから何も言わなかったと。」

ニコラスの声には、わずかな苛立ちと困惑が混じっていた。少しの沈黙が続いた後、彼は再び口を開く。

「俺たちの出生時、大叔父が「運命の輪」のトーラーで、彼の運命を決めたのだそうだ。

トーラーがそういうなら、という事で、苦渋の決断をして遠い親戚筋に預けていたが、彼はその後いくつかの家を転々として、最後は行方不明になったと。」

ニコラスはしばらく言葉を詰まらせた。

「両親はジャックを探したい気持ちがあったが、だが見つけたところで我が家で再度受け入れることは許されないので、彼を諦めたのだと」


アナスタシアはその重い運命を思い、遠くの木々をじっと見つめる。セバスチャンも黙り込み、ニコラスは少し考えた後に答える。

「……運命とは不思議なものだ。俺たちがどう抗おうと、何かが定めた流れに引きずられることもある。だが、戦いの中で俺が感じたのは……運命だけに縛られるわけではないということだ。選択もまた、俺たちの力だ。」


アナスタシアが「それじゃ、もしも最初から知っていたら、何か変わったと思いますか?」と問いかけニコラスは目を細め、少し笑みを浮かべたが、その表情はどこか悲しげだった。

「分からない。だが、もしあの時、俺がもっと早く真実を知っていたら、結果は変わったかもしれないが、戦わざるを得なかったかもしれない。」

彼は一度深く息をつき、再び視線を二人に向ける。

「もし再びあの場面に戻れたとしても、俺はあの時と同じ判断をするだろう。

俺たちはそれぞれ、異なる運命を背負って生きてきたんだ。

俺は王家を守るため、奴は大臣に仕え復讐を誓っていた。その運命が交差したとき、戦わなければならなかったのかもしれない。

今となってはその答えを求めても意味はない。俺たちはそれぞれが違う場所で育ち、違う運命を背負った。

そして今、また新たな道を選ぶ時が来ている。俺が兄弟として奴とどう向き合うか、それはこれからの課題だ。」


セバスチャンが「お二人は、今後はトーラーとして共にマディラ様の側でお支えを?」と問いかけると、ニコラスはわずかに苦笑する。

「さぁ……な。女王陛下に先ほど面会してきたが、奴は相当荒れているらしく、落ち着くまで関わるなと言われた。俺も、自分から奴に絡みに行くような事は考えていない」

「回復して目を覚ましたのはいい話だけど、荒れてるって……」

アナスタシアは驚きの表情を浮かべ、思わず声を漏らした。

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