無と有 14
突如現れた雷の将軍、ゼクス
満身創痍の鎧の将軍に向けて、ゼクスは攻撃を仕掛けるも、それを阻止する衝撃波が飛び込んできた。
一同その発生源と思しきところに視線を向けると、塔のてっぺんにマディラがいた。
「一度お引き取り願いたいけど、よろしいかしら?どうしても今すぐに決着をつけたいというのであれば、私がお相手するわ」とゼクスに冷静に言い放つ王妃。
彼女の言葉には、強い意志が滲んでいた。
雷将軍はその言葉に不快感を示し、顔をしかめる。
彼は、弱ったジャックを倒す為に現れたので、王妃を相手にするには軽装すぎた。
「ふん、仕切り直したことを後悔させてやる」と彼は言い、だんだんとその実体が消えていった。
ジャックは、ゼクスが一旦下がったことに安堵をし、緊張の糸が切れて意識が遠のいてしまった。
王妃が塔からふわっと舞い降りてきて、皆の前に立つ。
いつもの柔らかい表情に戻り、セバスチャンたちに向かって微笑む。
「迎えに来てくれてありがとう、帰りましょう」と彼女は告げた。
そして、彼女がジャックに近づいていくので、ジョナサンが警告の声をかける。
「お妃様?そいつに近づかない方がいいのでは?」と心配そうに尋ねる。
「彼も連れて帰るわ。」
マディラは自信を持って言い、ジャックのそばにしゃがんで片手を地面と鎧の胸のあたりに差し込み、何かを拾い上げた。
その手に握られていたのは、愚者のカードだった。
先ほどのニコラスの攻撃をかばったタロットカードは、一部が破けていた。
カードは彼女の手の中で光を反射し、不思議な力を秘めているかのように見えた。
周囲の空気が一瞬静まり、緊張が高まる。
ニコラスたちも、その瞬間に何か特別な力が働くことを直感する。
「なんと、こいつもカードに選ばれた者……」
王妃がそのカードを持つことで、カードには神秘的な雰囲気が漂い、あっという間に修復される。
だが、倒れたジャックの方を再び見た瞬間、マディラの表情が固まる。
「なぜ、あなたがそれを……!」
倒れたジャックの鎧の隙間から見えていたのは、首にかかってるロケット。
本来、彼が持っているはずもない古びた翼型のものであり、そしてマディラが夢でよく見たものだった。
――――――――――
アルバス城 国王の執務室
夜遅く、ジュリアンは帰城した侍従長のジョナサンと向き合っていた。
「報告、ご苦労だ」
ジュリアンはそう言いながら、はぁっとため息をつき、言葉を続ける。
「こう言っては何だけど、マディラから君が指名を受けた時、大丈夫かなって思ったんだけど……こうやってみんな無事に戻ってきたら、君が行ってくれて良かったと思ってるよ」
何せ、マディラ含め全員お通夜のような重苦しい雰囲気で帰ってきたのだ。
戦いの後、マディラの能力で瞬間移動でトーラーの宿舎で帰ってきたのは、無傷のマディラ、傷ついた鎧の戦士を抱き疲労の色がみえるジョナサン、同じく傷ついたニコラスと疲れ果てたセバスチャン、何故かカラスが一匹。
王妃含め、みんなが無事に帰ってくるか心配で、他のトーラーたちは宿舎で待機をしていたため、全員で手分けをしてジュリアンはじめ関係者に連携をしてくれた。
しかしタイミング悪く、ジュリアンが一報を受けたのは公務の途中で、マディラ達のところに足を運べなかった。
マディラは全くの無傷だが、ジャックのしているロケットが気になって上の空。
鎧の将軍ジャックは、大きな傷は治癒されているものの、気を失っており、すぐに後宮の客間に運ばれた。
「魔術師」のニコラスは、死闘を繰り広げたジャックが生き別れの兄弟だと知り、疲労も相まって放心状態。
「吊るされた男」のセバスチャンは、連戦でさすがに疲れ果てた上、帰城間際に幼馴染を死に追いやった将軍に遭遇し、沈み込んでいる。
唯一、「審判」の能力者のジョナサンは新しい能力に目覚めたという明るいニュースだったが、慣れない戦闘でやはり疲労困憊。
しかし律儀な彼は、「陛下に状況報告せねば」という使命感に駆られ、公務を終えたタイミングでジュリアンの部屋に立ち寄ってくれたのだ。
ジョナサンは疲れを感じさせるものの、達成感がにじみ出ていた。
「自分も、指名を受けた時は不安でいっぱいでしたが、今となってはマディラ様の判断は正しかったと思っています」
ジョナサンを見つめるジュリアンの表情には、安心と満足感が漂っていた。
「ホント、ご苦労だった。疲れているところ立ち寄ってくれて、すまなかったね。明日は休んでくれて構わないよ。ゆっくりしなよ」
彼の言葉には労いと優しさが込められており、ジョナサンの肩の力が少し抜けたかのようで、表情もほっとした様子を見せる。
「いえ、こう申しては何ですが、この部屋で陛下とゆったり喋っている時間が、自分にとっての一番の安らぎです」
ジョナサンはそう言っては控えめに微笑み、深く頭を下げた。
ジュリアンはその言葉に驚いたように眉を少し上げ、そしてすぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「はは、何言ってんだよ。僕を褒めても何にも出てこないよ」
国王は冗談めかして言いながら、椅子から立ち上がる。
ジョナサンの動作はゆったりとしており、長い一日の疲れを感じさせたものの、その顔には確かな信頼と満足感が残っていた。
「それでは、失礼します。おやすみなさいませ」
そう言ってジョナサンはジュリアンに敬意を表して一礼し、部屋の出口に向かう。
彼が退出したのを見届けて、ジュリアンも後宮に向けて執務室を後にした。
――――――――――
二日後 トーラーの宿舎近くの中庭。
「死神」の能力者アナスタシアは、塔の戦いに出たトーラー達が帰城した当日、慌ただしくて聞けなかった色んな事を尋ねるために、城に足を運んだ。
セバスチャンとアナスタシアが、城の中庭で話をしている。
鮮やかな花々が咲き誇るその中で、二人は横並びに石のベンチに腰掛けていた。
アナスタシアは心配そうにセバスチャンの顔を覗き込み、その言葉の背後にある疲労を見逃すことはなかった。
「少しは元気になった?」
彼女の声には、どこか優しい気遣いが込められている。
セバスチャンは、深いため息をついてから微笑み、少し肩をすくめて答える。
「お陰様で、寝たら随分と体力は回復したよ。気にかけてくれてありがとう」
しかし彼女は、彼の返答に納得がいかないように、じっと彼を見つめた。その鋭い視線に、セバスチャンは少し視線をそらす。
「でも、まだちょっと元気がないみたい。……大丈夫?」
「そうかな……」
彼はぼんやりとした声で答えたが、その目には深い悲しみが宿っていた。
青年は視線を遠くに向け、記憶を掘り起こすように言葉を探す。
セバスチャンは一瞬、彼女の問いに対してどう答えればいいのか迷うように唇を噛み、ゆっくりと話し出す。
「実は、ジャックが倒れた後、別の将軍が現れたんだけど、そいつは、俺の村で幼馴染のカインを地の者に変えてしまって」
その言葉を口にした瞬間、心の奥底に押し込んでいた痛みが、再び彼の心を締め付けるようだった。
彼女は、その悲痛な表情を見て、何も言えずに彼の言葉を待った。
「俺は村を救うためにカインと戦い、彼は自害したんだ。「ゼクス様が自分の仇を討つ」って言い残して。」
彼の声は震え、遠い記憶の中で鮮やかに蘇る戦いの光景が、彼を覆っているかのようだった。
「普段はそんなこと考えながら過ごしていなかったけど、彼を思い出してしまったら、そのことばかり気になって」
彼は幼馴染との戦いで負った心の傷を、どうしても癒すことができないでいる。
アナスタシアはその言葉に静かに耳を傾けていたが、彼の痛みが自分にも伝わってくるようだった。
彼の失ったもの、戦わざるを得なかった状況、そのすべてが彼女にも伝わってきた。
「ゼクスを倒すことでカインの仇を討つという考えがある一方……本当にそれがカインのためか、分からない。」
青年は自嘲気味に笑みを浮かべ、頭を抱えるように両手で髪を掻き乱した。




