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目覚め 4

聖樹エルニド内部


「ま、こんなくらいでいいかな」

グリーンフレードム国をすっぽり覆う結界の発生源である、巨大樹の中心にあるガラス張りのような空間で、マディラは結界のエネルギー供給に来ていた。

部屋の中央にある、エネルギー供給に使用する古代の技術を思わせる装置の上には小さな光の玉が浮かんでいる。

有事でなければ、エルニドはそんなにエネルギーを使うわけではないため、だいたい10日に一度ほど、その玉に彼女のエネルギーを注ぎ込み、9割以上ストックがある状況を保っていた。

「に、してもいい天気ね」

マディラがそう言うと、「最近は眺めが良い日が続いて、ほんと気持ちがいい」と、返事が聞こえた。


後ろを振り返ると、背丈がリンゴほどの大きさの妖精が、エルニドの枝の一つに腰を掛けていた。

彼女のことを、マディラは「エル」と呼んでいる。

本人曰く、名前がないらしい。

その小さな少女は、翡翠のような深い緑色の大きな瞳を持ち、その瞳には霊木の葉が風に揺れる様子を映し出すような不思議な輝きがある。

髪は夜の月のように煌めく金色で、背中には蝶のように透けた翅がついている。

翅の先には、不識な力を宿したかのように淡い金色の光が瞬いている。

彼女の服は、霊木の葉と花びらでできたドレスのようなもので、この霊木の周辺で取れるもので綺麗に着飾っていた。


彼女は数年前、ある嵐の日の翌日にマディラがエネルギー供給に来た時に、枝の先に引っかかっているのを見つけた。

それを教えてくれたのは、実はエルニド自体だった。

なんとこの霊木は、人との会話ができたのだ。

エルは、どこかの妖精の村で住んでいたらしいけど、突風に巻き込まれて遠くのこの木まで吹き飛ばされたらしい。

それがどこの集落なのかさっぱり検討がつかないのと、妖精は元々いじめられていたので、故郷に帰る気があまりなかったらしく、以来ここに住み着いている。

マディラはこのエルニドから名前をとって、妖精を「エル」と呼び、霊木を「ニド」呼んでいた。


「ここにいると、ほんと時間を忘れそうだわ……あ、いけない」

そう、慌て出すマディラ。

「今日はティナに誘われて、この後、庭で遊ぶんだった。そろそろ行くわ」

彼女は元々瞬間移動ができたので、「記憶の羅針盤」という移動用のアイテムを使わずとも楽々と木の内部と外部の行き来ができる。

じゃあね、と妖精に手を振ると、マディラの体は透けて消えた。



――――――――――



エルニド内部から移動し、数十分後。


アルバス城内の芝生広場で、ひと組の母娘(おやこ)がボール遊びをしている。

クリスティナと遊ぶと言っても、視力が弱いと大したことができない。

マディラが大きめのボールを転がして娘がそれを拾い、思いっきり投げるのをマディラが拾ってまた渡してあげるというのを繰り返すだけだ。

何往復かはうまくいっていたが、ふとした拍子にクリスティナが予想以上に遠くに飛ばしてしまう。

ボールは、数十メートル離れた森の方まで転がっていったので、ちょっと待ってて、と娘に声をかけて、マディラはボールを拾いにいく。


ボールは、森の入り口の木の根元に偶然できた穴に、スッポリと入っていた。

マディラがボールを持ち上げると、穴の中には青銅の装飾が施された古びた陶器の壺があったが、ボールがはまったせいで割れてしまったのか、中から光が漏れていた。

なんだろう、壺がこんなところに埋まっているけど……昔ここで何かあったのかしら。しかも発光してるんだけど何が入っているのだろう?

そう思った瞬間だった。


「やっとワラワに相応しい者を見つけた……是非とも我が器となってもらおう」

そう女性の声が聞こえ、マディラの胸にその光が飛び込んできて、その衝撃で体が倒れ、彼女は気を失ってしまう。


倒れた時間はわずか数十秒だったが、10分以上だったのか……


意識を取り戻し、あれ?さっき何かぶつかった?と思いながらマディラは起き上がる。

壺があったはずの場所の穴は消えていて、そこはなんの変哲もない木の根元だった。

おかしいな……なんか一瞬夢でも見たのかな?と思い、ボール拾ってクリスティナの場所に戻り、何事もなかったかのように王妃は遊びの続きをした。



――――――――――



マディラ達は30分ほど外遊びをして自室に戻ってきたところ、侍女に背中が芝生だらけだと指摘され、少し早いが入浴をすることにし、脱衣所に行く。


そこの鏡に映る自分を見たところ、違和感を感じた。

なんだろう……と見つめていたところ、女性の声が聞こえた気がした。

(ワラワの声が聞こえるか……)と、鏡の中の自分が話しかけてくる。

先程の女性の声だ。

(ワラワはあのまま割れた壺の中にとどまることが出来ないので、そなたの中に入り込んでしまい、ここから離れることができない。

ただし、現在はただの寄生状態なので、そなたとワラワで波長を合わせて一体化しないと、そなたはワラワに生気を吸い取られて死んでしまう)


え、何それ?


「一体、あなたは何者なの?」

マディラはそう言いながら鏡を凝視し、声の主の正体を見極めようとしたところ……

恐怖のあまり背筋が凍る。

この生命体は……何かはわからないが、とてつもなく強大な力を秘めていることが伝わってきた。

抵抗したら、普通に殺されるかもしれない。


(ワラワはアテナエル。詳しい説明をするのは構わないが、それは同化した後の方が良かろう。何しろ時間がない。)

「時間?」

(そう、今こうしている間にも、そなたの体力はどんどん消耗されている。持ってあと……1週間前後だ。)


こんな時に、この強烈なオーラの恐ろしい生命体が嘘を教えるとは考えられない。

もうここは、いったん言われた通りに行動をした方が良さそうだ。

「で、一体化ってどうすればいいの?」

(この波長を感じることができるか?)

そういってアテナエルと名乗る光は、気か何かを強めに発してきたらしく、体全体で彼女のオーラのようなものをマディラは受け止める。

彼女は静かにそのオーラを感じていると、それは微かにリズムを持っており、波の強弱があることがわかった。

心臓の鼓動と同じようなものが、生命体の気にも存在しているのだ。


「わかるわ……脈打っているような、そんなイメージ」

(やはり能力者は筋がいいな。前の器もこれくらいできれば、もっとやりようがあった。

これを感じられない者は、どれだけ試しても全くわからない。

……では次に、自分自身の波長を感じてみろ。そなたくらいエネルギーが高いものなら、それが常に一定のリズムを刻んでいることが感じられるだろう)


自分自身の……?

考えたこともなかったが、アテナエルがそういうのだから、自分のものもあるかもしれない。

普通に暮らしていたら、そんな事を考えないけど……

試しに、マディラは何かの術を発動させるイメージで自分のエネルギーを高め、それを出力寸前で止めてみる。

彼女の全身が少し輝いた状態で、その気を全身で感じてみると……アテナエルの言うとおり、微かに脈打つ感じがわかる。

「あったわ……これね。トク、トク、トク……って感じで波打っている」

そう言いながら、彼女はその波の様子を口で表現してみた。


(そう、それだ。ワラワのものと、スピードや波の強さが違うだろう。だが、ずっと二つの波長を感じていると、何十回かに1−2度、重なる瞬間が出てくる。

その瞬間に、そなたの力の源と、そなたの内部にあるワラワがぶつかり合えば、一体化することができる。理論上は。)

「理論上は……」

マディラそう呟きながら、自分の波長を感じながら、アテナエルの波長を探し出す。

さっき感じたこれだ。確かに結構ズレいて、本当に重なる瞬間が来るのか……静かにその二つを感じてみる。


「あっ!」

突然声を出してしまうマディラ。

確かに、数分に一度のタイミングで波が一致したが、それはほんの一瞬の出来事だった。

「あなたの言ったことは分かったわ。一瞬、二つの波が合う瞬間は確かにある。で、その瞬間に私が自分の体内であなたにぶつかれば、いけるってことね。チャンスは結構ありそう」

そう言いながら、一度エネルギーのアイドリング状態をやめ、全身を楽にする。


もう一度気合を入れ直し、エネルギー値を高め、自分の、そしてアテナエルの波長を感じ、一致するタイミングを数回確認し……


今だ!


マディラは、自身のエネルギーを体内で集約し、アテナエルにぶつけた。

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