無と有 11
天目の塔の入り口
ニコラス、セバスチャン、ジョナサンの3人が塔に着くと、 長身で黒いローブと鎧を纏った鋭い目つきの術師リオスと、鎧を身にまとい巨大な斧を持ち鋭い笑みを浮かべた筋肉質の女戦士サラが、塔の外で待っていた。
その周りには、数十体もの不気味な地の者もこちらを見つめている。
「ほう、お出迎えいただけるとは……だが、貴様が言っていた鎧の将軍とは違ってそうだな」
そう確認を取るニコラス。
「……多分、彼の部下だ。マディラ様が捕まる時にも見かけた」と返事をするセバスチャン。
「たった3人か——」
リオスは冷静に戦況を見極め、サラはすぐに戦闘態勢に入る。
リオスが「彼らをここで止める。ジャック様に手出しさせるわけにはいかない。」と呟く。
その隣でサラは満面の笑みを浮かべ、斧を振り上げて声高に「さあ、始めようじゃないか!どちらが先に倒れるか、楽しみだな!」と言った。
リオスは地の者と呼ばれる不気味なゴブリンと連携をとりつつ影を操り、ニコラスの動きを封じるために影の拘束を使う。
ニコラスは光の魔術で対抗しようとするが、リオスの影は光の中でも形を変えて攻撃を繰り返す。
火の球、風の刃、稲妻。
ニコラスの魔術は鮮やかに敵を焼き尽くし、吹き飛ばしていた。しかし、次々と現れる地の者たちに彼の体力は次第に削られていく。
リオスは冷徹な笑みを浮かべながら、「無駄だ、お前の魔法など、私の影には通用しない」とニコラスに言い放った。
彼の声は自信に満ちており、影がまるで生き物のように戦場を這い回り、ニコラスの周囲を取り囲んでいく。
ニコラスはその言葉に内心焦りながらも、顔には冷静さを保っていた。
リオスの影の魔術が彼を縛り付けようとする度に、素早く自分の分身を展開する。
次の瞬間、彼の姿が複数に分裂し、リオスの影をかわし始める。
「影に通用しないかどうか、試してみるんだな」とニコラスの分身が口元に笑みを浮かべる。
リオスはその一言に眉をひそめ、周囲を見渡す。
影を自在に操るリオスだが、どれが本物のニコラスかを見極められない。
「この分身どもが!」リオスは苛立ちを隠せず、影の触手を伸ばし続けるが、その攻撃はすべて空振りする。分身はリオスを包囲しつつ、素早く移動している。
リオスが混乱している隙に、ニコラスは自分自身を巧妙に分身に紛れ込ませた。
「今だ……」ニコラスの目が光る。その瞬間、本物のニコラスはリオスの影の中に素早く入り込み、彼の背後を取ることに成功する。
リオスが気づいた時には、すでに遅かった。
「お前……まさか!」リオスは驚きの声を上げて振り返るも、ニコラスは静かに光の魔術を編み出し、リオスが手に持つ影を操作するための魔法コアを狙う。
「閃光の一撃!」ニコラスの声が響き渡り、彼の掌から放たれた眩い光がリオスの手元と、足元の影の中枢を貫く。
リオスの影は瞬時に制御不能となり、四方に散らばっていく。
今まで優位に立っていたリオスは膝をつき、影がその手から零れ落ちていくのを茫然と見つめる。
「くっ……ここまでとは……」リオスは呟くが、その言葉は虚ろだった。
ニコラスは冷徹な眼差しでリオスを見据え、手に光の剣を召喚する。
「これで終わりだ」光の剣が彼の魔力で形成され、輝きを放つ。
リオスは最後の力を振り絞り立ち上がろうとするが、もはや動けなかった。「やるな……だが……ジャック様……」
「貴様の影はもう俺を縛れん。さようならだ」ニコラスは躊躇なくリオスに向かい、その光の剣で止めを刺した。
リオスの体が光に包まれ、彼の姿は静かに戦場に沈んだ。
一方、サラは地の者と一緒にジョナサンとセバスチャンに猛攻を仕掛ける。
サラの狂戦士化した姿は、まるで荒れ狂う嵐そのものだった。
巨大な斧が風を切り、凄まじい音と共に地面を叩きつける度に、衝撃波が周囲に広がっていく。
彼女は炎のような赤い髪を振り乱しならが、その動きは猛獣のように荒々しく、理性を失ったその瞳は血走り、純粋な暴力への歓喜に満ちていた。
「もっとだ、もっと強く!」サラは笑みを浮かべながら叫ぶ。
その声は狂気に染まり、セバスチャンとジョナサンの背筋を冷やした。
セバスチャンは剣を構え、全身でサラの攻撃を受け止めていたが、彼女の力はあまりにも強大だった。
彼の剣は重い斧の一撃に軋みを上げ、彼自身もその度に後退を余儀なくされていた。
それでも、彼は意地で耐え続け、サラの猛攻に隙を見出そうと必死だった。
ジョナサンは剣でサラの攻撃範囲外に踏み込み、薙ぎ払うような一撃を狙った。
しかしサラは、素人同然の彼の攻撃を一瞥もせずに斧を振り下ろし、地面を割るようにしてジョナサンを跳ね飛ばす。
「くそっ……こいつ、全然効いてない!」
セバスチャンは歯を食いしばりながらサラの攻撃をかわし、魔力を盾にして彼女の斧の勢いをなんとか受け流す。しかし、その力すらも限界が近い。
サラの攻撃は彼の防御をすり抜けるかのように重く、次第にセバスチャンの体力を削っていく。
「セバスチャン!もっと距離を取れ!」ニコラスがリオスの相手をしながら戦場の端から魔法を放ち、サラの背後を狙うが、彼女はその攻撃すら気にも留めない。
ニコラスの魔法が炸裂するが、サラの狂戦士化した体は驚異的な耐久力を持ち、その暴力的なオーラが次々と攻撃を弾いてしまう。
「ちっ……魔法が効かないだと?」ニコラスは焦りを感じながらも、再び呪文を詠唱しようとするが、交戦中のリオスはその隙を与えない。
「戦う価値があるぞ!もっとだ!」サラは叫びながらセバスチャンに迫り、斧を振りかざす。彼女の一撃がセバスチャンの剣に直撃し、火花が散った。
セバスチャンは息を切らしながら、「くそ……このままじゃ持たない……」と呟く。
彼の防御は限界に近づいていた。サラの一撃一撃があまりに重く、彼の腕が痺れ始めている。
ジョナサンが再びサラに突進し、剣を振りかざすが、彼の攻撃はサラに簡単に防がれてしまう。
「くっ……!」
サラは血走った目でジョナサンを睨みつけると、「お前たちじゃ、私には勝てない!」と嘲笑う。
狂戦士化した彼女は力とスピードが極限に達しており、誰一人としてその勢いを止めることができなかった。
戦場全体がサラの暴走に巻き込まれていく中、セバスチャンとジョナサンは息を整え、再び立ち上がる。
「どうにかして、この狂気を止めないと……」セバスチャンが低く呟いた。
「そのためには、まず彼女を一瞬でも無力化するしかない……」ジョナサンは剣を握り直し、セバスチャンと共にサラに向かって再び挑む覚悟を決めた。
その時、ジョナサンはふと気づく。自分が戦場に立っていることの違和感だ。
今まで彼は、常に裏方の役割に徹してきた。
だが、目の前にいるサラの異常な姿が、彼の心の奥底に眠っていた力を目覚めさせようとしていた。
サラの力が異常に増幅していることを理解していたが、それを止める術を知らない。
「狂戦士化しているサラを止めるにはどうすれば……?」
ジョナサンは心の中で問いかけた。彼女の激しい攻撃を前に、仲間たちの防御が限界に近づいていた。




