無と有 10
大地の将軍テラと対峙する前に出会ったカラス
彼は元は人間で、タロットカードを持っていると話し始めた。
彼は知識を追求する学者で、名をアレクシス・ヴァレリアン・クロウフォードといった。
彼は常に真理や知恵を求め、自己探求をし、考古学について学び、周囲の人々に教えを授けていた。
そして彼は旅の途中で、一人の老人に出会った。
この老人は神秘的な力を持ち、アレクシスに「隠者」のカードを授け、その際、老人は「真の知恵は内にある。自分自身を見つめ、旅を続けよ」と告げる。
この言葉は彼の行動の指針となり、より知識を追求するようになった。
その後もアレクシスは古代の遺跡を探索し、彼は強い好奇心から、古代の文献に記された禁断の知識をも貪欲に欲した。
その中には、悪魔に関する知識や魔法も含まれており、彼は悪魔の存在に興味を持ち、危険な儀式や研究に手を出したことで、大臣の目を引くことになる。
ある夜、彼は大臣に声をかけられて仲間にならないかと誘われたが、国の支配や殺戮に興味がないと言ったところ、カラスに変えられてしまった。
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「その後、カラスになってから、時間を少し止めれるようになったとはいえ、鳥じゃせいぜい、時間を止めた分だけ早く飛べるくらい」
カラスは翼をバタつかせ、王妃の方を見下ろす。
「俺はこのままでは、旅をすることはできても研究ができない。今からでも大臣の配下になれば、人間に戻れるのかな。どう思う?」
彼は翼で顔をかくような仕草をし、ため息のような鳴き声を漏らす。
「大臣に出会う前にカードに選ばれてるから、そういう選択肢にはならないと思う」
マディラは、カラスの質問に対する答えに確信を持っていた。
そしてもしも人間に戻れば、このカラスが持つトーラーの力が、彼女たちの戦いを有利に進める手助けになるのではないかと考え始めた。
「あなたの姿を戻す方法を見つけるわ。私たちが協力すれば、大臣に立ち向かうことができるかもしれない。」マディラの声は力強く、希望を持たせる響きがあった。
カラスは王妃の言葉に目を輝かせ、頷いた。
「俺の願いを聞いて、結界をなんとかしてくれたあんたを信じるよ。共に戦えば、俺の姿を取り戻すことができるはずだ。」
彼の言葉は、彼自身の運命を取り戻すための強い意志を示していた。
「一つお願いがあるのだけど——」
彼女の要望を聞き、カラスは再び大空に飛び出して行った。
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小さな宿場町、テナンクリーにてジュリアンが手配した馬にまたがり、テーブルランスにある天目の塔に向かうニコラス、セバスチャン、ジョナサン。
その道中は沈黙をしていた3人だが、休憩中に誰ともなく話し始めた。
「貴様は力不足だと思うが、本当に王妃を助けに行く気があるのか?ただ突っ立っているだけではあるまいな」
ニコラスがセバスチャンに挑発的に言ったが、彼の声には冷たさが漂い、明らかに信頼していない様子が見て取れた。
「もちろんですよ。王妃を救うのが俺たちの役目でしょう?」
セバスチャンは、ニコラスの挑発に対抗するように答えたが、その口調にはわずかな緊張があった。
「あなたはどうなんです?」と聞くセバスチャンに、ニコラスは鼻で笑い、「俺は王妃からの熱い信頼があるから選ばれた。」と言い放った。
ジョナサンは、ニコラスとセバスチャンの言い争いを静かに見守りながら、心の中で不安がさらに増していくのを感じていた。
果たして、自分は本当に役に立てるのだろうか。この作戦が成功するかどうか……心配だな……
彼は口に出さずに思ったが、その顔には緊張の色が隠せなかった。
それに、自分がいない間、公務は大丈夫なんだろうか。
陛下との別れ際、自分が不在時の公務の予定を話そうとしたところ、「こっちは大丈夫だから、マディラを救うことに専念して。彼女の要望であり僕からの命令だよ」
と言って見送られたが、果たして役立てるのか。
「マディラ様から説明はなかったそうだけど、俺たちが選ばれた理由は、ニコラス様は強い魔力があるし、俺はきっと汚名挽回の機会を頂いた。そしてジョナサン殿は国王夫妻に近い存在だからですよ」とセバスチャンが話を戻した。
「だから、俺たちの行動がそれぞれ鍵を握っている。あなたもそう思うでしょう、ジョナサン?」
「あ、ああ……そうだと思う。だけど、俺は戦闘経験が……」ジョナサンは言葉を詰まらせ、目を伏せた。
ジュリアンがいつか、赤の世界に比して緑の世界の者が弱いのは、力を使う経験が乏しいからだと言った。
彼の魔法や結界の威力を思い出し、生まれ持った能力もさることながら、陛下は一体どんな経験をしてあの能力を身につけたのだろう、と思いを馳せる。
自分に対し、未経験からいきなり将軍クラスを相手だなんて、無茶振りにも程があるのではないか。
「もし足を引っ張ったら……」そうジョナサンは呟くのが精一杯。
自分がニコラス、セバスチャンの足手纏いになってしまうのではないかという思いが、彼の心を締め付けた。
「あの……、俺は戦いで何が起こるか皆目見当が付かないので、何か助けになれることがあれば教えてほしい。」
ニコラスは振り返り、少しばかり同情的な表情を浮かべ、「安心しろ、俺たちが守る。」と声をかける。
「心配しないで。あなたの役割はきっと王妃を守ることだ。あまり考えこまないで。」
と、セバスチャンもジョナサンを励まそうとしたが、ニコラスが口を挟んだ。
「貴様が心配しなくていいのは、あくまで王妃に直接接触する必要がないからだ。
後ろで見ていて、最悪の事態には、またすぐに逃げられる位置にいるだけだろ」とニコラスは冷淡に言った。
セバスチャンはムッとした顔をするも、ニコラスの言葉に反応せず再び先を見つめ、心の中で、王妃を救出するために選ばれた本当の理由は何かを考えていた。
ジョナサンは、戦闘初体験で二人の足を引っ張らないか不安で仕方がなく、自分の考えを口にする。
「恐らく、鎧の将軍は強い。しかも、俺たちが対戦したことがない相手だ。作戦を立てないと……どう戦えばいいんだろうか……」
それを聞いて、セバスチャンが答える。
「俺の魔力を反射する能力が、あの鎧の将軍の攻撃に対抗できるかもしれない。だけど、彼の速さと力を想像すると……通用するか心配だ。
それでも、王妃を助けるために戦うんだ。俺たちが協力しなきゃ意味がない。」
彼はそういうも、ニコラスの視線に押しつぶされそうになった。
「貴様が戦うのはいいが、余計なことをして、足を引っ張るようなことはするなよ。」
ニコラスの言葉には威圧感があったが、セバスチャンはそれでもジョナサンに冷静に意見を述べた。
「俺の反射能力を活かせば、彼の攻撃を逆手に取ることができる。あなたは僕たちのサポートをしてもらえれば。」
ニコラスはセバスチャンの言葉を遮るように言う。
「貴様は自分の力を過信するな。鎧の将軍は俺たちが想像している以上の力を持っている。互いに連携し、冷静に行動しないと、全員が危険に晒される。」
ジョナサンは、二人の言葉を聞いて、心を決めた。
「俺は回復役として、できる限りのことをする。もし何かあったら、すぐにあなた方を助ける!」
セバスチャンはその言葉を受けて頷いた。「ええ、共に戦いましょう。王妃のために、そして俺たち自身のために。」
そう、声を掛け合いながら、この戦いの行く末がどうなるか、誰もが不安を抱えながら塔へ向かっていた。
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「——ええ、そう。ありがとう」
マディラは、しばらくして戻ってきたカラスにお礼を言う。
どうやらジュリアンにお願いした通り、トーラーが3人で、こちらに向かっているらしい。
馬で来るなら、もう1時間ほどで到着する。
「運命が、動き出す——」
塔の窓から遠くを見ながら、そう彼女はつぶやいた。
その姿は、塔の様子を探るために暇だと無邪気に騒いだ少女の顔でもなく、親身になってカラスの相談を聞いていた表情でもなかった。
何か達観したような、未来を見据える人を超えた存在のようだった。




