無と有 4
エルニドの麓の森の中
道に迷ったマディラ達の前に一羽のカラスが現れ、話しかける。
目的地への道を教える代わりに何かして欲しいらしい。
カラスの目がきらりと光り、不気味な笑みを浮かべるようにくちばしを開いた。
「森から少し離れたところに、ある地下神殿があるんだ。そこの結界が強くて、俺じゃ中には入れない。
でも、あんたなら……その不思議な力で、結界を破ることができるかもしれない。」
アナスタシアが、緊張した声で口を挟んだ。
「地下神殿って……それは先日の悪魔の住むと言われている場所じゃない?」
カラスはくるりと彼女に視線を向け、軽く羽をはためかせた。
「その通りだ。そこには悪魔や、親玉の大臣が住んでいる。あんたがその神殿の内部に侵入できるようにしてくれれば、集落への道を教えてやる。悪い取引じゃねえだろ?」
王妃はしばし沈黙し、じっとカラスを見据えた。その後、冷静に返事をした。
「私はその取引を受けるわ。だけど、彼らは集落へ向かう。集落の状況を確認するために急ぐ必要があるから。」
カラスはにやりと笑い、軽く翼を広げて飛び回りながら答えた。
「構わないさ。あんたは俺と一緒に来て、あの神殿の結界の一部を無効化するだけでいい。他のことは心配するな。集落の道は、今教えてやる。」
そう言いながら、一番森に慣れていそうなガロスの肩に飛び乗り、いくつかある小径の分岐点でどっちを選べばいいかをカラスは教える。
王妃は部下たちを見つめ、毅然とした表情で指示を出した。
「あなたたちは集落へ向かって、状況を確認して。私はこのカラスと神殿に向かうわ。」
セバスチャンたちは心配そうな表情を浮かべたが、王妃の命令に従ってうなずいた。
「必ず後で合流しましょう、マディラ様。」
王妃は静かに微笑み、「大丈夫、私はすぐ戻るわ」と言い残して、カラスとともに森の奥へ足を踏み入れた。
――――――――――
「げ、まじか、あのカラス。まさか真正面に出てしまうとは」
ガロスは狼狽えたように呟く。
マディラが戻ってくるまで、森の中で将軍や地の者の様子を観察しようと思ったのに、突如森を抜けてしまい、すぐさま怪しいゴブリンたちが集落で3人を見ながら大騒ぎをしている。
お陰で、将軍テラと思しき大男がゆっくりと彼らに近づいてくる始末。
森に逃げたところで勝ち目があるわけもなく、意を決してガロスは集落に近づいていった。
テラは険しい表情を浮かべ、堂々とガロスの前に立ちはだかる。
ガロスも大きいが、将軍は彼よりも一回りも大きく、そして声は低く、雷鳴のように響き渡る。
「なんだお前らは。ここに近づく者は、容赦なく倒すだけだ。」
その言葉が終わるや否や、3人を脅すように大地が大きく揺れ、元あった地割れがさらに広がる。
ガロスは足元を確かめながらも、将軍の恐ろしい存在感に一瞬圧倒された。
だが彼の目には怯えの色はなく、逆にその威圧感を跳ね返すかのような鋭い光が宿っていた。
将軍は大地の力を宿した槍を振りかざし、巨大な岩を跳ね上げながらガロスに向かって突進する。
その勢いはまさに嵐のようで、ガロスも一歩引きそうだったが彼は踏みとどまり、巨斧を構えてその猛攻を迎え撃つ。
斧と槍が激しくぶつかり合い、鋭い金属音が辺りに響き渡った。
衝撃で風圧が生まれ、周囲の砂埃が舞い上がる。ガロスは全力で斧を振るい、テラの槍を受け止めたが、そこに込められた大地の力の重みは想像以上だった。
「まだまだだ!」
ガロスは叫びながら、もう一度力を込めて斧を振り下ろした。
しかしその瞬間、将軍は槍を横に振り抜き、斧の刃の付け根を正確に叩きつけた。
ガキンッ――!
不吉な音が響き、ガロスの斧の刃に亀裂が走った。さらに将軍の追撃の一撃が加わると、亀裂は一気に広がり、斧は刃と柄の部分で真っ二つに割れてしまった。
ガロスは目を見開き、信じられない様子で破壊された武器を見下ろした。
「なんだと……!」
一方、将軍は冷徹な笑みを浮かべながら一歩前に出る。
「その程度か。お前の力は斧と共に消え失せた。」
彼は壊れた武器を放り捨て、拳を固く握りしめた。斧を失ったガロスだったが、彼の目の鋭い光は消えない。
「道具がなくても、俺の拳はまだあるぜ。」
言葉と同時にガロスの体が低く構え、次の攻撃の準備を始める。
将軍もまた槍を構え直し、大地の力をさらに蓄えていく。
槍を高く掲げ、地面を力強く打ち据えた瞬間、周囲の大地が割れ、巨大な岩と倒木がさらに散乱する。
地震のような揺れが戦場全体を襲い、ガロスの足元も揺らいだ。
ガロスはその揺れに耐えながら、動きづらい地形をものともせず、冷静に将軍の動きを見極める。
そして、自らの拳を地面に叩きつけることで、将軍の足元に衝撃を与えようとした。
だがその瞬間、テラは再び槍を振り上げ、大地の力をさらに強めた。
衝撃は大地に吸収され、ガロスの攻撃は無力化された。
「この大地は俺の味方だ。お前に勝ち目はない。」
将軍テラは大地を激しく操りながら、自分の優位なポジションをとってガロスに突進する。
そこに、飛びつく地の者を振り払ったセバスチャンが、手のひらに魔力の盾を作り出した。
「少しでもあの揺れを抑えないと。」
将軍の力で発生した地割れや揺れが迫ると、彼は即座に反応しその魔力をテラに跳ね返すも、テラはその衝撃を槍で捌く。
「ありがとう、助かったわ!」
セバスチャンのお陰で歩きやすくなったアナスタシアは、すぐにガロスのところに駆け寄り、癒しの力をその手に宿らせた。
「あなたなら、まだ耐えられるわ。傷も浅い……まだ戦える!」
ガロスは拳を握りしめた。
「ああ、そいつはありがたい!」彼は鋭い目で将軍を睨みつける。
「お前の地面を操る力は厄介だが、俺にはこの二人がついてる。それに、まだ俺の本気を見てないだろう?」
将軍は一瞬、目を細めて彼らのチームワークを見定めたが、冷笑を浮かべた。
「仲間がいても、地が揺れればお前ら全員動きが鈍る。逃げ場はないぞ。」
「俺たちはまだ倒れねえ、地面がどうだろうと、俺の拳は貴様に届くんだよ!」
ガロスは全力で拳を振り上げ、将軍を倒すべくさらに一歩を踏み出した。
将軍と地の者がガロスたちを包囲し、大地を武器として次々と攻撃を仕掛け、彼の声が再び戦場に響き渡った。
「大地そのものがお前を拒む!逃げ場はない!」
その言葉と同時に、地割れが広がり、彼らの足元を崩すように迫りくる。巨大な岩が空中に浮かび上がり、ガロスに向かって投げつけられる。
彼はその迫力に圧倒されそうになるが、驚異的な反射神経で間一髪で岩を避けたり、拳で砕いて応戦した。
さらに、ガロスは戦場を冷静に見渡し、倒木や岩を巧みに利用しながら、将軍の力に対抗するための工夫を凝らしていた。
「単なる力勝負じゃねぇな……だが、お前の地の力だけには負けない!」
ガロスは息を切らしながらも、鋭い目で将軍を睨む。
一方、セバスチャンは魔力を跳ね返そうと何度も試みたが、将軍の力が地面に潜り込むたびに、彼の術の効果を失っていた。
「くそ、タイミングが合わない……」
彼は焦りを感じながらも、仲間を守ろうと必死に魔法を繰り出し続けたが、否応なく剣で、ガロスの傷を時折回復させるアナスタシアを守る役目に終始してしまう。
戦いの中で、ガロスは新しい感覚を体内に感じ取った。
彼の拳に力が集まり、周囲のエネルギーが集約させる。
「これが……俺の新しい力だ……!」
ガロスは両掌を地面に向けて、強力なエネルギー波を発生させた。
それは波動と呼ばれる技であり、彼の肉体的な力だけでなく、周囲の自然のエネルギーをも利用する技だ。
波動が地面に伝わり、将軍の作り出した地割れを打ち破る。
揺れが止まり、大地の力が封じられていく。将軍はその様子に驚きを隠せなかった。
「何だと……そんな力を隠していたとは……」将軍の顔に一瞬の焦りが浮かぶ。
ガロスは主導権を取り戻し、さらなる波動を放とうとしたが、将軍もまた黙ってはいなかった。
彼は大きく槍を振り上げ、大地そのものを揺るがすほどの力を放出する。
「大地よ、すべてを飲み込め!」
テラの力で大地がうねり、巨大な地の波がガロスたちに襲いかかる。
木々が根こそぎ引き抜かれ、林が崩壊するかのような破壊力がそこにあった。
だが、ガロスは一瞬の躊躇もなかった。彼は全力で掌を地面に叩きつけ、波動の力を全開にする。
「お前の力は俺が止める!」
彼の掌が地面を打つと、波動が大地を逆に揺らし、将軍の巨大な波動と相殺された。
激しい衝突が起こり、二つの力がぶつかり合った瞬間、戦場が一瞬の静寂に包まれた。
波動のエネルギーがこもった掌がテラの胸に向けられ、彼の体は巨体にもかかわらず後方へ吹き飛ばされる。だが彼はその波動に耐えていた。
「ふ、やるな……だがこれはどうだ!」
テラの連続攻撃が始まった。今まで3人の実力を測るために手を抜いていたのだ。




