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目覚め 3

――――――――――


自分の生きている価値がわからなかった

親にも疎まれ、育ての親から虐待を受け、夫や周りの人間はきっと自分を利用しようとしている

ただ、生まれた来た子供は、愛情いっぱい育てれば、きっと自分のことを愛してくれる

そう思い、フレデリックを特別に思っていた

この子だけは、と


だが、その希望も虚しく、彼はどこかに行ってしまった


今後数百年、死にたくても死ねない自分

どんなに足掻いても、誰も自分を殺すことができない絶望

もう、何もかもがどうでも良かった


3食ちゃんと食べないと、周りが騒ぐので空腹でもないのにとりあえず食べる

時折呼ばれた気がして、エルニドの結界を見にいく

絶望の中、一日何もする気がなく、日中はただ座って過ごし、決まった時間にベッドに横になる

あと何十万日、こんなことをして過ごすのだろう


布団に入っていると、何かが自分に話しかける

だが、その日一日、何が起きたかなんて、どうでも良かった


ごくたまに、体の奥に温かいものを感じる

それについて、反応を示すことも出来た

だけど、それをして何になるのだろう?

もう傷つきたくない、何かに心を動かされたくなかった

そう思うと、全てがどうでも良かった


多くの人から、彼女は気が触れたと言われていた

しかし、意識はしっかりしていた

ただ全てに関し、鈍感でいたかった、何も感じたくなかった



――――――――――



後宮内 一の間 寝室


ある明け方、ベッドの中で突然目を覚ますマディラ。

辺りは薄暗い。夜ではなさそうだが、目覚めるにはまだ早い。

自分で、なぜこんな早くに目が覚めたのか不思議だったが、その時、一瞬部屋が明るくなる。

そして20秒ほど後に、遠くでドーンと音がすることを、何度か繰り返す。

多分、雷の音か光で目が覚めたのだろうと思う。

10分ぐらい、その音と光を感じていただろうか。その間、どんどん光と音の間隔が狭まり、音が次第に大きくなる。


バババッ


室内がフラッシュが走ったように一瞬明るくなり、より近くで落雷の音が聞こえたと同時に、彼女の体中に衝撃が走り、風翁との戦いの後の雷を連想させ、昔の記憶が走馬灯のように走り抜ける。


小学校で彬に術を見られたこと、ずぶぬれで帰った時に本気で怒られたこと、蒼がキスをしたこと、数名に囲まれて見知らぬ屋敷で尋問されたこと、風翁と彬が対峙したこと、そして、雷が鳴る中で抱き合っていたこと——


周りから見れば、私を利用するために彼は傍にいるように見えるかもしれない。

だけど、当人同士にしかわからないこともある。

どうして私は、いつから彼を信じれなくなったのだろう。  

フレデリックがいなくなり、燃え盛る炎の中で自分の身を賭して守ってくれたことを思い出しながら、隣で寝ていたジュリアンの頬にそっと触れた瞬間、彼を起こしてしまう。


「……どうしたの……」眠そうに彼は反応をする。

「あなただったのね、雷の夜、一緒にいたのは……」

隣にいる妻にそう話しかけられるも、直前まで熟睡していたので、再び眠りそうになりながら、ジュリアンはすぐに少しだけ思考を開始する。


雷の……夜……


ああ、あの事か……としばらくしてから思い当たり、そしてまた眠りに落ちそうになり、朦朧とする意識の中で、彼女のその発言が何を意味しているか、彼は考えをめぐらす。


そして、ジュリアンは彼女の体に腕を回し、安心したように微笑んで、そっとつぶやく。

「思い出したんだ……」

マディラは、そんな彼の反応を見て、同じように彼の体にそっと手を乗せる。

そうして、お互い微笑みながら目を閉じ、安堵の中、お互い相手のぬくもりを感じながら再度眠りに落ちた。



――――――――――



自ら封じ込めていた記憶を、マディラは取り戻した。

ずっと欠けていた彼女の一部がはまった事で、その日を境に、フレデリックがいた頃のようないつものマディラに戻り、公務にも徐々に参加できるようになった。

その上さらに彼女に変化が起きていた。


以前のように、ジュリアンに対し、「英知殿は何を企んでいるの」と言わなくなった。

人間界にいた頃のように、自分を信頼してくれるようになったように感じる。

気のせいかもしれないが、ふとした瞬間に、マディラは自分からジュリアンに腕組みをするなど、ちょっと甘えたり愛情表現をしてくれるようになったし、より一層絆が深まったと感じていた。

もう、自分は愛されていないとか、愛される資格はないと言った発言もしなくなったように感じた。


そんなある日、二人目が授かったのだ。



――――――――――



そういった経緯があるので、ジュリアンにとって余計に、今、目に映るこの光景が宝物のように愛おしく思える。

親子3人、まさに穏やかな日々を過ごしており、この平和がずっと続けばいいと考えている。

クリスティナは生まれつき視力が弱いが、断片的に未来を見通す力があるようだ。

まだ幼いので、今後どのような力が開花するかわからないが、視力向上のトレーニングをしつつ成長を見守れたらと思う。

彼女は将来王家を継ぐかもしれないし、神職に進ませるかもしれない。

そんなことは、もっと先に考えればいい。当分は自分が職務を遂行すれば良いのだから。


マディラと出会ったのち、彼女の事を意識し始めて最初の3年、自分の気持ちを押し殺そうとしていた。

だけど1分1秒でも長く彼女の笑顔を見ていたい、そのための覚悟を決めたものの、身から出た錆で信頼を得られなかった。

あの当時は、自分の浅はかな行動で子供を授かったことで、かえって両家に根回しをする時間がなくなり、後でその代償を払う覚悟で強引に移住をしたが——

不運にも子供が行方不明となり妻が心を閉ざしてしまった後、さらに数年を経て、やっと掴んだ幸せだった。

いつか、彼女と剣を交える日が来ることは分かっている。

だけど今は、1日でも長くこの穏やかな日々が続けば、と願っていた。


人間界での嵐の日の夜。

「今はただ、ぬくもりがほしい」

彼女はそう言ったけど、あの瞬間の話をしていたわけではないと思う。

家族や、好意を寄せてくれたと思っていた友達から裏切られ、それでも誰かからの愛情を必要としていたのではないかと。

ただ、当時の自分はその後の責任を取れないことを知っていたのに、抱きしめてしまった。

あれがあったからこそ今があると思うと同時に、あの行動は間違っていたのではないか……そう思う時もある。


「ジュリ?」

はっと気づいたら、マディラが少し傾いてこちらを覗き込み気味に自分の顔を見つめていた。

「どうしたの?深刻そうな顔をして」

いつの間にか、深く思考を巡らせていたらしい。

「大したことないんだけど……、昔のことを少し思い出していて」

そう言いながら暫しの間、ジュリアンは思案し、言葉を続ける。

「僕は、君に温もりをあげられているのかな……?って、思って」


自信がなかったわけではない。逆に、今考えていたことを「なんでもない」と言って声に出して伝えないような間柄でもないなと思い、彼はあえて聞いてみた。

ふふ、と微笑みながら、テーブルの上に置いていたジュリアンの手に自分の手を重ねながら

「うん」と、小さく返事をするマディラ。

お互いに、見つめ合い、微笑みあう。


一分一秒でも長く、君の笑顔を見ていたいから

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