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交わり 10

山の麓の食堂で


マディラとジョナサンは昼食を共にしていたが、この組み合わせはとても珍しく、会話が弾まなかっただけではなく、彼女は「あなたの言うとおり、私は王妃の座にいるべきではないのかも」と気弱な発言をしていた。


王妃の声には疲れがにじみ、彼女の肩は微かに落ちていた。

目の前の食器や広々としたテーブルさえも、彼女には冷たい存在に思えた。

ジョナサンは眉をひそめながらも、冷静に返事をした。

「何を突然。あなたじゃないと、陛下を守れないでしょう」

彼の声は低く、しかし確信に満ちていた。彼女が国王のそばにいることが、この国の安定を象徴しているという信念があったからだ。

王妃は小さく笑ったが、その笑みはどこか空虚だった。

彼女の瞳は相変わらず遠くを見ていたが、彼の言葉を聞くと、ふと顔を上げた。

彼女は短く頷き、肩をわずかに震わせながらつぶやいた。

「あぁ、そうね。自分を見失っている場合じゃないわね」

王妃はゆっくりと姿勢を正したが、その動きにはまだ重さが残っていた。

彼女の顔には決意が戻りかけているものの、その心の中にはまだ解消されていない不安が漂っているのが彼には分かった。



――――――――――



昼間に、そんなやりとりをマディラとしたことを、陛下に報告をしても、この青年にする義理はないとジョナサンは判断をする。

その代わり、セバスチャンは何か言いたげだったので、ジョナサンは会話を促す。

「報告漏れの事項でも?」

「あ、いえ、報告すべきことではないとは思いますが」

躊躇いながら、彼はジョナサンに、アナスタシアが呟いていたことを話す。


「彼女は言ったんです。「ある霊が言葉を残していました……『自分たちが正しいと思うな。大臣ではなく、王妃に入り込んでいる、1000年前の魂こそが国を滅ぼす原因を作っている』」と。その言葉に衝撃を受けてしまって」

セバスチャンは緊張した面持ちで言葉を紡ぎながら、ゆっくりと手を握りしめていた。

彼の声は落ち着いていたが、その瞳には深い動揺が浮かんでいた。窓から差し込む月明かりが、彼の表情を淡く照らし出していた。


アテナエルの復活で、マディラに新たな力が芽生えたことはセバスチャンも聞いていた。

国の未来が明るいものになる、自分はその手伝いをしているのかと思いきや、そうとは限らないではないかと、彼は思い始めていた。

ジョナサンは、黙ってその言葉を聞きながら、鋭い目つきで彼を見つめていたが、その表情は変わらず冷静で、まるでその言葉がもたらす意味を即座に理解していたかのようだ。

セバスチャンは視線を落とし、再び口を開いた。

「あの場で、アナスタシアが聞いた言葉の真偽の程を、マディラ様には聞けなかったけど、いつか確かめたほうがいいのでしょうか」

その声には、明らかな不安がにじんでいた。彼の心は葛藤で揺れていた。

もし、その霊の言葉が真実なら、彼が今まで信じてきたものが根底から崩れてしまう可能性があった。


彼は続けた。

「僕たちは、国を守るために、良いことをしているのではないのだとしたら……」

重い沈黙が続いた後、セバスチャンは再び口を開いた。

「俺たちは、アテナエルが何者かを正確には知らない。大臣と同じように、1000年間壺の中に封じ込められていたらしいけど、誰が、どうして彼女を「封じ込めた」のだろう」

その言葉は冷静でありながらも、深い洞察力を持っていた。


そこまで聞いて、ジョナサンは一瞬、遠くを見つめるように目を細め、どこか昔の記憶を辿るように口を開いた。

「陛下は、アテナエルが何者か、心当たりがあるようだった。」

彼の声は低く、静かに廊下の空気に溶け込んだ。彼は一瞬、セバスチャンの方へ視線を送ったが、その目には冷たさがあった。

「貴方はあの場にいたから知っていることと思うが、俺は陛下に一生を捧げると誓っている。」

セバスチャンは、彼の言葉を聞いて、頷く。

偽国王の騒動の時のジュリアンの言葉からも、ガロスやスターリングの顔合わせの時のマディラの発言からも、ジョナサンは国王に心酔していることが窺えた。

「各トーラーが何を信じてマディラ様に忠誠を誓っているかは知らない。

しかし俺は陛下の、アテナエルと同化した王妃を支えろという命にしたがって、彼女を支えているだけだ。

だから、俺にとって、アテナエルが何者でも関係ない」

セバスチャンは、ジョナサンのその冷静な態度に圧倒されるように、静かに彼を見つめる。

廊下に漂う緊張感は薄れることなく、彼の胸の中で重くのしかかっていた疑念が、再び膨れ上がった。

しかし、ジョナサンの確固たる態度を前に、彼はその不安を口に出すことができなかった。


ジョナサンが続ける。

「もしも、陛下か王妃、どちらか選べと究極の選択を迫られたら、俺は迷いなく陛下を選ぶ」

外では、風が静かに揺れ、月光がますます部屋を照らし出していた。

「ま、俺は入国時から二人を知ってるけど、あの二人は本当に仲がいいから、敵対する日なんて来ないと思うけどな。と言うわけで、俺は王の執務室に戻るよ」

そう言って、ジョナサンは王宮へと消えていく。


ジョナサンが信じるものが陛下であれば、自分はやっぱりマディラなのだろうと、彼の背中を見送りながらセバスチャンは思った。



――――――――――



地下神殿


闇の将軍はセバスチャンとニコラスの連携に苦しみ、闇の中で傷を負った体を隠しながら撤退するしかなかった。彼は影の中に吸い込まれるように消え、どこにも痕跡を残さなかった。


闇の世界を通じてノクスが辿り着いたのは、地下深くに隠された神殿。

そこは地の者たちが支配する暗黒の領域であり、薄暗い光がかすかに神殿を照らしていた。

闇の将軍はその中央に鎮座する大臣の玉座の前で膝をつき、頭を垂れる。彼の姿は疲弊し、傷口からは影のような黒い煙が漂っている。

「閣下、地の者の餌である、人々の不安を多くを回収いたしました。しかし……城下町の占拠には……失敗いたしました。」

彼の声はかすれ、痛みに耐えながら報告をした。


玉座に座る大臣は冷たい目で彼を見下ろし、その手で軽く指を動かした。周囲に流れる空気が重く、圧倒的な存在感が神殿全体を支配している。

「餌の回収は評価しよう。だが……城下町の占拠に失敗したことは、容認できん。計画に遅れが出る。」

その声は深く低く、闇そのものから響いてくるようだった。大臣の言葉は闇の将軍の心に重くのしかかる。

「テラと、ジャックに命じる。城下町は今、警戒が厳しいであろうから、少し離れた場所でそれぞれ活動を始めろ。そして……ノクス、貴様には国王の暗殺を命じる。」

玉座から遠い出入り口で控えていた、巨体の将軍と、鎧甲冑に身を包んだ将軍が、大臣の指示を受けて短く返事をし、退室する。


ノクスは顔を上げ、その命令を静かに聞き取った。彼の傷ついた体には重いが、それでも任務は遂行しなければならない。

「は……承知いたしました。」


次の瞬間、玉座の脇に立っていた仮面の男が冷笑を浮かべ、皮肉めいた声で言い放った。

「まあまあ、よくやったと言えるんじゃないか?

無能にしては上出来だろうが、次の任務、ちゃんとこなせるのか?

俺は一度、王を仕留めているから、やり方を教えてやってもいいぞ」

その言葉は明らかに嘲笑的であり、ノクスの怒りを煽った。

しかし、仮面の男は自分と互角かそれ以上の実力の持ち主。彼は反論する余裕もなく、ただその場に膝をついて耐えるしかなかった。

命令を受け、彼は再び闇の中へと溶け込み、姿を消した。

ノクスにとって、この次の任務はただの「暗殺」ではない。

それは彼の誇りと存在を懸けた、最後の戦いの始まりを意味していた。

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