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交わり 7

山のロッジの前で泣き崩れるマディラと、それを見守るジュリアン。


時間にして四半刻、落ち着きを取りもどしたマディラと一緒に、ジュリアンは元の狩場に戻ってきた。

一応馬に一人で乗らせて、元いた場所に連れ帰ってきたが、彼女の脳裏には未だクローヴィスの事が離れていないらしい。

笑顔はなく、話しかけても上の空で、とてもではないが、狩りの参加者と歓談できる精神状態にはなかった。


ジュリアンは、侯爵の使用人の一人に声をかける。

「用事があって沢の近くの小屋に行ったが、鍵が壊れていたようだよ」

「そうでしたか、あそこは管理人の作業場だから貴重品はないはずです。大丈夫だと思いますが、管理事務局に伝達しておきます。教えていただきありがとうございます」

マディラが壊したにも関わらず、お礼を言われてしまってちょっと複雑な気分になるジュリアン。

鍵を弁償したいのは山々だが、そうするとなぜマディラが鍵を壊してまで室内に侵入しようとしたかを説明する羽目になるので、それを避けたかった。


「陛下、どうされましたか」

しばらく姿が見えなかったジュリアンをやっと発見し、声をかけるジョナサン。

「心配かけてすまなかった。申し訳ないけど、この後の茶会は急遽出れなさそうだ」

「え」

ジュリアンは、困惑したジョナサンの顔を見つめながら指示を出す。

「ちょっと彼女が気分が悪くなったらしくて。申し訳ないけど、茶会のキャンセルの手筈と、彼女と先に麓に降りて、馬車に乗せておいて。」

ジョナサンは一瞬、眉をひそめるが、彼の態度にお構いなくジュリアンは話を続ける。

「君は一足早く城に戻り、早く戻ることになったと伝えてほしい。僕は今から狩りに合流し、終了したらすぐに麓に行く。」

返事がないまま、無言でため息をつくジョナサン。またお妃様の非常識が始まったと言わんばかりだ。

「言いたい事はわかるけど、仕方ないだろう。僕としては、あの状態でそのまま茶会に出席させるよりはマシだと思うけど」

そう言われ、ジョナサンが彼女の方をチラリと見ると、確かに深刻そうな表情をしており、自分が話しかけても、まともな会話が成立するか怪しい雰囲気を醸し出している。

「仰せのままに」と、諦めたようにそういい、ジョナサンは気遣うようにマディラの方へ行き、二人でその場を離れる。


ジュリアンにしてみれば、ため息をつきたいのはこっちの方である。

何せ、妻が猛スピードでどこかに行ったかと思えば、たどり着いた先は他の男と相引きした現場で、挙げ句の果てに「彼に会いたい」と泣いている姿を見てしまったのである。

が。

いまいち釈然としない。

この山は、少なくともここ数百年は侯爵家の持ち物である。

またマディラは移住後、自分が把握しない城外の遠出はしたことがなかった。アテナエルに出会うまでは。

ということは、馬車で小一時間ほど離れた、この他人の領地で、自分の知らないところで誰かと会うなんて、通常の手段ではあり得ないのだ。

念の為、オークウッド侯爵に、クローヴィスという人物を確認したが、残念ながら卿の部下や使用人に該当者はいなかった。


帰りの馬車で、マディラは車窓を眺めてばかりで、車内では一言も発することはなかった。

帰城後、使用人が客車の扉を開けたので、ジュリアンが先に降りてマディラをエスコートして馬車から降ろす。

彼女は沈んだ顔で、ジュリアンの方を見ず「さっきはごめん。小屋でのことは忘れて」と言いながら一人でスタスタと歩いていく。

数歩歩いたのち、一瞬足を止めて、「彼は、私が殺したから」と言葉を続け、彼女は足早に後宮に入ってしまった。



――――――――――



マディラたちが山から帰宅しているころ


教会からほど近い路地裏で、セバスチャンとニコラスは、アナスタシアと待ち合わせをし、話し合いをしようと集まっていた。

その時、異様な気配を感じ取る。まだ日没前だというのに辺りは静まり返り、まるで時間が止まったかのような不気味さが漂う。

三人は、霊たちが集まる場所となっている地下へと足を踏み入れた。

城下町の地下は迷路のように広がっており、重苦しい空気が漂っている。


「……ここだ、何かがいる。」

セバスチャンの言葉が終わると同時に、暗闇の中から影のような存在がゆっくりと現れた。彼らの前で突然、影が揺らめき始めた。

不気味な闇の光が現れ、空気が急に冷たくなる。突然、黒い影が集まり、その中心から異様な存在が姿を現した。

そして、その影から徐々に姿を現したのは、街を恐怖に陥れている悪魔——影を操り、暗殺や隠密行動に秀でた存在だった。

薄暗い通路の奥で、ついに黒い霧を纏った闇の将軍、ノクスが現れたのだ。

ニコラス「これが……影の悪魔か!」


ノクスはゆっくりと姿を顕わにし、その冷たい目で3人を見据える。

悪魔は彼らの足元に伸びる影を操り、まるで生き物のように彼らを捕らえようとしていた。

色んな霊を見てきたアナスタシアが「気をつけて!これは普通の亡霊ではないわ……!」と注意を促す。


セバスチャンが「来たぞ、警戒して!」と言い終わるや否やノクスはまるで闇そのものから形を成すかのように姿を現し、長い影を纏いながら不気味に笑う。

亡霊たちがその周りを取り囲み、三人に襲いかかってくる。

同時に、低身長で、曲がった背中と歪んだ四肢を持つ、邪悪なゴブリンのような生物が十体ほど現れる。

彼らの肌は土や泥にまみれた灰色で、目は深い闇に吸い込まれるような黒い輝きを放っている。

地の者だった。


セバスチャンはすぐさま前に出て、防御態勢を整えた。

彼はこれまで剣をロクに扱うことはなかったが、城に住むようになり、マディラの手配で城の騎士から基礎を教えてもらって、これが初めての実戦だった。

ニコラスは杖を構え、一方で、アナスタシアは霊的な力を集中させ、悪魔の影から放たれる負の霊力を感じ取ろうとしていた。

影の悪魔が不気味にうねりながら、「奴らの魂を抜き取ってやれ」と、亡霊や地の者に命令を出す。

セバスチャンたちに向かって地の者が飛びかかってきたので、彼は剣を構え、攻撃を全力で受け止めた。

地の者から次々と放たれる攻撃を彼は跳ね返したが、同時にニコラスと口論になってしまう。


「貴様がただ防いでいるだけでは、悪魔を倒すことはできない!もっと頭を使え!そんな防御ばかりしていても勝てないぞ!」

セバスチャンは「あなたは攻撃だけ考えていればいいでしょう!見ての通り、俺は守るだけで精一杯なんだから!」と反論をする。

激しい口論の中、ニコラスは苛立ちを募らせながら魔法の杖を掲げ、炎の呪文を唱えた。

彼の手から放たれた炎が地の者に向かって飛んでいくが、地の者の前に現れた黒い霧に吸い込まれるようにして消えていく。

「くそっ!影が防いでいるのか!?」

二人の間に緊張が走るが、セバスチャンはアナスタシアの身体を覆うようにして影の悪魔の攻撃を防ぎ続けた。

ニコラスは更に罵声を浴びせる。

「役立たずが!もっとしっかり防御しろ、セバスチャン!」

「ちょっとは黙ってくださいよ!今は喧嘩している場合じゃない!」

セバスチャンの盾となる力は限界に達しそうだったが、彼は決して諦めなかった。


その瞬間、ノクスは咆哮をあげ、黒い霧のようなエネルギーを放出し、それが三人に襲いかかってくる。

「あの霧に触れれば命はない。慎重にいけ!」そう言いながらニコラスは攻撃魔法を連続して放ち、徐々に地の者の数が減っていく。


影の悪魔との激しい戦闘の中、ニコラスとセバスチャンは何とか悪魔の攻撃をかわしながら、戦略を練り直していた。しかし、状況は厳しく、仲間たちの傷も深まる一方だった。

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