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交わり 6

トーラーの宿舎


マディラとの面会後、セバスチャンは自室で外出の準備をしていた。

部屋は静かで、外から聞こえるのは風に揺れる木々のささやきだけだった。

しかし、その静寂を破るように、激しいノックの音が響いた。

セバスチャンが顔を上げる前に、勢いよく扉が開かれ、黒いローブをまとったニコラスが現れた。

彼は威圧的な態度で歩み寄り、冷ややかな視線をセバスチャンに向ける。

「王妃に報告とは、随分と忠勤だな。マディラ様から俺に直々に指示があったからここにきてやった。」

ニコラスの言葉には明らかな嫌味が込められていた。

セバスチャンは冷静さを保ちながら、彼に軽く一礼を返す。

「ありがとうございます。私たちが共に戦うことが重要です。あなたの力は貴重ですから、どうか力を貸してください。」

ニコラスは足早にセバスチャンのそばの椅子へと向かい、どかっと腰を下ろした。

椅子の足が床にぶつかり、鈍い音が響く。

彼は腕を組み、顔を少し上げて天井を見上げるような仕草をしながら、まるでこの場を支配しているかのような表情を浮かべていた。

「で、状況はどうなっている?」

ニコラスは半ば命令口調で、彼の言葉には鋭さがあり、その態度はいつもと変わらず尊大だった。


「最近の街での不可解な現象について、ガロスと調査した結果、悪魔の存在に関する証言を聞いています。

また、その過程でアナスタシアという少女に出会いました。彼女は夜、教会で霊たちの声を聞いているらしい。彼女の話によると、悪魔が影を操り、街の人々を攫っているという。マディラ様は彼女に協力を求めて、問題解決に向けて一緒に動くように指示を出されました。」


彼は優秀なので、態度は相変わらず高圧的だが、ニコラスは頷きながら、その情報を吸収していく。

「なるほど、それは重大な事態だ。アナスタシアの力が必要なら、彼女としっかり連携を取らなければならないな。」

セバスチャンは説明を続ける。「ただ、王妃の指示であることは、アナスタシアには秘密にして、協力する仲間として接しています」

ニコラスは慎重に考え込み、セバスチャンの意図を理解した。

「そうだな。今のところは、彼女に王妃の名は伏せておこう。」


セバスチャンは頷き、決意を新たにした。

「ありがとうございます。アナスタシアと共に悪魔の正体を突き止め、街を救うために全力を尽くしましょう。」

ニコラスは一瞬、目を細めてセバスチャンを見つめた。その鋭い視線には、わずかな苛立ちが含まれていた。

「貴様のためではなく、王妃のために仕方がないから協力してやる。さあ、アナスタシアのところに案内しろ」

セバスチャンは内心苦笑しながら、それでも共に行動することに同意を得たので、ニコラスとアナスタシアの元へ向かう準備を整えた。



――――――――――



廃れた教会前


セバスチャンとニコラスは、日没にアナスタシアがよく訪れる教会の前に立っていた。街での活動のため、彼らは再びアナスタシアと接触する必要があった。

教会は薄暗く、静寂が漂っていた。アナスタシアは祭壇の前で祈っているかのように立っていたが、二人の気配を感じて振り返る。

セバスチャンが扉を軽く叩くと、アナスタシアが静かに現れ、微笑みながら二人を迎え入れた。

アナスタシアは、すでに何か異変を感じ取っているかのように待っており、彼女は落ち着いた声でセバスチャンに話しかける。


「また会いましたね。何か進展はありましたか?」

セバスチャンは、ニコラスのことを軽く紹介して、アナスタシアに話しかける。

「実は、私たちはある方の命令で、この影の悪魔に立ち向かっています。あなたの協力が必要です。どうか、手を貸していただけませんか?」

ニコラスはアナスタシアの視線を受けて、無言で頷く。彼の態度はまだ冷ややかだったが、状況の深刻さを理解しているのか、セバスチャンの説明に対して反対はなかった。

アナスタシアは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにうなずいた。

「その命令が誰からであれ、もちろん、協力します。街を守るためにできる限りのことをします。

霊たちが街に何か恐ろしいことが迫っていると告げていて、この街を守ることを望んでいます。」

こうしてセバスチャン、ニコラス、そしてアナスタシアの三人は共に影の悪魔を追跡することを決意する。


セバスチャンは安心して頷いたが、その隣でニコラスが軽くため息をついて小声で話しかける。

「彼女は戦えなさそうだが、何ができるというんだ?無駄に危険に晒されるだけではないのか。」

セバスチャンは不満そうにニコラスを睨みつけたが、今は争う時ではないと気持ちを抑えた。

「彼女の力は役立つ。私たちは彼女を守りながら進めばいい。」

セバスチャンは言葉を慎重に選びつつも、彼はニコラスのプライドを傷つけないようにしながらも、自分の意思を伝えた。



――――――――――



オークウッド侯爵の所有地


山での狩りの当日、他の貴族に混じって国王夫妻も出席していた。

参加者は馬車で山の麓に移動し、狩りをする者はそこから馬で山に入っていく。

狩場で何名かが獲物を捉える打ち合わせをしており、ジュリアンもその輪の中に入っている。

マディラは、手持ち無沙汰で、その会話の側で周りの風景を眺めていた。


その時。

過去に何度か来た時には気にならなかったが、山から急な斜面を見下ろすと、小さな山小屋がある。

あの建物……

その瞬間、クローヴィスとの会話の情景が蘇ってくる。

あそこに行ってみたい。

そう思いながら辺りを見渡すと、入山した時と違う下へのルートを発見する。

ひょっとしたら彼のヒントがあるかもと思い、「ちょっと行ってくる」とジュリアンに声をかけ、彼の返事を待たずに馬に跨り、マディラは一人で小径を下り始める。

ジュリアンは慌てて主催者に、王妃が何か事情があって下ってしまったので連れ戻してくると言って、後からついていく。


山道は木々が迫って生えていて細い上に、蛇行しているので馬で下るのにスピードが出ないが、マディラは身体能力が高いので、茶会用のドレスで乗馬しているのに、かなりのスピードで駆け降りていく。

他人の馬なのに上手く乗りこなし、流石だなと感心している場合ではない。1本道なので迷うことはないが、どんどんジュリアンとの差が広がっていく。

マディラは沢の近くの小屋に到着し、馬から飛び降りて近くの柵に繋ぎ、建物の入り口まで駆け足で行く。

彼女は小屋の扉に手を伸ばして、開けようとするも、外から南京錠が掛かっていて扉は開かない。

マディラは何度か錠を押したり引っ張ったりして鍵が開かないことを確認すると、扉を叩き出す。

「誰か、誰かいませんか?ここを開けて欲しいの」

扉の前で、彼女が懸命に中に入ろうとしているところに、やっとジュリアンが追いつく。


外から錠をされていては、中から誰か出てくるはずもない。

かなりイラついたマディラは、「……ここに何かがあるはずなのよ」と呟きながら扉を何度も乱暴に押したり引いたりした挙句、自らの右手を光らせ、南京錠のシャックルを、手刀で強引に破壊してしまう。

その必死な形相といい強引な様子は、普段のマディラとは全く違う人格に見えた。

やっと扉が開いて中に入ったが、彼女は入り口で立ち尽くしている。


室内の入り口付近にある事務机、中はちょっとした広間になっており、暖炉が備えられている。

その奥に幾つかの扉があり、恐らく調理場や寝室に繋がっているのだろう。

だが、マディラの思っていた室内ではなかったらしく、外に飛び出て周りの風景を見渡し、建物の外観をもう一度確認し、再度玄関に入っていく。

「そんな……そんな……、私、確かにここにいたの、クローヴィスと一緒に。だけど、ここじゃない……」

そう言いながら彼女は床に崩れ落ち、両手を床についたままぽろぽろと涙を流して泣き出す。

「もう一度、あなたに会いたい。どうして私たち、あんな出会い方をしたの?どうして……」

ジュリアンは、普段の威厳と落ち着きを失ったマディラの様子を、そばで見守ることしかできなかった。

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