交わり 4
城下町の外れの一角
最近住民の間では、夜が深まると、突如として奇妙な現象が発生するとの噂が出ていた。
街の特定の場所に不気味な光が現れ、その光に近づいた人々は姿を消してしまう。
この噂は次第に広まり、今までこんなことはなかったのにと、街全体が恐怖と不安に包まれる。
自警団は原因をつかめず、民衆は家に閉じこもり、街は静寂と不安に満たされていく。
そんな中、ガロスはセバスチャンと夜の街を巡回して状況を確認する。
二人は消えた人々の情報を追い、消失現象エリアの特定を進めていた。
そして調査の末、連続する失踪事件に関係する場所として、城下町の外れにある古い教会にたどり着く。
ここは長い間放置され、人が寄り付かない場所として知られていたが、セバスチャンは周囲の気配に異変を感じ取っていた。
この付近の地面に目を落とした彼は、不自然な冷気を感じ取り、それを手掛かりにある場所に足を運ぶ。
調査を進めるうちに、彼らは地下に隠された謎の場所へたどり着く。
「ガロス、ここだ。この石畳の下に何かが……」
セバスチャンの感覚を鋭くすると、地面から微かな霊的な波動が感じられる。
ガロスは彼の指示を受け、力強くその石畳を剥がし始める。重い石が外されると、地下へ続く細い階段が現れる。
そこから不気味な風が吹き上がり、闇に覆われた通路の先に何かが潜んでいる気配が漂っていた。
ガロスが「よし、行こうか。お前の感覚は確かだ、悪いことが起こっているのはここだな。」
というと、セバスチャンは頷きながらも、少し不安げに階段を見下ろす。
「気をつけて。ここには何か……非常に強い悪意がある。」と、セバスチャンは忠告をする。
二人は慎重に階段を降り、古代の石造りの地下空間にたどり着く。
壁には古代の文字が刻まれ、空気は霊的な冷たさに包まれていた。
突然、セバスチャンは強烈な霊気を感じ、足がすくむ。
「ここは……ただの地下じゃない。何かが……ずっと昔からここに眠っているんだ。」
「それを目覚めさせる前に、俺たちが真相を突き止めないとな。」と、ガロスは呟く。
二人が地下の探索を進めていると、背後から「ここで何をしているの」と声が聞こえる。
突如として、霧のようなものが空間に広がり始める。視界がぼやけ、何者かの気配が近づいてきた。
その中から静かに歩み寄ってきたのは、薄布のようなローブを纏った若い女性だった。
彼女は冷ややかな目つきで二人を見据え、優雅に歩み寄る。
「あなたたちが、ここまでたどり着くとは思わなかったわ。」
彼女の声は落ち着いていたが、その背後に何かしらの霊的な力を感じさせるものだった。
セバスチャンは彼女の存在に不思議と恐怖を感じないどころか、むしろ懐かしい何かに触れたような感覚に包まれた。
「あなたは……?ここで何をしているんですか?」
女性は微笑み、ローブを少し引き締める。
「私はアナスタシア。霊たちが教えてくれたの、地下に侵入者がいるって」
彼女の声には不思議な力が宿っているかのようで、青年は思わず耳を傾けてしまう。
アナスタシアはふと壁に手を触れ、その指先から微かに青白い光が漏れる。
地下の重苦しい雰囲気にそぐわない、その一瞬の光が彼女の存在を浮き彫りにする。
「私はよくこの付近の教会で霊達と会話をしてるの。私はこの地下の真実を知る者。そして、あなたたちが探しているのが何か……よく知っている。影の悪魔がこの街を支配しようとしている。」
ガロスは疑わしげに彼女を見つめるが、セバスチャンは彼女の言葉に引き込まれていた。
「影の悪魔……最近街で噂になっている失踪事件も、彼の仕業でしょうか?」
アナスタシアはうなずき、さらに近づいてきた。
「そう。影の悪魔は人々を取り込んで、あの世のものにしている。
そしてその悪魔は、影だけでなく、前からここに止まっている亡霊たちをも操っている。
彼らを使って人々を攫い、恐怖を広めているの。」
彼女の語る言葉が、地下の冷たさと相まって不気味な静けさを生み出す。
青年は、彼女の言葉に耳を澄ませつつ、視線を落とした石畳にひしひしと冷気を感じ取る。
「私は、昔の亡霊や、あの世のものになりかけてなれずに留まっているモノたちの話を聞いている。
最近、ここに集まる霊的なものの数が増えている。悪魔は、いつもは遠く離れた地下神殿にいるらしく、今日はここに来ていないみたいだけど」
セバスチャンは一瞬息をのむが、霊的な感覚に優れた彼はアナスタシアの力に惹かれていた。
「僕たちは、街の人々を不安にしているものの正体を突き止め、それを解決したいと思っている。
ひょっとしたら、俺たちは力を合わせるべきだ。」
アナスタシアは一瞬目を伏せ、僅かに微笑む。
「あなたは霊を呼び寄せることができるんだね。協力したら影の悪魔を止められるかもしれない。」
彼はそう、提案をした。
3人の間に沈黙が流れる。だがその沈黙には、これから始まる戦いに向けた共通の決意が込められているように感じられた。
――――――――――
城下町の繁華街
華やかな街並みの中で、アナスタシアの家は町の中心に位置し、金色の装飾が施された大きな家は目を引く存在だった。
日中、彼女は豪商の娘としての日々の生活を送っていた。豪華な衣装に身を包み、商家の子女たちとともに社交場を訪れる。
アナスタシアは美しい栗色の長髪を優雅に結い上げ、上品なドレスを身にまとい、街の人々に微笑みを振りまいていた。
昼の彼女は、礼儀正しく、親切な娘として知られ、町の人々からも好かれていたが、彼女の心の奥には、他の子女たちには理解されない秘密が隠されていた。
日が沈むと、アナスタシアは別の顔を持つことになる。
夜になると、彼女は静かに家を抜け出し、町はずれの教会へと足を運んだ。
そこは古い石造りの建物で、かつて人々に敬われてきた場所だった。彼女は教会の薄暗い内部に入ると、霊の声が聞こえてくることを期待していた。
教会に着くと、薄明かりの中で彼女は神聖な雰囲気に包まれ、心が落ち着くのを感じる。
ここの地下の静寂の中で、彼女は亡者たちの訪れを待った。彼女の周囲には古い祈りの記録が置かれ、彼女は亡者たちと繋がるための場所として、この教会を選んだのだった。
しばらくすると、彼女は霊たちが彼女のもとにやってくるのを感じた。
彼女はその存在を強く感じ、彼らの声が耳元でささやく。
「助けてほしい」と、切実な訴えが響き、彼女はその声に応え、霊たちが抱える悩みや未練を聞き入れる。
アナスタシアは心の中で呟く「あなたたちの苦しみ、私に話してください。——私はここにいます。」
彼女は微笑みながら、静かに霊たちの声に耳を傾け、彼らの痛みを理解しようと努める。
霊たちが何を求めているのか、何を解決したいのかを感じ取り、彼女はその手助けをすることを決意した。
夜の教会での彼女の姿は、日中の豪商の娘とは全く異なるものだった。
闇の中で彼女は強い使命感を持ち、霊たちを助けるために力を尽くしていた。
これこそが彼女の真の姿であり、日中の華やかさとは裏腹に、彼女は自分の力を使い、運命に立ち向かっていた。
この二重生活を続ける中で、アナスタシアは自分自身のアイデンティティと向き合うことになり、彼女が直面する運命はやがて彼女の人生を大きく変えることになる。




