交わり 2
トーラーの宿舎前にて対峙する、元賞金首の大男と結界の名手の国王
ガロスは先ほど同様、目には見えない波動を発動させ、岩目掛けて放つ。
波動が迫ると同時に、結界の表面が淡く光り、波動を防いでいるものの、中に振動が伝わるのはわかった。結界にぶつかった波動は左右に別れて通過して威力が次第になくなる。
激しい衝撃が岩に向かうと思われたが、内部にはただ微かに風が押し寄せるだけ。
岩の上に残っていた小石の粒がかすかに動くのと、ひとつに縛って前に流していたジュリアンの長い銀髪が一瞬揺れただけだった。
見ていたものたちは、国王に傷ひとつない様子に安堵の表情を浮かべ、あっさり防御されたガロスは意外そうな表情を浮かべる。
彼の結界は守衛のナイフも通さなかったし、マディラが放った幻の火竜もアテナエルと同化する際の衝撃波も防ぐ万能なものだと知っていたので、彼女の想定通りではある。
「結界内に波動は来た?」と聞くマディラに、青年は余裕の笑みを浮かべ、
「いや、波動はほとんど防げたよ。ちょっとした風圧しか感じなかった」と冷静に言った。
「OK。じゃあもうちょっと後ろに下がって、板状に結界を張ってくれる?」
彼女の指示で、青年は一度結界を解いて岩から更に数歩下がり、再度手を地面に付いて板状の結界を張った。
光沢のある透明な壁が静かに現れ、彼と岩の間に立ちはだかる。
一方、マディラは砕けた岩の前に立ち、手を軽く振ると、眩しい光の玉が岩から数十センチ上に浮かび上がった。
「今度はこの玉を波動で攻撃して」とガロスに指示を出す。
マディラとしては、こちらが本番だった。結界がちゃんと波動を防ぐことを確認しておかないと、周りの被害が最低限に抑えられない。
大男は頷き力強く腕を振り、波動を放つ。
しかし波動は光の玉を通過し、光はわずかに揺れるだけ。
余波で岩が少し砕けたが、その波動はジュリアンのところに到達し、結界はその波動を見事に跳ね返した。
しかし、反射された波動が今度は大男の頭上へと迫る。
瞬間、マディラは宙に舞い上がり、両手を広げて空間を支配するように優雅に浮遊した。
彼女の指先から柔らかな光が広がり、迫る波動を吸収していく。
波動は静かに消滅し、彼女の周りには穏やかな光だけが残った。
「二人ともありがとう。」
そう言いながら、マディラはゆっくりと着地する。
「なるほどね。万が一、謎の光と遭遇した場合、あなたの身が危険かもね、ガロス」
新たな力が、仲間の強力な助けになるかと思いきや、王妃の手によって弱点が曝け出されて、神妙な面持ちのガロス。
「セバスチャン、ガロスと一緒に調査して。彼なら、黒いエネルギー体を跳ね返したことがあるので、万が一、光に襲われてもあなたを守るわ。」
マディラは二人にそう指示を出して散会を告げ、後宮に戻っていく。
ジュリアンとジョナサンは王宮に戻り、セバスチャンとガロスとスターリングは宿舎の中へと入っていった。
――――――――――
グリーンフレードム国内、某所。
先住民族が使用していた地下の宮殿。
この宮殿は、地中深くに埋もれ、表には存在すら知られていない。
今や忘れ去られた遺跡として、ひっそりと存在している。
宮殿の入口は、大陸北部の荒れ果てた森の奥深くに隠されており、古の魔法によって封印されているため、容易には近づけない。
入り口を突破した者だけが、地下に広がる広大な空間に足を踏み入れることができ、その内部は時が止まったかのような異様な静けさに包まれている。
宮殿全体は強力な魔法の結界で覆われており、外界の干渉を一切受け付けず、付近の住民から「邪神が祀られている」と噂された。
内部の空気は淀んでおり、時間の流れが異様に遅く感じられる場所。
周りには暗黒のオーラが漂っており、五大将軍や彼らの主人である大臣が支配する闇の力の根源がある。
大臣は1000年前と同様に、ここを本拠地として使っている。
地下神殿の玉座に座る大臣の前に、闇の将軍ノクスがひざまずいている。
その将軍は、まるで影の世界に生きるかのような存在だった。
どこからともなく現れ、そして一瞬にして敵を葬る。
彼の体は闇と一体化し、昼夜を問わず街の暗がりに溶け込んでいた。
影の触手が彼の意のままに動き、彼の存在を誰一人として感じ取ることはできなかった。
玉座の周囲には重々しい沈黙が漂い、大臣の目は冷酷な光を放っている。
「ノクス、お前に任せる。」
その声は低く、まるで地下宮殿全体に響き渡るかのようだった。ノクスは顔を上げ、無表情で大臣の指示を待つ。
「今の王家は、私からすべてを奪った者の末裔だ。この復讐を完遂するために、城を落とせ。」
「はっ、必ず。」
ノクスは無感情な声で答え、影のように動き出す。その体は闇に溶け込むように薄れていき、まるで影そのものが生きているかのように、次の瞬間には姿を消していた。
――――――――――
地下神殿の奥深くの空間には、「地の者」を製造する「ラボ」がある。
かつて失われた禁断の技術と魔法が融合し、邪悪な生命を作り出すための場所となっている。
この空間は、彼らの手足となる無数の「地の者」が生成され続けている。
天井は低く、苔や菌類がところどころに生い茂り、不気味な蒸気が地面から漂い上がる。
ラボ内には無数の壺や装置が配置されており、それぞれが異様な音を立てて作動し、周囲にはさびついた金属と割れたガラス片が散乱し、闇の魔法の痕跡が随所に感じられた。
ラボの中央には巨大な魔法の円環が描かれ、その中で異形の存在たちが次々と生み出されていく。
この円環は古代の魔法陣の一種で、人々の不安、妬み、恐怖といった負の感情を吸収し、それをエネルギー源として生命を創り出す装置。
人々の心が乱れるほど、その邪悪な生物たちは無限に増殖する。
「地の者」と呼ばれる邪悪なゴブリンのような生物は、低身長で、曲がった背中と歪んだ四肢を持つ。
彼らの肌は土や泥にまみれた灰色で、目は深い闇に吸い込まれるような黒い輝きを放っている。
彼らは基本的に徒党を組んで行動し、冷酷な忠誠心を持ち、命令には一切逆らうことがない。
五大将軍の命を受けて動く彼らは、まさに五大将軍の「足」として各地で暗躍している。
薄暗い地下ラボの奥深く、魔法陣がかすかに発光し、無数の声なき呻きが空気中に混じり合う。
魔法の円環が微かに輝きを強めると、何かがゆっくりとその中から浮かび上がってきた。
それは小柄で、歪んだ形の生物だった。泥まみれの肌に刻まれた痕跡はまるで、人間だった何かが恐怖と不安に蝕まれ、腐敗したかのようだ。
その生物、「地の者」は、誕生の瞬間に空中で苦しむかのようにひとつの身をくねらせた後、魔法陣の中心に落ちる。
音もなく床に倒れた彼は、次の瞬間、目を開いた。真っ黒な瞳が不気味に光り、短くひび割れた指先を動かし始める。
「……我々は、不安を飲み込み、増殖する……。」
彼らは無言のまま、群れとなり、五大将軍の命令を待っていた。
ラボの入り口に立つ仮面の男が、冷酷な笑みを浮かべながらそれを見ていた。
中くらいの長さの漆黒の少し乱れた髪で、前髪は眉のすぐ上まで垂れており、首筋に見える白い肌とのコントラストが印象的。
背が高く、痩せ型だが引き締まった体格をしており、真っ黒いマントを身につけている。
「父は、これから本格的に活動を開始するらしいぞ」
そう仮面の男に話しかけるのは、隣に立つ甲冑を着た人物。
兜を被っているので表情はわからないが、磨かれた鎧は重厚感と威圧感を漂わせる金属表面には鈍い光が走り、戦場の傷跡が所々に残っている。
肩や胸の部分には緻密な装飾が施されて、力強さと高貴さを感じさせる。
「そうか。だが、地の者の数がまだ足りていない。もっと材料が必要だ。父に伝えてくる」
そういうと、仮面の男はマントを翻して、ラボから立ち去った。




