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ふる傷 15

ジョナサンはトーラーだと告げられる。


「トー……ラー……とは……?」掠れた声で聞き返すジョナサン。

ジョナサンは頭を下げ、己の過ちに打ちひしがれているが、何をどうすればいいのかさっぱりわからない。

頭の中は混乱の渦に巻き込まれ、心は次第に凍りついていく。


ジュリアンはニコラスの方を向いた。

「ニコラス、やっと君の出番だよ」

彼の柔らかい笑みが、一瞬だけ場の緊張を和らげるように見えるが、実際にはそれは単なる前兆に過ぎない。

国王の口から続く言葉に、ニコラスはすぐに立ち直り、何か重大な役割が自分に課されていることを理解した。

「君を呼んだのは、ジョナサンへの説教を見せたり、僕の二段詠唱を披露するためじゃない。彼が知るべきことを手短に説明してあげて」

彼の命令に従い、ニコラスはジョナサンの方を見て、冷静に状況を整理するかのように、先の大戦のこと、大臣のこと、アテナエルとトーラーのこと、そしてマディラの中にアテナエルがいることを説明した。

ジョナサンの目は、混乱と恐怖に包まれながらも、必死にニコラスの言葉を追おうとしている。


「我々は選ばれし者として、王妃のために特別な任務を遂行している。あなたがその一員であることを、きちんと理解するべきです。」

と言うニコラスの説明にジョナサンはますます混乱し、目の前の状況がまるで現実離れした夢のように感じ始める。

彼は知らず知らずのうちに、汗を滲ませながら、口元を引き結んでいる。

頭の中で無数の疑問が湧き上がっているが、混乱して何も言えない。


「こういうカード、お持ちでは無いですか?(おもて)面は全員違う絵柄ですけど。

僕は吊るされた男、ニコラス様は魔術師、スターリングは月のカードを持っていました」

ニコラスのことをどう呼ぶか一瞬迷い、一応様付けで呼びながら、セバスチャンはそう補足説明をしながら、自分のポケットから小さなカードを取り出し、それをジョナサンに見せた。

ジョナサンはその瞬間、自分が持っているものに気づき、慌てて財布を取り出した。


「あ……、ああ、そういえば……」

ジョナサンは震えながら財布を開け、そこから同じようなカードを取り出す。

「数週間前のことですが、ある日枕元にこのカードが置いてあり、いつか誰かに確認しようと思ってずっと持っていました」

そう言ってみんなに見せたのは、図柄が審判のカードだった。

その言葉を発した瞬間、ジョナサンは自分が何か特別な役割を持たされていたことに、ようやく気づき始める。

ジュリアンやニコラス、そしてセバスチャンの態度から察するに、このカードがただの紙切れではないことは明白だ。

心臓が激しく鼓動し、冷や汗が頬を伝う。


彼は再びジュリアンの方を見ると、彼は静かに、しかし威厳ある声で言葉を続けた。

「僕が、呪文をわざと外した理由がわかっただろ。」

彼は柔らかく言いながらも、その目は家臣を試すように冷酷だ。

「本来なら、無礼極まりない君を速攻とらえて牢屋にぶち込みたいところだけど、そういう事情だから、もしも君が心を入れ替えて王妃に仕えるというなら、特例として今回は不問とする。

急にそんなこと言われても、彼女のことが本能的に嫌いで仕える気がないなら、その意思を尊重するよ。

遠慮なく君をとらえて処罰する。」

国王にそう言われたジョナサンの呼吸は荒く、冷や汗が額から流れる。

頭の中はただただ混乱の渦に巻き込まれていた。


さらに追い打ちをかけるように、ジュリアンは話を続けた。

「ちなみにだけど、ガロスもトーラーだよ。だから賞金首の指定を取り消したんだよ。

スターリングも同様に、条件付きで釈放されるだろう。どちらも恐らく、命を賭して王妃を守ったら、って感じかな。君はどうする?」

彼の声が再び鋭く響いた。選択の時が来たのだ。ジョナサンは深く息を吸い込んだ。

ジョナサンの全身が緊張に包まれ、心臓がますます高鳴るのを自分で感じていた。



――――――――――



後宮 一の間


ジュリアンは、偽国王とジョナサンの面倒な対応に追われ、気づけば昼食をとる時間を完全に逃してしまっていた。

夕食をマディラと食べるために、いつもより早い時間に後宮に移動した。いつもはこんなに早く後宮に戻ることはないが、今日は特別だ。


居間に入ると、いつも通り整然と並べられたフルーツが目に入った。

彼はほっとしたようにそれに手を伸ばし、空腹を一時的にでも満たそうといくつかの果実を口に運ぶ。

甘さと酸味が混ざり合う味わいが、少しだけ気を鎮めるかのようだった。

続けて、テーブルに用意されていたグラスの水を一気に飲み干す。

喉が渇いていたことに気づき、水の冷たさが心地よかった。


ジュリアンはふと、マディラの姿が見えないことに気づいた。

「あれから、まだマディラは出てきてないの?彼女も昼食を取ってないんだろ?」

少し眉をひそめ、居間の周りを見回したが、王妃の姿は見当たらず、彼女は依然として寝室に閉じこもり、何も食べていないことを意味している。


「まったく……」ジュリアンは軽くため息をつき、寝室の扉に向かって歩を進めた。

彼女も空腹のはずなのに、まだ寝室から出てこないのは、ここ数日の心の葛藤が収まっておらず、それが解決した今、どのように振る舞えばよいかマディラ自身もわからないのだろう。

扉の前で一瞬立ち止まり、その向こうにいる彼女の様子を思い浮かべる。今日の出来事が彼女をどれほど動揺させたのか。

王妃が感情的になっていることは理解しており、彼には苛立ちも焦りもなく、どういう声かけが今の彼女に一番響くのか、思案しながら扉を押して寝室へと入った。


寝室に足を踏み入れると、日が傾いているので部屋の中は薄暗く、静寂が支配していた。

ジュリアンは辺りを見回しながら、マディラの姿を探すと、先ほどと変わらない場所、変わらない姿勢で、黒髪の少女は膝を抱えて突っ伏している。

ジュリアンは、いつもより一回り小さい彼女を軽々抱き上げ、ベッドの上に横たえ、彼女に覆い被さる形で優しく抱きしめる。

彼女の髪が彼の頬にさらりと触れ、ひんやりとした感触が肌に伝わってきた。

彼女の頬にキスをして、ジュリアンは低く落ち着いた声で耳元で囁く。

「問題は解決したよ、もう大丈夫」

あどけない、しかしまるで魂が抜けたかのように無表情で天井を見つめる少女は、彼の言葉にも反応を示さない。


ふと、昼間の彼女とのやり取りを思い返した時、実は、スターリングが近づいていた時にトーラーだと気づいていたのでは?という考えが思い浮かぶ。

先ほど、偽物の自分に惑わされないでと彼が言った時、「知っている」と返事をしていたことからも察するに。

ジュリアンは、彼女を抱きしめたまま、そのことをそのままマディラに聞くと、動くことなく、視線も変わらないまま、淡々と答えた。

「あまりその辺は意識していなかった。常にトーラーや地の者がいるかどうか考えながら日々を過ごしていない。アテナエルは寝ていたし。」

その無感情な返答に、彼は小さく「そうか」と呟く。


一瞬、ジョナサンのことを話そうと思ったが、もう少し時間が経ってから話そうと思い直した。

お互いに言葉を失い、しばらくの間、抱き合ったまま二人は動かず、ただ静寂が部屋を包んだ。

ジュリアンは、彼女の冷たい肌を感じながら、彼女の姿が戻らないままでこのまま居間に連れて行ってもいいのだろうか……と考えていたが、突然静寂を破る音が聞こえてきた。

キュルキュルキュル……と、かすかな音が部屋に響く。


彼は驚いて彼女の顔を見下ろすと、マディラの頬がほんのり赤く染まり、少し困ったように笑っていた。

「ほら、昼食も食べてないんだろう、食事にしよう。そろそろ機嫌を直して」

そう言いながらジュリアンは起き上がり、彼女の靴をベッドのそばに持ってきて、マディラの上体を起こして靴を履かせる。

初めはブカブカだった靴が、みるみる間にぴったりのサイズになっていた。

さ、いこう、お姫様

彼がそう声をかけた頃には、彼女の姿は元に戻っており、二人で手を繋ぎながら寝室を退室した。

これで「ふる傷」は終わります。

話しは次から「交わり」になります。

ある二人の人生が交差し始めます。

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