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ふる傷 14

偽国王を仕立て上げ、王妃を傷つけていたジョナサン。


ジュリアンは彼に「万死に値する」と断言し、ジョナサンに向けて炎と氷の2種類の魔法の呪文の詠唱し、発動の一歩手前で止めている。


セバスチャンは、詠唱が始まると、その恐怖で両手をぎゅっと胸の前で握りしめ、小さく震えながら目を伏せたまま、二人のやり取りをじっと聞いていた。

彼は、ジュリアンが冷酷に選択を迫る言葉を聞きながら、目の前で何が起こるのか想像もつかず、不安に押しつぶされそうだった。

背筋が凍るような恐ろしい状況に耐えられず、足元がふらつき、倒れそうになるのをなんとか踏ん張っている。


ニコラスは、王の詠唱とともに、思わず背筋を伸ばし、顔色が変わった。

彼の目は王の両手に固定され、まばたきもせずにその様子を見守っており、冷静を装おうとするが、額にはじんわりと汗が滲み出ており、喉が乾いたのか、何度か小さく唾を飲み込む姿が見られる。

詠唱が進むたび、彼の瞳の中に映る恐怖はますます明白になっていて、体を硬直させ、椅子の肘掛けを握り締めている。


ジョナサンは、ジュリアンとのやりとりを見ている二人に、ちらりと視線を投げかけたり、かすかに助けを求める素振りを見せるものの、その行動がむなしいものであるとすぐに理解し、最後には再びジュリアンに視線を戻しておびえた表情を浮かべる。

「陛下……どうかそれだけは……」


停止(ハルト)」そう呟き、ジュリアンは左手を降ろす。

呪文が無効化されて、ジョナサンは安堵し、体全体が急に力を失ったかのように感じ、ホッとしたように深く息をついた。

だが次の瞬間——

「“凍土に、全てを封じ込めよっ!!”」

と声を張り上げたかと思ったら、ジュリアンの右手からレーザービームのように冷気が解き放たれ、ジョナサンのすぐ横を通過し、壁際に置いてあった椅子に直撃する。

一瞬にしてその椅子は凍りつくが、その次の瞬間、急に冷却された椅子がパンっと音を立てて木っ端微塵になる。

ジョナサンはヒッと声を上げ、その場に崩れ落ちるように尻もちをついた。

動揺し、目を見開いたまま王の方を恐る恐る見上げると、彼の表情はいつもの穏やかなものに戻っていた。まるで、何事もなかったかのように冷静であり、威厳を保っていた。


その凍てつく風がジョナサンのすぐ横を通り過ぎ、壁際の椅子に直撃するのを見た瞬間、セバスチャンは思わず声をあげそうになったが、口元を手で押さえ、なんとか抑え込んだ。

全身が震えているのがはっきりとわかり、立っているのがやっとの状態だ。

一方ニコラスは、驚きで瞳を大きく見開き、息を飲み込んだが、王が再び穏やかな表情に戻ると、彼もまたようやく息を吐き出した。

だが、その手は肘掛けから離れず、緊張はまだ解けていない。


「なーんてね、脅すのはこれくらいにしておくよ。君を殺したりなんかしないさ、それこそ王妃に叱られてしまう」

ジュリアンは微笑を浮かべながら、ゆっくりと右手も下ろした。

その瞬間、部屋全体の、先ほどまでの緊張感が霧のように薄れていった。

ニコラスは冷静を装いながらも、その場に固まったままで、一方セバスチャンは顔を伏せて震えている。

ジョナサンは何も言えず、ただひたすらに息を整え、壁に背を預けながらゆっくりと立ち上がるも、まだ身を縮めたまま震えていた。

ジュリアンはその姿を一瞥し、軽く息をついた後、ゆったりと執務用チェアに腰をかけた。


ジョナサンは、体中が硬直し、彼の表情には恐怖と安堵が混ざり合っている。まさに命が助かったと感じた瞬間だったが、それでも彼の胸には、国王の怒りが完全に収まっていないという不安が残っている。

ジュリアンはそんな彼に最後の一瞥をくれると、静かに喋り出す。

「たまには呪文の詠唱をしないとね、僕であっても忘れてしまう。」

彼は小さくため息をつき、空中に浮かべた手を眺めながら、少し遠い目をしてつぶやいた。

「君たちの能力が弱体化する理由を知ってるかい。修羅場体験が圧倒的に足らないんだよ。

いくら赤の世界から能力者を足したって、使わない力は消失される。」

その言葉は真実をえぐるように響き、皆の心に重くのしかかった。ジュリアンは小さく首を傾げながら、遠くを見るような視線を横に向けた。

「もっとも、どこかの国のように、馬鹿みたいに戦争や内乱が起きているのは、どうかと思うけどね」

彼はふっと笑みを浮かべ、部屋の空気を和らげるように言ったが、その背後には依然として緊張感が漂っていた。

彼の言葉に込められた力と威厳は、一瞬たりともその場にいる者たちを解放することはなかった。


ジュリアンは、無言のままこのやり取りを見ていたニコラスにゆっくりと視線を向け、静かに問いかけた。

「ニコラス、なぜ僕が彼女の話をし出したかわかるかい」

国王の落ち着いた声とは裏腹に、彼の胸が急激に高鳴る。

ニコラスの顔には明らかな動揺が浮かんでおり、話の展開に唖然としながら聞いていた彼は、急に名前を呼ばれてハッと我にかえり、しどろもどろに答える。

「あ、いえ、正確には……(わたくし)が王妃様のことをよく理解するのは重要だと思いますが……」

ニコラスは何とか答えようとするが、言葉がうまく出てこない。

彼の顔には、国王の真意がわからない不安が張り付いている。

自分の立場や、王妃との関係性を瞬時に思い返しながらも、冷静さを保とうと努めていた。

ジュリアンは、彼の反応を静かに見守ると、「やはり、能力者全員が感じ取れるとは限らないんだね。それとも、経験の差か」と呟き、そして次の瞬間、彼の目がセバスチャンに移る。


「セブ、さっき確認したいことがあると言ったけど、分かったかい」

突然の問いかけに、セバスチャンは一瞬何のことか分からず戸惑った表情を見せた。

彼は、ジュリアンの話に耳を傾けながら、ジョナサンへの対応やマディラに関する驚愕の事実に考えが追いついていなかった。

そして、国王の圧倒的な力を目の当たりにしたばかりで、文字通り身体が凍り付いていた。

心臓が早鐘を打つ中で、彼の頭の中は混乱していた。

「え……と、先ほどとは、あの少年を捉えた時に私が話した件ですよね?」


セバスチャンは、記憶を辿りながら慎重に言葉を選び、心当たりのある件を確認するように問い返した。

彼の声にはわずかな震えが混じり、その目は国王の顔色を伺うように見つめていた。

ジュリアンは静かに頷く。

マディラの話があまりに深すぎてセバスチャンはすっかり忘れていたが、結論はすぐに出ていた。

「はい、間違い無いです。先ほどの少年含め、この部屋にいるのは陛下以外全員トーラーです。」


セバスチャンは、ジュリアンに質問をされて、キッパリとそう答える。

そう、日中にエレナと共にこの部屋に来た時に感じた既視感。

その時は室内に人も多かったし、そんな可能性も考えていなかったので奇妙な感覚を持っていたが、今は確信をもって言えた。ジョナサンは、ニコラスと同じ気配を感じる。

それに気づいたのは、スターリングを捕らえた時。

少年は、王宮の事情に精通していなかったので、誰かの指示で行動していたようだった。

その詳細を聞き出してる時に彼と似た波動を、でも明らかに少年と違うものを、執務室で感じていたことをジュリアンに話した際に、ある仮説が浮かんできたのだ。


「トー……ラー……とは……?」掠れた声で聞き返すジョナサン。

その問いかけには、理解できないことへの戸惑いと、事態の深刻さを徐々に察していく恐怖が混じり合っていて、震えが止まらない。

「やっぱり、わかってなかったね。自分で自分のことをわかっていたらこんな事しないだろうから。知らないとは罪だな、自分の(あるじ)に刃を向けるなんて。」

ジュリアンは、少しだけ同情の色を帯びた目でジョナサンを見つめながらも、その言葉には冷酷な現実が滲んでいた。

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