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ふる傷 12

国王の執務室


この部屋には、現在ジュリアンとジョナサン、そしてニコラスしかいない。

ジョナサンはジュリアンから、マディラに何を画策しているのか問い詰められるも、否定をする。


「「全く」何も思い当たらないのかい?こう見えても、僕は今、とても腹が立っているんだ。何か釈明するなら今のうちだよ」と詰問する国王。

「そう申されましても、心当たりがないものについて、何も話しようがなく……」と、なおも戸惑ったように返事をする侍従長。

ふぅっとため息をついた後、分かったと小さくつぶやいて、ジュリアンが指をパチンと鳴らしたところ——

先ほどまで閉まっていた執務室の入り口が開いて、セバスチャンが現れる。


「貴様、またこんなところに——」

ニコラスがそう言い、思わず立ち上がり攻撃的な言葉を投げかけようとした。

しかし陛下の御前であり、セバスチャン以外の人がいる前では彼を口撃しないようにしているので、続きを言うのをやめて慌てて座るニコラス。

だが次の瞬間、見慣れぬ人物がセバスチャンの後ろにいるのを見つけ、何やらただならぬ事態に発展しそうなことを彼は察知した。


その人物は、両手を縛られてその紐の端をセバスチャンに握られたままだ。

無表情で入り口の二人を見た後、一瞬驚きの表情を見せるも、視線を逸らすジョナサン。

一方、縄に縛られている謎の少年は、チラリとジョナサンを見た後、視線を合わさないように下を向いている。

「——彼には特殊能力があるらしいね。姿を真似ることができるらしい。僕の姿を真似して、マディラに色々吹き込んでいたそうじゃないか。君の指示に従ってね、ジョナサン」

ジュリアンが、謎の少年について説明をする。

「僕のスケジュールを巧妙に調整して後宮に近づけないようにして、彼が僕になりすまして彼女を傷つけていた——彼は国家反逆罪で現行犯逮捕だよ。先ほど僕の姿を借りて、僕を捉えるように指示したのだから」

そう無慈悲に、国王は少年の罪状を宣言する。

「セブ、スターリングを憲兵に引き渡して、君は戻ってきて」

ジュリアンが事務的にセバスチャンに指示を出すのを、ジョナサンは無表情で眺め、そして観念して弁明を始める。


「——私は私利私欲のために動いていたのではありません。」

ジュリアンは机に腰掛けたまま、冷静な表情で彼の言葉に耳を傾けていた。

その目は鋭く、家臣の一言一言を聞き逃すまいとするかのように、じっと見つめている。

ジョナサンは緊張した様子で額に汗を浮かべながらも、必死に言葉を続けた。


「後継者候補を増やすのは、国のため。また、お妃様を新たに迎えれば、マディラ様の公務の負担が減ります」

彼はわずかに目を伏せ、王の視線を避けるようにしていたが、震える声に必死さがにじみ出ていた。

彼の手は不安からか、軽く拳を握り締めている。

「——その大義名分は知ってるよ、そして君がマディラのことが気に入らないのも。」

ジュリアンは腕組みをしたまま冷静に話を続ける。

その口調には、冷ややかながらもどこか厳しい決意が感じられた。

「それでも、君の希望通り僕のそばに置いておいた。

ただ、こういう事をするなら内乱罪とまではいかなくても、立派な不敬罪だよ」

言葉が鋭く、執務室の空気が一層張り詰める。

ジョナサンはその言葉に怯むように一瞬目を伏せ、顔が青ざめていった。


ジュリアンはさらに続ける。

「移住当初より、利害関係者の一部から、折りに触れて妃を迎え入れるように言われていて、その都度検討してるよ。だた、多妻制に興味はなくてね。」

彼は冷たく微笑むと、視線を少し上に向け、まるで遠い昔の話をするかのように穏やかに話す。

「大体、ニーベルの王家の血を引くのは王妃なのだから、形式的には、僕の血を残しても仕方ないだろう」

国王のその言葉に、ジョナサンは驚きの表情を浮かべ、顔を上げた。

(——王子()さえいてくれれば話はまた違うのだが……)と、ジュリアンは心の中で付け足す。


動揺を隠しきれない様子で口を開くジョナサン。

「そ、それは……どういう事でしょうか……?」と、彼は震えながら問いかけるが、その目には疑念と恐れが入り混じっている。

ジュリアンはわずかに目を細め、ついに事実を明かす決意をしたかのように静かに言った。

「……まぁ、隠す話ではないものの、君のお祖父様(おじいさま)との交渉で、一部誤解を生む表現をあえて使っていたことが明るみに出るのも良くないから、黙っていたけど——」

ジュリアンは少しだけ背筋を伸ばし、ジョナサンに視線を投げかける。

その目はまるで、長い間封じていた秘密を解き放つかのような光を帯びていた。

「君たちが欲していたのはニーベル国王家の血筋だろう。それは彼女だ。マディラはれっきとした先王の第二子であり、現国王の腹違いの妹、僕はただの王家の家臣だよ。役職は国王の秘書官だった」

ジョナサンは驚きに目を見開き、信じられない思いで口を開く。

「それは、前女王は承知なのですか?」

その問いに対し、国王は冷静な表情のまま。

ジョナサンの視線が彷徨い、不安が露わになる中、執務室には再び重苦しい沈黙が訪れた。

ニコラスもセバスチャンも、真実を知ることの重さを理解し始め、空気は張り詰めた緊張感に満ちていた。


ジュリアンは無駄のない動作で机に体重を預けたまま、落ち着いた表情を保っている。彼の姿勢は変わらず威厳に満ちていた。

「……直接は話していない。だけど、試練が終わった後に、マディラの方が能力的には全てにおいて僕を上回っているとわざわざコメントをしてきたのだから、どちらが王家の血筋か気づいていたと考えている。

——もっとも、僕の血だけを引き継いだ後継者候補であっても、試練さえ通れば国としてはいいのかもしれないけど。」

国王は遠くを見るように視線を少し外しながら、重々しい口調で言葉を続けた。

ジョナサンは困惑した顔をして、何かを言いたげに口を開けたが、すぐに口を閉じた。

王家の血筋の事情に詳しくないセバスチャンは、ジュリアンの言葉に驚きつつも、無表情を保ちながら礼儀正しくその場に立っている。


「僕が王族ではないことを、敢えて公言するつもりはない。どちらにしろ、僕たちの子供が即位すれば、そんなことどうでも良くなるからね」

ジュリアンの言葉にニコラスは微かに眉をひそめたが、彼らの会話に対して口を挟むことはなかった。

ただ、鋭い視線で国王をじっと見つめ、慎重に次の言葉を待っている。

ジョナサンは、ようやく目を国王に戻し、口を噤んだまま首を軽く縦に振った。


「正統なる王家の血筋であるマディラに政治をやらせないのは、ストレスを与えたくないのと、僕の方が適性があるから。ソフィア様から何も言われていないので、その体制で問題ないと思っている。」

ジュリアンは冷静に、理路整然とした声で話す。その姿は、マディラを思いやる一方で、自分が取っている行動に自信を持っていることが感じ取れた。


そしてジュリアンは、他にもジョナサンがマディラについて誤解している点を話し始めた。

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