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ふる傷 11

後宮内 マディラの部屋


ジュリアンがマディラの寝室に入って、10分以上経過している。

侍女たちは、奥の部屋が、先ほどのような口論等もなく静かなことを不気味に思っている。

しかし、きっとジュリアンに任せておけば大丈夫なのだろうと信じ、ソワソワしながらも、それぞれの業務に戻っていた。


セバスチャンは、近くのソファに腰をかけて、寝室の入り口に視線をやったり、室内の作業者をぼーっと眺めていた。

その時。

廊下から居間に入る扉の方から、一人の侍女が入室してきた。

キョロキョロ辺りを見回して、ゆっくりと寝室に近づこうとしている。

「あ、今は入れないですよ」

彼はそう声をかけたのに、躊躇いもなく1枚目の扉を開けてしまう。


「あ、待って!」そう言いながら、慌てて寝室の方に近づくセバスチャン。

その様子に異変を感じた数人の侍女も、動きを止めて寝室の方に視線を向けていた。

「あ!」

扉の前に立ち、不審な動きをする侍女の動きを止めようと思った彼は、驚きの声をあげて立ち止まる。

「どうされましたか?」

そばにいた別の侍女が、セバスチャンのすぐ後ろに行き、息を飲んで立ち尽くしてしまう。

寝室への一枚目を開けて前室にいたのは、二人のジュリアンだった。


マディラの寝室から出てくる時に、本来の姿に戻ったジュリアンと、彼の姿を見た瞬間に侍女から国王の姿に変えた謎の人物が、同時に居間に姿を現す。


セバスチャンや使用人たちが、目を見開いてその異様な光景を目撃する。

国王の一人が「この者は偽物だ!とらえよ!」と指示を出す。

彼の声が鋭く響き、侍従たちは戸惑いながらもその言葉に反応し、すぐに動こうとする。

しかし、その直後、もう一人の国王が冷静な声で反論する。


「待て!彼こそ偽物だ、僕が本物だ!」

侍従たちは混乱し、動きが鈍る。

二人の国王が同じ顔、同じ声で互いに相手を偽物だと断定する光景に、誰もすぐに判断を下せずにいる。

居間は緊張感に包まれ、空気がピリついている。両者は互いに睨み合いながら、一歩も引かない。


「僕の方が本物だ。先ほど、王妃が偽物の言葉に傷つき、僕が彼女を慰めていた。彼女は落ち着いたばかりだ。疑うならその姿を見てきてくれ」

自分が本物であることを強調しながら、はじめに命令した国王は冷静に事実を並べ立てる。

周囲にいた侍女たちは、その言葉に思わず頷きかけるが、もう一人が即座にそれに続く。


「そんな言葉で僕を偽物扱いするのか?彼女の異変を聞き、先ほどまでそばにいたのは僕だ。

そもそも王妃は今、やっと落ち着いたばかりなのに、そんな彼女をわざわざ再び興奮させるようなことをするのは愚かだ。偽者の言葉に惑わされてはいけない」もう一人もまた、言葉を繋げる。

両者の主張はほぼ同じであり、家臣たちは再び困惑し、どちらを信じるべきか判断に迷い、視線を交わす。


そこに、ある人物がツカツカと二人の国王に歩み寄り、迷いなく一人の国王の腕を掴んだ。

「あなたが、偽物ですね」

部屋の空気が一気に張り詰める。偽物とされた国王は、一瞬目を見開いたが、すぐに冷笑を浮かべた。

「君は偽物に騙される愚か者か……!」

だがその瞬間、もう一人のジュリアンは呪文の詠唱を始める。

目に見えない力が急速に渦巻き、その力が結集したかと思うと、まばゆい光が瞬く。

そして国王に向けて魔法のロープが飛び出し、その身体を強く縛り上げた。

国王は抵抗するも彼の力は限界を迎え、彼の足元がふらつく。

彼は激しく息を切らしながら、ついに膝を折り、無力に地面へと倒れ込んだ。

「く……!本物の僕にこんなことをして……ただで済むと思うな……」

国王は最後の抵抗を試みるが、その体を縛るロープは緩むことなく、しっかりと彼を捉えたままだ。


「セブ、助かったよ。だけど、なぜ彼が偽物だとわかったんだい」

ジュリアンがセバスチャンに話しかけると、本物をちゃんと見分けられてホッとしたセバスチャンは、一瞬戸惑いながらも、謙虚に応えた。

「彼から、オーラが発せられていました。ニコラス様やガロスと同じもの。そして、王宮内に同じ種類のオーラを持った人物がまだいる気がします」

そう言いながら、セバスチャンは縛られた国王に歩み寄り、彼の胸ポケットを触り、一枚のカードを取り出す。

その片側の図柄は、彼らが持っているものと全く同じものだった。



――――――――――



夕刻、国王の執務室。


執務室は重厚な木製の扉が静かに開かれると、柔らかな絨毯に足音が吸い込まれ、若い貴族が一歩一歩慎重に入室した。

広々とした室内には、厳格ながらも落ち着きある装飾が施されており、大理石の柱と豪華な書棚が並ぶ。

部屋の隅には王家の紋章が誇らしげに掲げられており、執務机には分厚い書簡が整然と積み上げられている。

「面会の時間をいただいているニコラス・ジョンソンです」

彼は静かに頭を下げ、礼を尽くした挨拶を述べる。その態度には緊張と礼儀が混じり、ジョナサンもその様子を鋭く見つめ、彼を迎え入れる。

「急遽お時間をいただいたようで、すみません」

「ジョナサン殿、どうも」

二人は議場や行政棟でお互いの姿を見掛けるものの、直接話すことは滅多にない。

ニコラスはまだ若手なので、国王から直接指示を出されることがないのも一因ではある。


ジョナサンは執務机の前にあるソファを手で示し、冷静な声で促した。

「陛下はまだお戻りにならないので、こちらにかけてお待ちいただけますか」

ニコラスがソファーに腰を落ち着けると、お茶が出されたので一服していたところ。

しばらくして室内の扉が再び開き、軽快な足音と共に国王が入室した。薄く微笑む国王の表情には、少し疲れた様子がうかがえたが、温かな目元がニコラスを見つめた。

慌てて立ち上がり、礼をするニコラスに「やぁ、急に呼び出してすまなかったね」と言いながら国王は椅子にかけることを促したので、再び着席するニコラス。


ジュリアンは少し顔を曇らせ、静かに室内を見渡した後、声を低めて命じた。

「すまないが、ジョナサン以外退室してくれないか、大事な話がしたくてね」

彼がそう切り出すので、室内で作業をしていた数人の使用人がスッと部屋から退室し、最後に出た執務官が室内に軽くお辞儀をして扉が閉まる音が響くと、室内は静寂に包まれた。

残された国王と侍従長、そしてニコラスの間には、ただならぬ緊張感が漂い、ニコラスは自然と背筋を正して身構えた。


「さて、何から話すべきかな……」

扉が閉まったことを見届け、そう言いながら、自分の執務デスクに軽く腰をかけてソファーの方を見て腕組みをし、ぽつりと話しだすジュリアン。

「ジョナサン、君、最近僕の、というかマディラの周りで何か画策しているだろう。どういうつもりだ」

全く笑顔のない表情で、出入り口付近の壁際に立っていたジョナサンに視線をやりながら、そう質問をするジュリアン。


「申し訳ありませんが、何のお話をされているか皆目見当もつかず」

困惑した表情で、そう返事をするジョナサン。

関係者だけ残っているはずなのに、なんの話をしているかさっぱりわからず、ニコラスはただただ二人の会話に耳を傾けていた。

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