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ふる傷 6

アルバス城すぐ 貴族の屋敷が集う区画の一角


一台の馬車が古びた石畳の道をカタカタと音を立てて、休日の昼に走り抜けていく。

重々しい静けさに包まれた森を抜け、やがて壮麗な貴族の館がその姿を現す。


「ここがジョンソン家か……」と馬車の車内でマディラはつぶやいた。

門がゆっくりと開き、屋敷の敷地内へ馬車は進んでいく。

そして、正面玄関に降り立ったのは、セバスチャンとマディラとジュリアンだった。

3人は応接室に通され、やがてジョンソン家の当主であるリチャード・マイケル・ジョンソンが現れた。

その威厳ある姿は、歴史ある貴族の一門を担う当主の風格を創造させる。

リチャードの後ろには、若干ウェーブがかった深い栗色の髪の長身の青年が立っている。

次代を担うニコラス・サンダース・ジョンソンであった。


「お待ちしておりました、国王、王妃両陛下」リチャードが応接室で深々と頭を下げる。

「すまないな、休みの日の訪問となってしまい。本日はいつもの公務と違って、少し個人的な用事なので」

ジュリアンはそう声をかけ、貴重な休日のもてなしに感謝の意を表明する。

「はい、もちろんです。我々の方が、本来ソフィア殿下に上手くお話をしていればよかったのです。

しかし、妹のルイーズがまだ若かったので、時期を見計らっていたところ、あんなことになってしまい……

ですが、こうして我が家の特殊な運命をようやく知っていただけたこと、光栄に存じます。」


話によると、ジョンソン家は先の大戦後、一世代に一人はカードの能力を有しており、アテナエルやトーラーの伝承を引き継いでいたらしい。

ルイーズは、女教皇のカードの持ち主として数年前に能力に目覚め、神秘的な知識や直感力が、通常のグリーンフレードム国の国民より数段優れていた。

アテナエルや大臣についても、何か見通していたらしい。


しかし半年前に突然、不慮の事故で他界してしまい、その多くの伝承が途切れてしまったとのこと。

彼女の死後、つい2−3ヶ月前に、ニコラスの元に魔術師のカードが現れ、今度は彼に力が発現した。

それにより、彼はアテナエルの気配を感じていたものの、具体的に誰が器になったかまで特定できていなかった。

その状況が変わったのが数日前。

アテナエルがジュリアンに、歴史ある貴族のリストから、いくつかの家にトーラーについて問い合わせを出してもらったところ、今回ジョンソン家がその情報を持っていると判明した。


マディラは、二人のやり取りを静かに頷きながら、リチャードに目を向けた。

「代々、この国の守護者として一族が存在していたとは知らなかったわ。」

リチャードが答える前に、高貴な雰囲気を醸し出すローブに身を包んだニコラスが一歩前に出た。

彫りが深く、貴族的な端正さがある顔つきで知的で高貴な印象。

肌は長時間の屋内活動が多いのか、透き通るような白い肌で、スリムで引き締まった体型。

筋肉は細身だが無駄がなく、魔法を操るための集中力と敏捷さが際立つ。

「女王陛下、私たちジョンソン家の力は、国のために捧げるべきものです。」

そう言いながら、ニコラスはマディラに深々とお辞儀をするが、その動作ひとつとってもしなやかで、優雅な動きをする。


「改めまして、ニコラス。君は最近王宮に出仕してくれてるね。まさかこんな縁が持てると思っていなかったよ。王妃の事をよろしく頼む」

ジュリアンも声をかける。

マディラは微笑み、彼女の側に控えていたセバスチャンに視線を向けた。

「彼は側近として、既に私の信頼を得ています。あなたたちが共に協力してくれるなら、国はより強固なものとなるでしょう。」

「よろしくお願いいたします。」

セバスチャンは少し緊張しながらも、ニコラスに向かって頭を下げた。

ニコラスも彼に礼を返したが、その表情には何か冷ややかなものが見えた。


「ルイーズから引き継げなかったものはたくさんありますが、我が家の書庫に、古い書物がいくつかあります。

ひょっとしたら何か当時のことや、マディラ様が知りたいことのヒントがあるやも知れません。今からご案内いたします」

そう、リチャードが腰を上げたので、部屋にいた全員で、屋敷の奥の書庫に向かった。


書庫で、王と王妃がリチャードと話しているので、セバスチャンも書庫の別の区画で本を眺めている。

そこにニコラスが静かに彼に歩み寄るが、その鋭いグレーの瞳には怒りが潜んでいた。


「貴様は運が良かったな、村の出身者としてここまで来るなんて。」ニコラスの声は冷たく低い。

「もし貴様がいなければ、王妃の側近になれていたのは俺だったはずだ。運のいいやつだ」

セバスチャンは目を細め、冷静に応えた。

「俺はただ、自分に与えられた役割を果たしているだけだ。あなたの立場を奪おうとしていない。」

「そうかもしれない。でも、貴様が俺の立場にいることが我慢ならん。」

そう言いながら、ニコラスはさらに一歩詰め寄る。

「俺は生まれながらにしてジョンソン家の後継者であり、この国に尽くすべき存在だ。それを忘れるな。」


セバスチャンはニコラスを真っ直ぐ見つめ、少し間を置いてから答えた。

「あなたがそう思っているなら、俺はそれでいいと思う。争うつもりはない」

ニコラスは苦々しそうに視線を逸らし、青年を睨みつけたまま去っていく。

その背中には、王妃の前で見せた姿とはまったく異なる、不満と嫉妬が渦巻いていた。


ジョンソン家の屋敷から戻ってきた後、アテナエルがマディラに呟く。

(自分が思っていた人物と違う者だった。宮廷内に、最低もう一人はトーラーがいる)と。

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