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ふる傷 2

「能力で劣る僕は、君のそばにいる価値がない」


ジュリアンにそう告げられたマディラは、もっと驚くなり、感情が揺さぶられるのではないかと思ったが、特に感情的になっている様子はない。

「あなたは、これまで私が能力的にあなたより劣っていた、もしくは優れていてもそれを表に出さなかったから側においていたわけ?

そして私が能力を隠さなくなったから、私に対する気持ちが変わった、と」

そう質問するマディラ。


「いや、それは違う。そんな風に考えたことはない」

ジュリアンは即座にそれは否定し、彼女の瞳を真剣に見つめた。

その言葉は揺るぎないもので、彼の声には真摯な響きがあった。

ジュリアンは、マディラとの実力差を早くから見せつけられていた。

彼の認識では、彼女に告白する前からその差は明白だったし、彼女は能力を使う場面がなかっただけで、それを隠そうとはしていなかった。

「知ってるわ、そうよね。でなきゃ、後宮での初めての夜、私が「私の血や能力を利用する価値があると感じているか」って質問にNOって言わないしね」

ふふ、と彼女は微笑みながらそう返し、彼の隣に座り、肩を軽く寄せる。

彼の緊張が、少しだけ解けたように感じられた。


「なんとなく、その葛藤はわかるわ。私もそうだった」

え?と聞き返すジュリアンの反応を確認しつつ、彼女は話を続ける。

「人間界で能力が封じ込められていた頃、あなたが私を庇って傷つくたびに、自分の無力さに落胆し、もっと力が欲しいと思った。

とても不甲斐のない自分が嫌だったし、もどかしかった。

あなたを守る力が欲しいと、ずっと思っていた。」

その言葉には、過去の苦しみと決意が込められていた。彼女の瞳に一瞬、遠い昔の記憶がよぎる。


人間界で。

中学校の校内で、守衛との戦いで彼が怪我をした時、彼が張った結界の中から、ただ見ていることしかできなかった自分。

マディラに刺客が迫っているとニーベルに報告後、苛立ちのあまり、背後にいたマディラの気配に、ジュリアンが思わず抜刀したこともある。

そこまで余裕がなくなるほど彼を追い詰めたのは、全く戦力にならない自分の存在そのものだった。


「マディラ……」

彼はその言葉を聞いて、彼女の過去の苦悩を思い出し、深い感慨を抱いた。

「私の封印が解けても別の方法で力を抑制されて、この国に来てその呪縛も解けたとき、やっとあなたと対等になれると思ったの。でもそれは違うことに気づいて」

その言葉には、彼女がこれまで抱えてきた思いと、その思いを超えた理解が含まれていた。

「あなたは、私に力があってもなくても、ずっと変わらない態度で接してくれていた。

能力の優劣なんか関係なかったのよ、初めから。

ニーベルで、「身分なんて関係なく、他愛のない話をいつでも気軽にできる関係でいよう」って言ってくれたでしょう?身分だけではなく、能力についてもそうよね?

あなたが私にそう言ってくれているのに、どうして、私があなたのことを同じように見ていないと考えてしまうの?」

その言葉には、彼女がずっと理解してくれている安堵と、彼を安心させようとする優しさが込められていた。


ジュリアンは彼女の言葉を静かに受け取り、考えを巡らせた。そして、ふっと力が抜けたように、

「……ああ、そうだな。そうだった」

と、しみじみとした口調で答える。

彼の顔には、やっと心の重荷が解けたような安堵の色が浮かんでいた。

彼女の隣にいることで、自分が持っていた不安が、無意味であったことに気づかされる。

二人の間に漂っていた微妙な緊張感が、少しずつ溶けていくように感じられた。


「変なことを言ってすまない。真剣に悩んでいたんじゃないんだ。ただ、ここ数日の環境の変化から、急に心に浮かんだものだから」

すっきりした顔でジュリアンが言うと、

「私自身は何も変わってない。状況が変わっただけで」

そう言いながらマディラはにっこり笑い、立ち上がる。


「そろそろ戻りましょ、二人とも行方不明になっちゃうと、みんな心配しちゃうから」そう言いながら手を差し伸べるマディラ。

ジュリアンはしっかりと彼女の手を取って立ち上がり、二人並んで城に戻っていった。



――――――――――



アルバス城近く 神殿所属の宝物殿


ここでは、もうすぐ例祭が行われるのに合わせて、特別展が催されてた。

セバスチャンは、せっかくの良い機会なので、ここの展示品を鑑賞し、自分の本職に役立てようとしていた。

正確には、後宮をうろつくなと侍女に注意されて、暇つぶしに来たともいえなくはない。


マディラと共にアルバス城に入り、早速彼女のために働けると思ったのだが。

どうやら、数日後に控えた例祭準備で王宮全体が慌ただしく、セバスチャンは放置状態になっていた。

また、後宮は本来国王以外男子禁制らしく、入城後初めての日のように、建物内をうろついたり、ましてや勝手に、一の間と呼ばれる正妃の部屋に入るなとお叱りを受ける。

彼女に近づいて良いのは、王妃から面会を指示された時に、謁見室でのみらしい。


マディラは入城後、一度だけセバスチャンのいる客室を訪れた。

今後数日間は、ちょっと彼との時間が取れないが、代わりにこの客室と城下町なら自由に出入りできるように衛兵には伝達すると言われ、こうして城下町を散策している。

彼女を守るために意を決して村を飛び出したのに、ちょっと拍子抜けではある。

しかし、王都にゆっくりと滞在するのは人生初なので、気持ちを切り替えてここ数日過ごすことにした。



――――――――――



例祭の準備で、宮廷で儀式の招待者リストを眺めていたマディラ。


すると、アテナエルが(知っている貴族がいる気がする。どの家がいつぐらいにできたか把握しているか?)と問いかけてくる。

「自分はなんとなくしかわからないけど、ジュリなら知っているかも。そういう事に驚異的な能力を発揮している」

そう言いながら、彼女はすぐそこにいたジュリアンに、招待客リストを見せながら話しかける。

「どの家がいつくらいに興ったかわかる?」

「多分……。例えば、ウッドウィル家は300年くらい前からあるけど、その下のルグラン家は先代のころ新たに叙爵されている。なんで?」

色んな知識を吸収すること自体が彼の特殊能力なので、マディラの予想通り、突然のマニアックな質問にもすらすらと答えるジュリアン。

「アテナエルに聞かれたから。今替わるよ」

たまたま目覚めているアテナエルと直接話してもらった方が早いので、マディラとアテナエルの意識が切り替わった。

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