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目覚め 1

緑の世界 グリーンフレードム国


新王即位から2年

ドワーフの二人組、グリンとボリンは、森の片隅で熱心に地面を掘り進めていた。

彼らはギャンブル仲間が借金のカタにくれた、宝物の古い地図と言われるものを手に入れた。

この場所で何か価値のあるものを見つけられると確信していた。


「グリン、もっと奥を掘ってみろ。何かに当たった気がするぞ。」

ボリンが土をかき分けながら言った。

グリンは手に持ったシャベルで力強く掘り進めると、硬いものにぶつかる音がした。

「何だこれ?石か?」と、彼は疑い深げに見下ろした。


ボリンもその音を聞いて、興奮気味に土を払い始めた。

「いや、石じゃない。もっと……丸い。何かの壺か?」

土を掘り進めるたびに、壺の形がはっきりとしてきた。

古びた陶器の壺は、青銅の装飾が施され、何世紀も経ったような風合いをしていた。

「開けてみよう。」

ボリンが力強く言い、手を伸ばして壺の蓋を握りしめた。


グリンは少し不安そうに、「宝物だったらいいけど、中に何か呪われたものが入っていたらどうしよう?」と尋ねたが、ボリンは無視して蓋をひねった。

すると、壺の中から奇妙な煙がゆっくりと立ち上り、空気をかき混ぜるように渦巻き始めた。

煙はどんどん濃くなり、やがてグリンとボリンの周りに漂い、ふわりと浮き上がると、一瞬で形を変え始めた。


煙の渦の中心から、年老いた顔が浮かび上がった。

細長い鼻、しわくちゃの顔、そして目の周りには長い白髪が垂れ下がっていた。

煙の身体は次第に具現化し、1.5メートルほどの小柄な老人が現れた。

彼はまるで魔法使いのような風貌で、ボロボロのマントを羽織っていた。


「わぁ……これはいったい……」グリンが呆然としながら呟いた。

老人は目を開け、両手を広げて深呼吸をすると、柔らかな声で語り始めた。

「何百年もこの壺の中で眠っていたが、ようやく解放された。お前たちが私を見つけてくれたのか?」

ボリンとグリンは驚きながらも、興奮を隠せなかった。「ああ、そうだ。俺たちが見つけたんだ。」


「ふむ、ならば……お礼をしなければなるまいな。」

老人は微笑みながら、周囲に目をやった。その眼差しには不思議な力が宿っているようだった。


老人は、自分が入っていた壺の中を覗き込み、奥に黒く光るものがちゃんと入っていることを確認する。

「今、器を探してやるから、もう少しここで大人しくしていろ」と話しかけて、落ちていた蓋を拾い、しっかりと閉め、自分の足元にそれを置く。


老人はマントの奥をゴソゴソと探り、古びた望遠鏡を出し、どこか遠くを眺めている。

「あっちに、強い気が感じられる。行ってみる価値はあるな」

その方向には、王都があった。



――――――――――



グリーンフレードム国に移住して11年


ある穏やかに晴れた日の午後。

王宮の庭に立つ、白亜のガゼボに、3人の人影があった。

国王、ジュリアン・ソレイユ

王妃、マディラ・イザベラ

そして二人の娘のクリスティナ・シャルロット。彼女はあと数ヶ月で7歳になる。


3人とも空き時間が揃ったので、庭でアフタヌーンティをすることになったのだ。

「ティナ、鼻にクリームがついてるわよ」

フワフワのクリームが上に乗せられたミニカップケーキを、娘は一口で食べようとしたらしい。

しかし、自分の口の位置を把握しておらず、口を開ける前にクリームが鼻の頭の先に付いていたので、マディラが指摘する。

そばにあったナフキンで子供の顔を綺麗にしながら、どうしたらこんな汚し方をしながら食べれるの、とクスクス笑うマディラ。

その二人の様子を、ティーカップを口元に運びながら、ジュリアンは微笑みながら眺めていた。

この何の変哲もない日常、これが自分の求めているものであった。

やっと手に入ったんだと思いながら、彼はこれまで色々とあったことを思い出す。



――――――――――



ジュリアンの戴冠式から数ヶ月後


後宮は慌ただしい雰囲気に包まれていた。

半日以上前にマディラに陣痛が起き、今まさに子供が生まれようとしていた。

運悪く議会が長引いて、やっと後宮に入ることができたジュリアンに、侍女たちが状況を説明していたその時。


おぎゃぁぁぁ


あたり一体に産声が響き渡った。

「おめでとうございます。元気な男の子がお生まれになりました。お妃様の体調も大丈夫そうです」

マディラの部屋から、分娩の介助をしていた者の一人が国王にそう報告に来た。

「そうか……よかった」

「ただいま王子様の体を綺麗にしたのち、お部屋にお戻ししますので、先に室内で待っていただいても大丈夫です」

そう言われたので、ジュリアンはマディラの様子を見にいく。


「お疲れ様」

そう声をかけて、ひと仕事おえて少しぼーっとしていたマディラのそばに近づき、頭を優しく撫でる。

「あぁ……うん……。男の子だって」


一日近く続いていた陣痛から解放されて、そして母体も急激な変化にさらされて流石に疲労をしているようなので、ジュリアンはそれ以上話しかけることを控え、静かにそばについていた。


数分後、まっさらな布に包まれた、生まれたての赤ちゃんが部屋に運ばれた。

マディラは体を起こし、ジュリアンとともにその赤ちゃんを受け取り、新しい命の誕生に喜びを分かち合っていた。

彼はフレデリック・ルイス・オリヴィエと名付けられた。


マディラは、彼女の生まれなどに偏見を持たない真っ新な命を、情熱を持って育てようと思っていた。

自分の愛を一身に受け、また彼が自分のことを愛してくれたら。

愛情を注げばきっと、自分のような、親をはじめ誰にも愛されなかった人間も、自分が産んだ子なら彼女を必要としてくれるだろうし、生きていていいんだという自信が、やっと持てるのではないかと考えた。


フレデリックは成長が異常に早く、3ヶ月でハイハイ、6ヶ月で立ち歩きをしてパパママと言い始め、1歳には二語文を話すようになっていた。

通常、1歳で歩くようになるかどうか、二語発話は2歳以降で見られると言われたので、以上な成長スピードだと認識しつつ、これも個性だと捉え、国王夫妻はあまり深刻に考えなかった。


マディラとしては、早く双方向コミュニケーションができるようになって嬉しかったし、成長するにつれ、ジュリアンの人間界にいた時の姿にそっくりの、黒髪に黒い瞳の特徴が出てきたのを確認できて、ホッとしていた。

ジュリアンは自分の子だといっていたが、妊娠した時の状況をマディラが覚えていない以上、万が一、彼の特徴が全くない子供だったらどうしようとずっと怯えていたのだ。


そんなある日、息子の部屋でマディラと二人で遊んでいたところ。

フレデリックは急に「ママ、バイバイ。エンエン、ダメ」と、彼女に話しかけてきた。

突然のことに、初めは意味がわからなかったのだが、何度も同じ言葉を繰り返すので、バイバイしても泣かないでといっているのだと、マディラはようやく理解する。


「えー、でもバイバイされたらママ泣いちゃうよ」

と返事をするとフレデリックは少し考えて、「おっきぃフレディ。ギューすりゅ」と言い出した。

全く文脈が掴めないが、いろんな文章を考えて話してくれるのはすごいな、と我が子に感心しながら、「フレディがおっきくなってもギュッと抱きしめてくれるの、ママ嬉しいわ」とマディラは返事をする。


「さ、そろそろお昼寝の時間ね。ベッドに戻りましょう」といって、彼女は床で遊んでいた息子を抱き上げた。

ぎゅーっと抱きしめた後、彼をベッドに寝かしつけ、子守役の侍女に世話を交代して、マディラは部屋を出たのだった。

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