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独り旅 8

村の騒動の翌日


自室のベッドから起き上がらず、横になったままのセバスチャン。

いろんな事がありすぎた上、少し体力を消耗していることもあり、活動する気にならない。

サイドテーブルの引き出しからカードを取り出し、じっと見つめながら、昨日のやりとりを思い出した。



――――――――――



カインとの激しい戦いが終わり、村に漂っていた異様な空気が一瞬にして静けさへと変わった。

操られていた村人たちの目が徐々に元に戻り、彼らは自分たちが何をしていたのか理解できずに、戸惑いの表情を浮かべている。

村の騒動が収まったことを感じ取ったマディラとセバスチャンは、彼の家の前で静かに向き合っていた。


マディラは、カインの最期を思い出しながら、深く息を吐く。そしてセバスチャンに向かって静かに話しかけた。

「あなたが……私が探していた人だと確信したわ。あなたの力が必要なの。どうか、都に来てください。カインのように、悪の心に取り憑かれた人たちから国民を救うために、力を貸してほしい。」

マディラの瞳は真剣で、そこにはただのお願いではなく、信頼と期待が込められていた。

「これからもっと悪い力に取り込まれた人が増え、国の平和をおびやかそうとする被害が各地で出る。

その力に対抗できる、特殊な力を持った人たちとともに、平和のために戦うのが私の使命。

力の持ち主は、特別なカードを持っているけど、あなたも持っているのではないかと思う。」


だが、セバスチャンはその言葉にすぐには答えられなかった。

幼馴染であるカインが、自ら命を絶った直後だったからだ。

胸の奥に広がる喪失感、そして突然の別れが彼を戸惑わせていた。

「すぐに……都に行けと言われても、俺には……」

セバスチャンは俯き、言葉を詰まらせる。

好きな人であるマディラの願いとはいえ、故郷を離れて彼女についていくことに、心の整理がつかないでいた。

彼女はその姿を見て、静かに言葉を紡いだ。

「カインを救えなかったのは、あなたのせいじゃないわ。彼が悪に染まったのは、彼自身の選択だった。それでも、あなたが私たちの力になってくれるなら、これからはもっと多くの人を救えるわ。」


その話を聞いても、彼の心にある重圧は簡単に消えるものではなく、セバスチャンはすぐには返事をしなかった。

「唐突にお願い事をして、失礼な人間だと言うことは承知しているけど……こんな大変な事が起こって、本来ならゆっくり静養して心の傷も癒して欲しいと思っている。だけど、私はもうすぐ帰らなければならないから、それについて来てほしい。突然、いろんな事が起きて混乱していると思うけど、力を貸してください。」

そう言いながら、マディラは頭を下げた。



――――――――――



その時、裏口の扉がノックされ、鍵をしていなかったのでセバスチャンの家に人が入ってきた。

リサだった。

彼女は心配そうに彼のベッドのそばに座り、弱々しい彼を見つめていた。

「あなたとマユカさんが村を救ってくれたと聞いたわ。そして急に大きな力を使って、家で寝込んでいると聞いたから、心配だったの。」

リサの声には温かみがあったが、その目には不安がにじんでいた。

「ごめん、リサ。」

彼は疲れた顔でそう言った。


「何か、考え込んでいるのね……。私はあなたを信じてる。私たち村のみんなは、あなたを心配していることを忘れないで。」

リサはそう言い残し、静かに部屋を出ていった。

セバスチャンには、胸に渦巻く感情を整理する時間が必要だった。


マディラの言葉を思い出す。

自分は地元である都に戻らないといけないので、明後日には村を出る。

もしも私と一緒に戦ってくれるなら、10時に村の入り口に来て——。


セバスチャンは、カードをチラリと見て、ため息をつく。

このカードが、マユカさんが探している人の証……

「どうしてこんなことに……状況が状況とはいえ、自分の目の前で幼馴染が死んでしまった」

今は何も考えたくない、そう思い、彼はそっと目を閉じた。



――――――――――



約束の日の朝


村の入り口でマディラは馬を引いて待っていた。

冷たい風が吹き抜け、彼女の長い髪が揺れる。

村人たちの生活は少しずつ元に戻りつつあったが、彼女の心にはまだ不安が残っていた。

「やっぱり……来ないか。」

セバスチャンが約束の時刻になっても姿を見せない。

彼が都へ行くことを決意できないのは理解できるが、それでも一緒に来てほしいという願いは強かった。


「仕方ないわ……一人で帰るか」

マディラは心の中でそう決めると、静かに馬にまたがり、出発しようとしたその瞬間、背後から声が聞こえた。


「待ってくれ……俺も行く!」

振り返ると、セバスチャンが息を切らせながら駆け寄ってきた。

彼の目には覚悟の色が浮かび、全てを受け入れる決意が感じられた。

「セバスチャン……来てくれるのね。」

マディラはほっとした表情を浮かべた。


「行くよ、都に。」

走って息が切れたので、一度言葉を切り大きく深呼吸をして、マディラの方を見てセバスチャンが答える。

「まだ迷いはある。でも、俺が都に行くのは、この地を離れてカインのことを忘れたいなんて後ろ向きな感情からじゃない。国民を救うために、僕にできることがあるなら、やってみようと思う。」


その言葉にマディラは安堵の笑みを浮かべるが、セバスチャンの目には別の感情が宿っていた。

セバスチャンが村を離れるのは、国を救うという崇高な使命もあったが、それ以上に強かったのは、マディラと一緒にいたいという、彼の純粋な気持ちからくる個人的な理由。

彼女を守りたい、彼女のそばにいたい——その思いが、彼を都へと導いていたのだ。

都で何が待っているかなんてわからない。

でも、それよりも彼女と一緒にいることが……俺にとって一番大事だ。


マディラは優しく微笑んで、手を差し出した。

セバスチャンはその手をしっかりと握り、二人は馬に乗って都へと向かっていった。


――――――――――



森の中の街道


マディラとセバスチャンは、馬でここを通り抜けていた。

マディラが先に走るのだが、結構早く、彼は一定の距離をとって彼女の後をついていくのに精一杯だ。

2頭の馬は城下すぐの森も通り抜け、都が見えてきたとき、急に考えを巡らせるセバスチャン。


村を出た時は、彼は馬を持っていなかったので、マディラの馬に一緒に乗っていた。

夕方前に途中の宿場町に着いたので、そこで一泊することにした。

彼女は気前よく宿代を支払ったり、金貨でセバスチャン用の馬を借りたり、確かにずいぶんお金を持っている印象を抱いた。

また、先日の剣さばきや光の魔法からは、邪悪さよりも優雅さや上品さが滲み出ていた。

彼女はスパイというより、貴族かもしれないと漠然と考えていた。

しかし——


城下町のゲートを潜り城を見た時、急に、彼女は貴族ではなく王家の一族ではないかと考え始める。

そんなすごい人と一緒に行動をしていたかと思うと急に動揺し、彼は今の王家の体制が咄嗟に思い出せない。


——前女王の親戚筋?現国王はどんな人だ?

そう考えれば考えるほど、セバスチャンは頭が真っ白になり、気がついたら警備兵が速やかに開門し、裏門から城内に入った。

ほとんどフリーパス状態だった。


マディラとセバスチャンは厩舎で馬を降りると、何名かの使用人らしき人が集まってくる。

彼らに対し矢継ぎ早に指示を出すマディラ。

「この人は客人なので後宮の客間を一室用意して」

「この馬は宿場町で借りたから返しておいて」

「彼は後宮に出入りするような服がないから、取り急ぎ誰かの使用していないものを貸してあげて。ジュリが何か持っているかもしれない」

「ジュリに帰ったと伝え、午後少し時間があったら「一の間」に立ち寄ってもらって。外出で埃っぽくなったから今から入浴するわ」


「セバスチャンも体を綺麗にして。服は貸してあげるから、着替えて軽く軽食を取ったら私の部屋に来てちょうだい」

凛とした声で名前を呼ばれた気がし、彼はハッと気づいたら、マディラはすでに彼に背中を向けている。

呆気に取られていると、侍女らしい女性を連れて、彼女は建物内に消えてしまった。

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