独り旅 5
カインの館
広間にて、彼の父であり、この辺りの地主のロイドとカイン、そしてマディラが向かい合ってランチを楽しんでいた。
テーブルには豪華な料理が並んでおり、カインは終始穏やかで品のある笑みを浮かべている。
「マユカ様、この村にはあまりお楽しみいただけるものはございませんが、どうかごゆっくりご滞在ください」と、ロイドが言った。
白髪が交じる壮年の男だが、落ち着いた態度と威厳が漂う。
「いえ、そんな。十分に素晴らしい場所です。静かで美しい自然がありますし、村の皆様もとても親切です」とマディラが優雅に微笑む。
その仕草で、二人はマディラが上流貴族の出身であることを見抜く。
ロイドは彼女に質問を続ける。
「マユカ様、今日はこの村を案内してもらったようですが、どんなところに行かれたんですか?」
「ええ、セバスチャンさんと村の中央広場や、川沿いの道も歩きましたし、最後には彼の工房も見せていただきました。とても静かで落ち着いた雰囲気の場所でしたね。」
カインがその話に反応をする。
「ああ、彼の工房は古くから続くものですし、村の伝統的な技術を支えているんですよ……もっと発展させる余地もあると思うんですが、最近はあまり新しい作品を作っていないようです。」
ロイドは、微笑みを浮かべながら話題を変える。
「この村は、自然の美しさと職人の技が魅力なんですよ。昔から続く陶芸や農業が、村を支えているんです。
ただ、最近考えているのは……新しい道を作ることです。村の端にある信仰されている大岩は見られましたか?
あれが少し邪魔でしてね。どかして道路を通せば、もっと村が発展するんじゃないかと思うんです」
父親の言葉に対し、カインは少し眉を寄せながら、考え込むように答える。
「大岩には長い歴史があるし、村人たちの信仰も深い。道路を通すことが発展につながるかもしれないけど、村人たちがどう感じるか……」
ロイドが続けて、「でも、村に新しい道が通れば、物資のやり取りがしやすくなるんですよね。村の未来を考えると、悪い話ではないと思いますが……」と、彼の持論を主張する。
カインは深く頷きながら、マディラの方に目を向けて、話を振る。
「なんとか反対派を説得したいのですが……、マユカ様は、どう思われます?」
彼女は穏やかに微笑みつつ、「お話、とても興味深く伺っています。立場が違えば意見も変わりますね」と優しく答え、どちらの意見にも偏らず、会話を見守るようにしていた。
その後も穏やかな会話が続き、ロイドとカインはマディラに対して敬意を持った態度を崩さない。
ランチの終わりに近づくと、ロイドは立ち上がり、最後に軽く頭を下げて言った。
「私は用事があるのでこれで。本日は我が家にお越しいただき、誠にありがとうございます。どうぞ引き続きご滞在をお楽しみください。」
そして、程なくしてランチが終わり、マディラはカインの館を後にしようとしていた。
外を見ると、いつの間にか夕方に差し掛かる頃になっていた。
館の前で彼女とカインが別れの言葉を交わす。
「今日は本当に楽しかったです。カイン様のおかげで、村の素晴らしさを改めて知ることができました」とマディラが礼を述べる。
「こちらこそ、マユカ様にお越しいただき光栄でした。またぜひお会いできることを願っております」と、カインは微笑んで言った。
その時、カインはふと視線を感じた。
視線の先には、少し離れた場所で木陰に身を潜めているセバスチャンの姿が見えた。
彼の視線は、どこか不安げで警戒している。
なるほど……セブか——、とカインは内心で微笑むと、わざとマディラに近づき、親しげに微笑みながら彼女の肩に軽く手を置いた。
その瞬間、カインとマディラの顔が不自然なくらい近くなり、セバスチャンが見ている位置からは、まるで今にもキスを交わすかのように見える。
「マユカ様、あなたの訪問は、私たちにとって特別な意味を持っています」と、カインは低い声でささやきながら、マディラの肩から自然な動作で腰のあたりに手を移した。
セバスチャンの心臓は一瞬止まったかのように跳ね上がる。
彼の視界には、二人がまるで恋人同士のように親しく寄り添う姿が映っていた。
息が詰まるような緊張感が、彼の胸を締め付けた。
しかしマディラ自身は、そんなに親しくされたとは感じていない様子だ。
彼女はカインに微笑み返し、彼女に触れた手にも特に気にする様子はなく、穏やかな表情で感謝の意を示しつつ、何気なく会話を続けていた。
「こちらこそ、楽しい時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます」とマディラは礼儀正しく答えた。
セバスチャンが見ていることを確信しているカインは、彼女の微笑みを見て、わざと一歩踏み込み、彼女の耳元に軽く囁いた。
「またお会いできることを楽しみにしています。」
マディラは特に深い意味は感じておらず、「ええ、楽しみにしています」と普通に返事をしたが、セバスチャンの位置から見ると、その親密なささやきは、まるで二人が心の内を共有しているように見えた。
――――――――――
セバスチャンは、用事を見つけてカインの屋敷に足を運んだところ、マディラとカインの親密さにショックを受けて、屋敷に行かず帰宅をする。
ベッドに寝転び、ベッドのサイドテーブルの引き出しから吊るされた男のカードを出して、ため息をつきながら眺める。
父親が不審な死に方をして、それからしばらくしてこのカードが工房に落ちていたので、父親代わりに感じ、お守りがわりにしていた。
何に耐え、何を望み、そしてこの先何が待っているのか——
そんなことを漠然と思いながら、カードの青年を見つめていたが、無くすといけないと思い、セバスチャンはカードを引き出しにそっとしまった。
――――――――――
村の宿屋
マディラがカインの館から宿に帰ってきた頃には夕方になっていたが、思ったよりも昼食で食べてしまった。
晩御飯は簡単でいいやと、売店で買ったマフィンとスープを部屋で食べ終わり、シャワーを浴びたところだった。
「ね、この村のことどう思う?」と、彼女はベッドに寝転びながら独り言を呟く。
(トーラーはいると思われる。しかし、波動が弱く、まだ力に目覚めていない)
「そうなんだ。」
(——そして、地の者もいる。こちらもまだ目覚めていない。)
「えー、ほんと?全然わかんないや、まだ」
(このまま目覚めないなら、それでいいが、もしも覚醒してしまったら——、ワラワ達で対応した方がよかろう。)
「あー、そうか。可能な限りここにいた方がいいね、それは」
(……それと、村はずれの大岩。あれが少し気になる。何かの気配を感じた)
「そうなんだ、ちょっと明日行ってみようか。今日はセバスチャンがいたから、じっくり見れなかったもんね。それに地主親子も気にしてるし」
そんな独り言を呟きながら、マディラは明日の予定を立てた。




