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独り旅 3

多額の懸賞金がかかっている盗賊 ガロス・ブラストール


ジュリアンから注意するように言われていた、無精髭を生やした2m近い大男の出現に、マディラは、剣の構えを崩さない。

だが、相手は彼女をどうにかする意思はなさそうだった。


「てめぇら、何やってんだ?女相手に金を巻き上げようだなんて、くだらねぇこと考えてんじゃねぇよ」

大男はそう言って手下を蹴飛ばし、怒り混じりに叱りつけた。

彼の鋭い灰色の目が、周囲を睨むように見渡し言葉を続ける。

「俺たちは、金に任せて護衛を見せびらかすような貴族からしか奪わねぇ。

それが俺のやり方だ。大義に合わない獲物に絡むんじゃない。

俺たちは、その日暮らしの小銭を稼いでるわけでも、女子供を見つけてイビルるような弱いものいじめをしているのんじゃない」

そして大男は、マディラに向かって軽く頭を下げ、まるで詫びるように言った。


「お前には用はねぇ。こいつらが無礼を働いた。すまなかったな」

「なんだかよくわからないけど。これ以上戦わないで済むなら助かるわ。」

そう言いながら、剣を鞘に納めながら大男に話しかけるマディラ。


「——ところで、ちょっと教えて欲しいのだけど、ほんとは王都の西側の林を抜けた宿場町に行きたかったのよ。南側の森に来ちゃったけど、一番近い宿まであとどのくらい?」

「宿?結構遠いぜ。今からその馬で飛ばしても、空が暗くなってからもだいぶ進まないと……こいつらの足止めがなきゃ、夕暮れ時にはついたかもしれないけどな」

げ、という顔で大男の子分達を見つめながら、彼女は呟く。

「暗い道を突き進むか野宿か——」


「まぁこうなったのは、俺が部下をちゃんと管理しなかったせいだしな。——俺たちのアジトで泊まってくか?道中で危険な目に遭うよりは安全だし、宿に比べたらイマイチだけど、野宿よりはマシだ」

「え、いいの??」

その話を聞いて、急にマディラの顔が輝いた。

夜の森を、か弱い女子一人で進むのは賢明ではないと思った彼女は笑顔で頷き、大男に従って彼のアジトへ向かった。



――――――――――



ガロスのアジト


彼らの寝床は思ったよりも質素な造りで、森の中に隠れるようにひっそりと佇んでいた。

部屋には地味な家具が並び、温かい火が焚かれていた。

マディラが周囲を見渡すと、簡素な家の中には、大男の妻らしき女性が子供の世話をしており、部下たちも共に生活しているのが見えた。

アジトは単なる盗賊の隠れ家ではなく、一つの家族のような温かささえ感じられた。


食事を終えた後、二人は火を囲んで座った。

「あなた、賞金首のガロスでしょ。ただの盗賊じゃないようね」

マディラが切り出すと、大男は少し黙り込み、炎を見つめた。

「確かに、俺たちはただの盗賊じゃない。少なくとも、俺はそう思ってる」

彼は低く静かな声で話し始めた。


「俺はもともと……城下町の端で生まれ育った。貧しい家だったよ。

金持ちどもが私服を肥やす一方で、俺たちはいつも腹を空かせていた。だから、俺は決めたんだ。

悪行三昧と噂の貴族を狙って金品を奪い、あいつらから巻き上げた金を、恵まれない家庭に配るってな」

大男の表情には一瞬、誇りが浮かんだが、それはすぐに沈んだ。


「最初は一人で始めたんだが、成り行きで賛同者が増えていき、気づけば仲間ができた。今じゃ、俺も家族持ち——こんな風になるとは思ってなかったんだけどな」

彼は火を見つめ続け、言葉に重さがにじんでいた。

「だけどな……こんなことをしてるのは、本当は良くないんだって分かってる。

大所帯になっちまったし、森で盗賊稼業なんて続けてたら、いずれここに住む誰かが酷い目に遭うかもしれない。」

ガロスは一瞬だけ仲間たちに視線を移し、再び火を見つめて深くため息をついた。

「俺は足を洗いたいんだ……本当は。有事の際に、こいつらが露頭に迷うのは望まねぇ」


マディラは彼の言葉を聞きながら、真剣な表情で考え込んだ。

彼がただの無法者ではなく、理想や信念を持ちながらも現実に縛られている男だと分かり、心の中で少しずつ彼に対する印象が変わり始めていた。

「それなら、やめちゃえば?今ならまだ間に合うでしょ。子供が大きくなる前の方がいいんじゃない」

彼女の問いに、大男はかすかに微笑んだが、その笑みはどこか悲しげだった。

「やめたいと思っても、簡単にはいかない。仲間や家族をどうするか、俺一人で決められることじゃねぇんだよ」


大男は火の前で腕を組み、彼女をじっと見つめながら問いかけた。

「で、お前は何者だ?こんな森を一人で抜けようなんて、普通の旅人じゃねぇだろ。何か目的があるんじゃないのか?」

マディラは一瞬、彼の目を見て黙り込んだ。正体を明かすわけにはいかないが、嘘もつきたくなかった。少し考えた後、彼女は静かに口を開いた。


「ある人物を探しているのよ。持っているはずのカードを手掛かりにね」

彼女は慎重に言葉を選びながら、そう答えた。

「カード?」

大男は眉をひそめ、興味を示した。「何か特別なカードなのか?」

彼女は微かに頷き、続けた。

「そのカードを持っている者は、私を探しているはず。でも、まだその相手に辿り着けていないの」

大男はしばらく黙っていたが、やがて口元に薄い笑みを浮かべた。

「なるほどな。探し人のための旅か。だが、そんな大事なことを一人でやるなんて、危険すぎやしねぇか?」

マディラはまっすぐ大男を見返し、揺るぎない声で答えた。

「危険なのは承知の上。それでも、私が見つけなければ」

その強い意志を感じた大男は、真剣な表情を浮かべながら頷いた。

彼女の言葉がただの旅人のものではないと察しつつも、深入りするのを避けるかのように、話題を切り替え、二人はしばらく語り合った。



――――――――――



次の日、早朝


「色々とありがとう、そろそろ行くわ」

そう言ってマディラは馬に荷物の準備をしてまたが理、ガロス達がそれを見守っている。

「あ、そうそう、これ」

そう言って彼女はポケットをゴソゴソ探り、何かを指に乗せて大男に向けて弾く。

「それ、宿のお礼。あと、もしもカードを持っている人に出会ったら、お城まで来るように言って。じゃあね」

と軽やかに言って、馬に合図を送り、マディラは颯爽と去っていった。

「あいつ……まさか王家の人間だったのか」

大男は、受け取った珍しい金貨を見つめながら、驚きの顔をして呟いた。


森を抜けたマディラは、やがて小川に差し掛かった。

静かな流れが、太陽の光を受けてキラキラと輝き、周囲には芝生の河原が広がっていた。

彼女は馬の手綱を緩め、馬を休ませることにした。


「ここで少し休んでいこう。日の出と共に走ってから、だいぶ経つ」

そう言うと、彼女は川辺の木陰に腰を下ろし、ガロスの妻にもらったパンをかじりながら、ふと心地よい風に誘われるように目を閉じた。


気づけば、旅の疲れからか、彼女はそのまま昼寝をしてしまった。

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