独り旅 2
後宮 翌日夕方
マディラは、大きめのザックや移動時の服装などを確認していた。
日中にエルニドにエネルギーを供給し、旅の話しをしたところ、自分の葉は万能薬になるから薬代わりに何枚か持っていくように言われ、それもカバンに詰める。
そこに、ジュリアンがいくつか荷物を持って後宮にきた。
「お金は、すぐに使えるような小銭と、嵩張らないようにいくつか金貨を持ってきたけど……普通は、王妃自らこんな大金を持ち歩かないから、庶民の感覚はわからないと思うけど、使う店やタイミングは気をつけるように。それから、これ——」
そう言って、剣を一振り渡される。
「兵士の武器庫ではなく、宝物殿の奥の武器のコレクションの中から、持ってきた。
ウィンドサーベルという、軽いけどしなやかで丈夫な金属で出来ているから、滅多に折れないと思う。
念のために、使うときは気で覆って強度を高める方がいいかもしれない」
マディラは特殊能力があるので、襲われても大丈夫かもしれないが、丸腰というのも良くない。
魔力を増幅させる杖か何か武器をと考えた結果、ジュリアンは彼女には剣を持たせるのが良いと思った。
マディラが王宮内で剣を振るうときは、誰かのものを借りていたので、生まれて初めて持たせてもらう、自分専用の武器に彼女は目を輝かせた。
早速剣を腰に装備し、みんなから離れたとこで抜刀をして振り心地を確認し、満足げに鞘にしまう。
国王夫妻はまるで、修学旅行前の子供と、その保護者のような雰囲気を醸し出していた。
「馬は、長距離移動に慣れているものを手配してもらった。栗毛だよ。厩舎で確認して。あとは、これが地図。」
そういって、国王は紙の地図を近くのテーブルに広げ、二人でそれを眺めるが、彼の仕草にはどこか微かな不安が隠れているようだった。
「城下町を抜けた正門からではなく、裏口から西の林を抜けた方がいい。最近、中央通りの城門から先に広がる森で、貴族を中心に強盗に遭っている話を聞く。」
彼は険しい声で言いながら、指先で城門の位置を示し、さらに視線を西の方角へ移した。
「行きたい方角が特にないなら、裏口から出て、道なりに行けるところを進むことを勧める。特に手強いのが、賞金首のガロス——2mくらいの大男らしい」
「わかった」
と王妃は軽く返事をしたが、その心にはジュリアンの気遣いに対する感謝が募っていた。
彼女が用意していなかった物事を、まるで当然のように全て手配してくれている彼に、自然と感心せずにはいられなかった。
彼が一つ一つ配慮してくれることに、内心ではとても心強く感じていた。
ジュリアンは少し沈黙した後、ふと優しい声で問いかける。
「僕は本当に行かなくて大丈夫?誰かお供をつけようか?」
その問いには、彼の深い心配と優しさが含まれていた。
彼がどれだけ彼女のことを案じているのか、マディラは十分に理解していた。
しかし、しばらく考えた末、彼女は微笑んで首を横に振った。
「道中寂しいけど、私の実践経験が乏しいので、何かあった時に庇う余裕がない。だから一人でいきたい」と静かに返事をする。
一人旅は心配だが、確かに戦闘になれば、誰が付き添いでも彼女の足手纏いになるのは目に見えていた。
「そうか……。本当に、無理はしないで欲しい。いざとなったら、途中で切り上げて瞬間移動で帰ってきてもいいから。」
彼の中にある心配が全く消えることはなかったが、彼女の決意に反論する余地はないと悟った。
「多分大丈夫だと思うけど、いざとなったらそうするわ」
ジュリアンの心配をよそに、マディラは初めての単独の外出に心を躍らせていた。
――――――――――
翌朝、早朝。
マディラは上着の深いフードを被り、馬にまたがりながら、ジュリアンに言われた通り城の裏門を静かに通り抜けた。
目的地は、林の向こうにある小さな宿場町。
だが、林の中の一本道をだいぶ進んだところの分かれ道で、片方の道が巨木で塞がれていた。
走っていた馬がそれを避けて、マディラが命令をする前にもう一つの分かれ道を選んでしまう。
あれ?こっちは、注意するように言われていた森に合流する道——あの巨木をジャンプした方が良かったかもしれない。
しかし目的地が決まっていたわけではないので、成り行き任せでいいやと、引き返さずにしばらく行ったところ——
マディラは、木々の間に潜む影に気づいた。
彼女は手綱を緩め、慎重に周囲を見渡したが、異変を察した瞬間、彼女の馬が不安げに鼻を鳴らし、足を止めた。
「どうしたの?」とマディラが囁くと、道の前方から大きな木の枝が音もなく落ち、まるで道を塞ぐかのように横たわった。突然の出来事に彼女は眉をひそめた。
「おい、嬢ちゃん、そのまま動くな」
低く不快な声が木々の陰から響き、薄汚れた男が二人。
茂みの陰から姿を現し、不気味な笑みを浮かべながらマディラの馬を挟む。
これを注意するように言われていたのか……とジュリアンの言葉を思い出すが、出会ってしまったものは仕方がない。
「お前、金持ちそうな装いじゃねぇか? いいもん持ってるだろ?」
もう一人の男もニヤニヤと近づいてきたが、彼女は動じなかった。
「黙って引き返せば命は助けるけど……」と、彼女は静かに言ったが、その目は鋭く、声には一切の迷いがなかった。
「はは、こいつ、俺たちに命令してやがるぜ!」
「こんな森の奥に一人で来るなんて、分別がねぇな。ここは危険だって知ってんのか?」
男の一人がニヤつきながら、枝を片付ける素振りも見せずに彼女の前に立ちはだかった。
「危険?それはあなた達たちのこと?」マディラは冷ややかに答えたが、男たちは意に介さず笑い続けた。
「そうさ、この森には危険がいっぱいだ。盗賊、野獣、そして……まぁ、俺たちみたいな奴がな」
もう一人の男が彼女の馬に近づき、手綱を掴もうとする。
だが、彼女は冷静に馬をうまく動かし、男から少し距離を取る。
「馬から降りて、大人しく財布を渡せば、痛い思いをしなくて済むぜ」という男に対し、
「ま、初めての実戦にはちょうどいい相手か」
と、彼女は鋭い目で二人を睨みつけたまま、仕方ないとばかりに馬から降りる。
マディラが降りたことに二人がニヤリと笑った瞬間、彼女は剣を抜き、その刃は薄暗い森の中でも鋭く輝き、男たちの表情が一瞬強張る。
彼女は躊躇なく男たちに向かって突進した。
剣筋は鋭く、一振りで一人の剣を弾き飛ばし、もう一人は膝を折って地面に転がった。
マディラの動きは美しく、無駄がなく、二人は瞬く間に戦意を失った。
「くっ……何者だお前は……」
地面に倒れた一人が、痛みに顔を歪めながら呻いた。
しかし、彼女がその答えを告げる前に、低い笑い声が森の中から響いた。
「へぇ、なかなかやるじゃねぇか」
大男が姿を現し、ゆっくりと近づいてきた。筋肉が隆々とした体格で、威圧感を漂わせながら、王妃と倒れた手下たちを見下ろしていた。
「ボ、ボス……助けてくれ……」
倒れている男が助けを求めたが、大男はそれを無視し、冷たい視線を彼に投げかけた。
2m近い長身で、日焼けした肌は荒れた風や太陽に晒されており、傷跡がいくつも残っている。
彼は、ジュリアンが言っていたガロスという盗賊に違いない。
マディラは、剣の構えを崩さずに対峙した。




