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青の街 緑の夢 5

山での狩りの一件後


国王フリードリヒと王妃エリザベスの関係には、少しずつではあるが確かな変化が生まれていた。

あの嵐の夜、クローヴィスに言われて、本音でぶつかっていなかったことに気づいたエリザベスと、たった一晩だが連絡がつかないことで非常に不安になったフリードリヒ。

二人の心に深い影響を与えていたのだ。


ある晩、宮殿の庭園を歩いていた二人は、夜風に吹かれながら月明かりの下で会話を交わしていた。

「ねぇ、フリードリヒ。」エリザベスが立ち止まり、そっと彼の腕に触れる。

「狩りの日の翌日、あなたが必死な形相で助けに来てくれたとき、本当に嬉しかったわ。心から感謝しているの。」

フリードリヒは少し驚いたような顔をしたが、すぐに穏やかな微笑みを浮かべて答えた。

「当然のことだ。君が無事でいてくれて、本当に良かった。あのとき、君を失いかけたと思った瞬間、私は自分がどれだけ君を必要としているのかを思い知らされた。」

エリザベスは彼の目を見つめながら、小さく頷いた。

「私も、あの夜に気づいたの。これまで私は、あなたに自分の気持ちを伝えるのが怖かった。でも、もう隠すのはやめることにしたわ。」


「隠す?」フリードリヒは首を傾げた。

「ええ。」彼女は少し笑みを浮かべ、続けた。

「私はあなたともっと一緒にいたいの。こうして話す時間が増えて、あなたをもっと知りたいと思うようになったの。」

フリードリヒは少し照れたように視線をそらしたが、再び彼女の顔に目を向け、深く息を吐いた。

「実は、私も同じことを考えていた。これまでの私は、君と過ごす時間を軽んじていたかもしれない。でも、もうそんな後悔はしたくない。君のそばにいることを、これからもっと大切にしようと思うんだ。」


エリザベスの表情が柔らかく輝き、彼女は再び歩き出した。

「それなら、まずは一緒に庭園をもっと歩きましょう。今日は満月だもの。話したいことがたくさんあるわ。」

二人はゆっくりと庭園を進みながら、これまで語られなかった思い出や未来の話を静かに共有していった。

その歩みはゆっくりで、決して派手なものではなかったが、互いの距離が縮まっていく確かな足音がそこにはあった。



――――――――――



それから数か月後、二人は遠出の公務に出た。


彼らは二台の馬車に分かれており、国王と彼の側近を載せた馬車が先を進む。だが道中、前の馬車が崖に差し掛かった瞬間、突然現れた黒装束の男が襲いかかった。

「何者だ!」側近の一人が叫び、剣を抜いて男に向かって突進する。

その男は布で顔を隠し、不気味な黒い光を身に纏い、まるで人間離れした動きで駆け寄ってきた。

「邪魔をするな」と低く唸る声が響き、男が手がひと振りすると、側近たちは吹き飛ばされるように崖の近くに叩きつけられた。


男は素早く馬車の前に飛び乗り、御者を倒して手綱を奪うと、馬車を乗っ取った。

「陛下!お逃げください!」もう一人の側近が血を流しながら叫ぶ。

しかし、国王は馬車の扉を掴んだまま動かなかった。

黒装束の男の背中からは、黒い光が渦を巻くように広がり、周囲の空気が張り詰める。

「フリードリヒ国王。王座から降りるときだ」

見えない力で馬を制御して、客車に入った男の、布越しの冷たい声が響き渡る。

国王の側近たちは身を挺して守ろうとしたが、男の異様な動きには対抗できなかった。

側近たちが次々と倒れる中、男は国王に向けて剣を振り下ろした——そして、王の命は絶たれた。


その後も、黒装束の男——クローヴィスは完全な暗殺を目論み、この場に居合わせた者全員の命を奪おうとした。

しかし、後方の馬車に目を向けた瞬間、彼の動きが止まった。


「……まさか……」クローヴィスの声が震え、黒い光が微かに揺らぐ。

後方の馬車の窓から、エリザベスがこちらを見ていたのだ。

その顔を目にした瞬間、クローヴィスの中で何かが崩れた。

「あの夜の……アンタが……」布越しの声が、戸惑いと驚きに満ちていた。

その瞬間、クローヴィスの決意は揺らいだ。彼の手から剣が少しだけ下がり、黒い光もまた僅かに薄れていく。

「……俺は……違う……」クローヴィスは低く呟くと、振り返るようにしてその場から飛び去った。彼の背中には迷いと後悔が滲んでいた。


エリザベスは崖の上に散らばる側近たちの姿を見つめながら、崩れるように座り込んだ。

「どうして……どうしてこんなことに……!」涙が頬を伝い落ちた。

その場に残された者たちの中で、エリザベスの叫びだけが冷たい風に響き渡った。



――――――――――



アルバス城 後宮


国王の葬儀がしめやかに行われ、哀悼の時間が流れていった後、エリザベスは夜の帳が落ちるバルコニーに一人佇んでいた。

彼女の心には、夫と共に新たな未来を歩もうとした矢先に命を奪われた無念さ、そして夫を奪われた怒りが渦巻いていた。

その感情は、単なる悲しみや絶望を超え、復讐の念となり、彼女の内側から沸き上がっていた。

エリザベス王妃の心は、暗く淀んだ憎悪に包まれていた。

彼女は亡き夫のことを思い出すたび、胸の奥に沸き上がる痛みと怒りに苛まれた。

ようやく彼との心の距離が縮まり、再び愛し合えると感じていた矢先、突然の別れが訪れた。

彼を奪った影、王を狙い続けた者への憎悪は、まるで黒い霧のように心の奥底から這い上がってくる。


夜の闇の中、彼女はバルコニーに立ち、冷たい風が髪を乱すのも気に留めず、ただ無言で前を見つめていた。

そこにはただ虚ろな空間が広がっているのだが、エリザベスには、そこに存在しないはずの男の影、敵の面影が見えるように思えた。

その顔を思い浮かべるたび、彼女の拳は震え、爪が掌に食い込むほどに握り締められていた。

彼女の瞳は、冷たい怒りで鋭く光り、表情はまるで石のように硬く凍りついていた。

「私のすべてを奪ったあの者を……絶対に許さない。」

彼女の声は、低く冷たく、鋭利な刃のようだった。その言葉には、並々ならぬ決意と、無限の恨みが込められていた。

彼女の胸の中でその憎悪は渦を巻き、体の内側から灼熱のような熱を発し始めていた。

そしてその彼女の復讐の思念に呼応するかのように、淡く光る玉が彼女の目の前に現れた。


その光の玉が放つ不思議な輝きに、エリザベスの感情は更に煽られた。

彼女の中に眠っていた何かが目覚め、復讐への渇望が形となって力を与えようとしているのを感じる。

今や彼女の憎悪は、ただの感情ではなく、一種の力を持った意志そのものへと変わりつつあった。

エリザベスはその光の玉——アテナエルをじっと見つめ、ゆっくりと手を伸ばした。

その瞳には、悲しみでも恐怖でもなく、ただ冷徹な復讐の色だけが宿っていた。

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