青の街 13
繁華街の飲食店にて
彬は、偶然出会った中学時代の友人の鈴乃と食事に来ていた。
乾杯を済ませて、いい雰囲気で会話も弾んでいたところ、鈴乃は図書館で彬とすれ違った人物について質問をする。
彬は内心「見られていたか……」と思いながらも、気づかれないように微笑みを保ちつつ「さっきの、とは?」と、わざとぼかすように返す。
鈴乃は眉をひそめ、楽しそうに続けた。
「図書館の喫煙所から出た後、一旦荷物を取りに中に入って、また出てきた時に男の人と喋ってなかった?アッシュ系の髪の」
そこまで見られていたのか。
彬は一瞬間を置き、落ち着いた声で説明を始めた。
「ああ、あの人ね。知らない人だよ。留学生らしくて、昼間、蔵書検索を手伝ったんだ。
そしたら帰り際に、さっきのお礼に食事がしたいって呼び止められそうになったので、用事があるからと断ったんだ。君は僕の女神だよ」と、にっこりと微笑み、軽く彼女を持ち上げるように言ってみせる。
ちょうどその時、店員が二杯目のカクテルをテーブルに運んできたので、会話が中断される。
それぞれのテーブルにグラスが置かれる間、彬は鈴乃に胸元を見られている気がしていた。
淡い色合いのグラスが卓上に並ぶと、二人の間にまた新たな親密さが漂い始める。
彬は彼女のグラスに目をやりながら、「それはそうと、鈴乃」と話題を変える口調で言った。
「君は、どうだった?今は何をしてるの?もっと君のことが知りたいな」
彼の視線がまっすぐに彼女に向けられ、少しだけ真剣さを帯びていることに気づいた彼女は、照れくさそうに視線を外しながらも、嬉しそうに口を開いた。
「私?そうね、実は……」と、話し始める彼女の声がどこか楽しげで、二人の間には再会の温かい空気がますます深まっていった。
――――――――――
それから約二時間。
二人は少し顔が赤らんで、程よくお酒が回っていた。
店の扉を出て、少しひんやりとした夜の空気に包まれながら階段を上る途中、鈴乃がふと足元をふらつかせ、思わずよろける。彬はすかさずその細い肩を支え、耳元でそっと囁いた。
「話が盛り上がりすぎて、ちょっと飲ませすぎたかな、ごめん。
お詫びに家まで送っていくよ。さっき車を止めたマンションが家なんでしょ?」
低く優しい声が耳に触れると、鈴乃はふと戸惑いを見せつつも、少し嬉しそうに頷いた。
「うーん、ありがとう……」と恥ずかしげに答える彼女に、彬は柔らかく微笑むと、自然にその腰に手を回し、彼女の家の方角へと歩き出した。
人気のない路地を歩くこと5分くらい。
鈴乃の家は繁華街から一本入った、静かで落ち着いた雰囲気を漂わせ、モダンなデザインが際立つ、高級住宅街にひっそりと佇んでいる高層マンションだった。
外壁は洗練されたシャープなラインとネイビーブルーのアクセントで飾られ、その美しい外観は通りから一際目を引きく。
ゲートを潜ると、小さいながらも美しく手入れの行き届いた庭園と装飾的な植栽が配置され、住人たちに静かな憩いの場を提供していた。
建物のエントランスには高いガラスの扉があり、セキュリティが確保されていそうで、大理石の床とモダンな照明が、訪れる人々に贅沢な感覚をもたらす。
静かなエントランスが、二人の間にわずかな緊張感を漂わせる。
そこの12階に彼女の部屋があった。
鈴乃が鍵を開けたので、彬がドアを開け、彼女を玄関先まで無事に送り届けると、「素敵なマンションだね。無事に送り届けられてよかったよ。じゃ、僕は行くよ」と穏やかに別れを告げた。
だが、鈴乃は潤んだ目で彼を見上げ、「ここまできて、上がっていかないの?」と、ささやくように誘う。
その視線にはかすかな期待が見え隠れし、彬もそのまま引き下がることなく、軽く頷いて彼女の部屋に足を踏み入れた。
リビングに入ると、夜景が窓いっぱいに広がり、まばゆい都会の灯りが二人の影を長く映している。
空には上限の月が静かに輝いているので、照明がなくても部屋はうっすらと明るく、シルエットや細部がぼんやりと見える。
「素敵な部屋だね、僕の家はこんな都会じゃないから、この夜景が羨ましいよ」
彬は振り返って室内にいる鈴乃に話しかける。
「そう、ありがとう」
そう言いながら、そっと鈴乃は近寄り、彬の胸元に手で触れ、愛おしそうに何度かさする。
そうしてお互いの吐息が肌に感じられるほどになる。
彼はそれを拒まず、そっと右手を彼女の背中に回す。
ふたりの距離がますます近づき、彼女は少し艶めかしい表情で、彬を見つめたまま、そっと呟く。
「近くで見ると、本当に良い男よね。美味しそう……」
だがその瞬間、彬の表情が一瞬歪む。
左腿に鋭く鈍い激痛が走り、ほろ酔いだった彼の思考を一瞬にして引き戻すような衝撃が体を貫いた。
「鈴……乃……」
その瞬間、彬はありったけの力で彼女に向けて思念波を出す。
(僕は、ここにいる……!)
全ては、彼の計画通りだった。ただ一つを除いては。
く……こんなに魔剣の力が強力だとは……っ
太ももに刺さった刃物にみるみるうちに力が吸い取られ、あっという間に彬の体が床へと崩れ落ちた。
――――――――――
古い洋館にて
「いやややややぁぁぁぁぁぁっ!」
いきなり女性の絶叫が室内に響き渡る。
夜の帳が降りたの蒼の家のリビング。
気づいたら、真唯佳が悲鳴と共に床に泣き崩れていた。両手で顔を覆い、そのままの姿勢で固まる。
「真唯佳ちゃん、大丈夫??」
蒼は慌てて彼女の元へ行き、床にうずくまった彼女の背中をさすりながら、顔を覗き込む。
彼に優しく抱き寄せられて、しばらくするとやっと落ち着きを取り戻し、何度か深呼吸をしてから顔を上げる真唯佳。
「取り乱しちゃった、ごめん」そう呟き、蒼からそっと離れる。
「クレイヴの場所がわかったわ。彬が身をもって教えてくれた」
彼女の声は低く、だが強い意志が込められていた。
突然真唯佳の脳裏に直接送り込まれてきた、彬の映像。
シャープなラインとネイビーブルーのアクセントの、モダンなデザインが際立つ高層マンションの12階。その一室で女性と一緒だったことも、彼女をなんと呼んでいたかも伝わってきた。
それと同時に彬のオーラとクレイヴのエネルギーが同時に発せられて、それがどこで起きたか、正確な場所を知ることができた。
その言葉に、蒼は表情を引き締め、深い頷きを返した。
「今すぐ行こう、車出すよ。俺も大体の方向は把握してるから、正確な場所を案内して」そう言って立ち上がる。
「ありがとう」
そう言って、真唯佳は蒼とセバスチャンの3人で慌ただしく出かける準備をする。
蒼はすぐに車庫へ歩き出すが、ふと立ち止まり、彼女に向かって振り返る。
「あ、出かける前に一つだけ忠告」と蒼が思い出したように言う。
真唯佳は怪訝そうに首を傾げる。
「忠告?」
「できるだけ、オーラを隠した方がいいよ。多分相手は、真唯佳ちゃんが近づいてくるのを察知しちゃうから、警戒されるかも」と、真剣な表情で彼は言う。
その言葉に、真唯佳は肩をすくめて笑いながら少し溜息をついた。
「え……?ひょっとして、それはもっと早く言ってもらうべきことじゃなくて?」
指摘されて、初めて自分が無防備にオーラを振りまいていたことに真唯佳は気づく。
確かに、その辺りの配慮を一切していなかったかもしれない。
蒼は、どこか気まずそうに目を逸らしながら「そうだったかもね。ま、ともかく早く行こう」と言って真唯佳の背中をぽんぽんと優しく叩いた。
彼らは再び歩みを速め、車庫に向かった。




