プロローグ
立ち上る硝煙。そこに立つ、一人の『虐殺者』。
その眼差しは凍てつくように冷たい。深く、黒く。無感情で冷酷な軍人がそこにいる。
間髪入れずに少年は煌々と光るランプを撃ち抜く。銃声を合図に光を失った室内は刹那、闇に呑まれ、視界を奪う。
「……ありがとう、助けてくれて。じゃあ……」
のろのろと立ち上がる少女。今や月だけが唯一の明かりだ。精彩を失ったその空間で彼女は見る。
ぼんやりと鈍色の光が映し出す銃口は、下がらない。
対峙する男女。
月を背後に受け、妖精のようにたたずむ少女。細い金糸のような紙が振り返りざまにふわりと舞い,
神々しさすらある。
照準は、その額に据えられていた。
驚いたような、唖然としたような声で少女は呟いた。鈴のような声が耳に届く。
「国王は、死んだわ。あなたの手によって息絶えた。もうこれで、終わりなのよね?」
少年は答えない。
「……早く戻りましょう。増援が来るわ」
少年は動かない。
長いような、一瞬のような間。それを震える声が破る。
「悪い。俺は……俺は、家族を、見捨てられないんだ。俺はまだ、死ねない」
その意味は。
少女の身体がびくりと硬直する。
「そんな……なら、どうして」
手伝ってやるなんて言ったの。
その言葉は声にならない。
少年はかぶりを振る。明確な拒絶の合図。
「ごめん……本当にごめん」
ほんの一瞬、後悔でくしゃりと歪めた顔。
彼女に見せた、最後の心。
「さよならだ」
――銃声。
少女の額の中心。真っ赤な銃創が開く。そのままゆっくりと、途方もなくゆっくりと。彼女は背中から崩れ落ちた。
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