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目には目を、恋には恋を

作者: 村崎羯諦

「それでは学級裁判の判決を言い渡します。故意ではなかったものの、クラスメイトの青木さんに恋愛感情を抱かせてしまった榊くんは、クラスの秩序を乱す行為を禁じる学級法65条に違反するとして有罪です。そして、学級法の罰則を定めた学級法196条の原則に則り、榊くんは青木さんに与えてしまった被害と同じものを引き受けなければなりません。つまりこの場合、目には目を、歯には歯を、という原則に従い、青木さんに恋愛感情を抱かせてしまった榊くんには、これから青木さんのことを好きになることを命じます」


 こうして僕は学級裁判の判決に従って、青木さんを好きにならなければならなくなった。


「無理やり好きになってもらっても嬉しくない!!」


 判決文が読み上げられた後、青木さんはそう叫び、泣きながら教室を飛び出していってしまった。


「これはルールなので、現在進行形で榊くんに好きな人がいたとしても、その人のことは諦めてもらう必要があります」


 青木さんを追いかけるか迷っていた僕に、学級裁判長の岡本さんがそう告げる。


「ちなみに榊くんは今、誰か好きな人はいますか?」

「はい。実はずっと前から学級裁判長のことが好きでした」

「奇遇ですね。私も実は榊くんのことがいいなと思ってました。でも、個人の感情よりも法律の方が大事なので、私のことは忘れてください」


 岡本さんは顔色一つ変えずに木槌を叩き、こうして学級裁判は閉幕した。


 それから僕は判決通り青木さんを好きになるように行動した。実際、好きになろうと思って観察していると、不思議とその人の良いところに気がつくようになって、三ヶ月後には無事に両思いになり、僕たちは付き合うようになった。その後も、時々喧嘩はしたけれど、なんだかんだ関係は続いていって、僕たちはそのまま結婚し、幸せな家庭を築き上げた。子供は三人できて、大変だけど賑やかで楽しい毎日を送っている。


「久しぶりだね、榊くん。幸せそうで何より」


 同窓会で数十年ぶりに出会った当時の学級裁判長の岡本さんは、開口一番僕にそう言った。岡本さんはなぜかスーツ姿で会場に来ていて、その真面目さが昔と変わってなくて、思わず笑ってしまった。


「もちろん今は幸せよ。でも、もしあの時、僕が有罪にならなかったら、他の人みたいにもっと普通の人生を送っていたのかもしれないと思うことはあるよ」

「他の人の人生は普通に見えるものよ。だって、その中身を知らないから」


 なるほどと僕は頷く。そして、会場に集まった元クラスメイトたちの、それぞれに違った人生に思いを馳せるのだった。


「え? 今の私の職業? ああ、今はね、ロサンゼルスで怪盗をしてるの。昔は法律が好きだったけど……人の趣味趣向ってやっぱり変わるものだから」

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