01
プロローグ
真っ暗だ――今、あたしは目を見開いているはずなのに、なぜか真っ暗である。
いったい何が起こっているのか分からないけど、どこかに押し込まれている?
確か、ついさっきまでは仕事をしていた。別に残業をしていたわけじゃなく、普通に就業時間内での仕事中だった。
いつもどおりの作業内容ではあったけれど、別段具合が悪かったとか何かあったわけでもないし、同僚と時々小さなやり取りをしながらパソコンに向かっていたはずなのだ。
それなのに――今は真っ暗闇の中、体を動かすこともできずただ目を開いているはずなのに暗闇を見つめているだけ――。
何が、起こったの?
そんなことを考えながら、けれどジッとしているしかできない自分に少しずつ苛立ちが溢れ出す。
どのくらいの間、そうしていたのか分からないけれど、突然に光が見える気がした。
それは本当に唐突で、そして意味不明なものでしかなかったのだけれど。
明るい日差しか――と思いきや、何とも言えない薄暗い光。よくよく見れば蝋燭みたいなものが光の根源であることが見て取れる。
だがしかし、ここでまた問題が起こった。
蝋燭に火が灯ったのはいいのだけれど、それを行っているのが自分のはずなのに自分ではないってこと、だ。
自分でも何を言ってるのか分からないけれど、自分の視界であるはずなのに、動いているのは自分じゃない――こう言ったところで意味不明か。大丈夫、自分でも意味不明すぎる。
――私じゃないのに。
そして突然聞こえてきた幼い女の子の声。
――私は嘘なんか言ってないのに。どうして誰も信じてくれないんだろう。
どういう意味なのか、どういうことなのか、まるで理解できないけれど突然流れてきた声。ついでに言えば、これは自分の声なんかじゃない。
おかしい。いや暗闇になってからずっとオカシイのは分かっている。っていうか、そういうことじゃなくって全てオカシイ。今の自分が置かれている状況も、なにもかも。
――誰か、助けてよっ!
また流れてきた少女の声……それは、本当に切実なもので、あたしは一瞬怯んでしまった。
――助けてっっっ。
悲鳴のような叫び。
でも、それが誰のものでどうしたことなのか、あたしはこのときまるで分かっていなかった。いや、理解すらできるものではなかったのだった。
どのくらいの時間が経過しただろうか。
毎日のように流れ込んでくる少女の叫び。ときには泣き叫んでいるようにも聞こえ、ときには怒りを抑え込むようにも聞こえ――あたしは、その間何もできず、ただそれを聞いているだけしかできなかった。
いや、何もしなかったわけじゃない。
ここはどこだとか、何が起こっているのかとか、ずっと叫んでいた時期もある。けれど、あたしの声はどこにも響いていかずどこかに霧散しているようでもあった。自分で声を出している感覚はあるはずなのに音にならないのだ。
どうしてなのか――それは分からず仕舞いで、けれどそれでも時間は経過しているようで。まんじりともせぬ時間が過ぎ去っていく。
暴れたくても自由になる体がない。何度となく手足を動かそうとか色々と試してみたけれど、どうにもならなかったのだ。
ただひとつ理解したことは――何だかとんでもないことに巻き込まれてしまったってことだった。