真実
これで完結となります。
時は流れ、夜。時刻は20時過ぎ。
ワタルは1日の山歩きたまった疲労をほぐす為、入念にストレッチをしていた。少し筋肉痛になりかけているのだ。
ちなみに豆知識ではあるが、年をとると筋肉痛は遅れてやってくるといわれるが、諸説はあるもののそれは正確ではない。筋肉痛が遅れてやって来るのは、普段の運動量に対して筋肉痛になった時の運動量と運動の質に関係しているとされる。要は普段よりも長い時間体を動かした時、激しく動いたのかどうかで痛みがでるまでに時間差が生じるのだ。年をとると若い頃のように激しい動きが出来なくなり、その傾向が強くなってしまう。
つまり、若い人でもなるときはなったりするのであった。
「よぉ!」
ワタルがストレッチを続けていると自室のドアが開き、ススムが姿を表した。
「ススムか……どうした?」
「今日。録音したアレ。早速聞いてみないか?」
「明日。4人でって約束だろ……」
ススムの提案に眉をひそめてワタルは言う。
対してススムは声のトーンを1段階下げて。
「今日、2人にはいちゃいちゃといろいろ見せつけられたじゃん。そこでだ。意趣返しとして先にって……な」
「確かに今日のは少しイラッて来たけど……ガキか!」
突っ込みを入れて、呆れ返るワタル。
乗り気でないワタルの反応に、ススムはスマホをおもむろに取り出し、例の音源を再生した。突然の行動であった為、止める暇もなかった。
部屋に響く、ラジオのノイズ音。
「……何か入っていたら面白かったのに。残念。でも、これで共犯だぜ。
さあ。次は……お前だ」
底冷えする声でススムがワタルに促す。
ススムを数秒見つめると、ワタルはため息を吐き出した。
「わかったよ」
立ち上がると机からスマホを取り、再生ボタンを押す前に音量を上げる。そして、
『ザザ……ザ。何これ?』
突然聞こえて来た声に思わずスマホの停止ボタンをタップするワタル。
混乱しつつも、ワタルは今の声が自分の声に似ていると感じた。
「何これ。はっ? 声?」
「声に聞こえなくも……」
「ワタル。翔君から電話よ!」
ススムの言葉を遮るように、母がリビングからワタルを呼ぶ。
「はーい」
返事をするとスマホを手にしたまま立ち上がる。するとススムが慌てたような表情で。
「まった。先にスマホ確認してから……」
「いや。その理由で待たせるのは可笑しいだろ」
ススムの言葉を苦笑混じりにさえぎると、リビングへと向かう。
「もしもし。どうした?」
固定電話の受話器を手にして、電話の相手である翔に尋ねた。
「いいか。落ち着いて聞いてくれ!」
翔は震える声でそう前置きすると。
「ススムが……ススムが死んでいた」
「はぁ?」
その言葉にワタルは素っ頓狂な声を上げてしまう。
ススムは今、俺の部屋に居るのだ。冗談にしてもタチが悪い。
更に話を続ける翔。
「しかも、昨日の夜。
俺等と別れてすぐに交通事故で……らしい」
「お前。流石にそれは冗談にしても悪……」
「冗談じゃないんだよ。冗談じゃ……クラスのライン見てみろ!」
翔の真剣な声音にワタルは言われた通り、スマホを確認する。そこには……
「マジか……」
ラインの内容に愕然とする。
ラインには事故現場や収容された病院。
そして、通夜や葬儀等の情報。突然の訃報に悲しむ声が飛び交っていた。昨日の夜から……
「どういう事だ?」
昨日の夜からかなりの件数がやり取りされているはずなのに、この瞬間迄まったく気付かなかった。
ワタルは受話器を片手に呆然と立ち尽くした。
「どうしたのワタル!」
母の声で我に返るとワタルは呆然としながらも、顔を母に向け尋ねた。
「変な事を聞くけど、20分位前にススムが家に来たよね?」
「この時間に来るわけ無いでしょ。約束でもしてたの?」
あっさりと否定されてしまう。
「そっか……来ていないのか……」
家に来たススムについて冷静に考えてみるとおかしな点が2つあった。
まず、母も言っていた時間だ。約束もなくこの時間にススムが訪ねて来ることなど彼の家庭環境からもありえないのだ。
次にいきなり俺の部屋を訪ねてきたこと。今は俺と母しか家に居ないのだ。母も彼を家に居れていないという……
その事実に気付きワタルはぶるりと震えた。
おそるおそる部屋へとそこには見馴れた無人のワタルの部屋。
「ハハハハハハ」
誰も居ないことに安心したような怖いような複雑な心境で笑う。
そして、ふっと思った。
「ススムは何をしに、ここに?」
彼の言動と行動を思い出してみる。
「確か……ラジオの音源をやたらと……」
あることに気付いたワタルは怖くなり、ラジオの音源をスマホから削除した。
それと翔と咲希にも音源を削除するよう連絡を行った。
ススムは何故ラジオの録音を再生させようとしてしていたのだろうか。そして、もし最後まで再生していたらどうなっていたのか……
『何かに誘われてたりして』
山道で幽霊のポーズを取りながら言ったススムの言葉が頭から離れなかった。
― 完 ―
【真実】を最後までお読みいただきありがとうございます。
この話で完結となります。
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