満月の夜に手繰り寄せた結末を
約束の時間が刻一刻と迫ってきている。
鼓動が加速し耳にまで伝わってくるようだ。
昨日もただ話すために会っていたが今日はどこかいつもとは違う感覚がある。
寒さのせいかそれとも今回は勝てるのではという淡い期待からか呼吸がいつもよりしずらい。
「逢、今日もよろしくね」
「うん、よろしくね」
いつもと同じように距離を取るだけなのに何故か一つ一つの動作が気になる。
「じゃあ行くわね」
留恵がコインを空へと弾き飛ばす。
その間に翼を広げナイフを取り出す。
キーンという金属音が鳴り響いた瞬間、即座に留恵に近付き渾身の力でナイフを振るう。
受け止められてしまうものの弾き返されずなんとか均衡を保てる。
留恵の足が動いた瞬間すぐに退き体制を整える。
僕は翼を硬化させ腕を覆い隠すようにして広げた。
再度接近戦を試みる。
今度はナイフをしまい、留恵の左側から近寄って両爪と両翼で一斉に攻撃する。
両翼は槍と翼によって弾かれてしまったが、爪で留恵の皮膚に傷をつけることは出来た。
留恵の頬から光の欠片が零れ落ちる。
「神の炎」
そう言うと槍先に纏われていた炎が留恵の手のひらへと束ねられていく。
そしてそれを牽制として投げつつ、そのままこちらへ近寄ってくる。
炎を最低限動きで避け、留恵の槍を両方のナイフで受け止める。
すぐに退くがそれでもまだ追ってくるので、近付かれた瞬間に胸元のナイフを投与する。
「なっ!」
留恵はその場で急停止し、眼前のナイフを叩き落とす。
続けざまにナイフを3本投げ、留恵の動きを止めにかかる。
しかし3本とも弾かれたため、最初の1本と一緒に糸を使って引き戻す。
懐にある残りの2本も取り出し、合計6本のナイフを投じる。
今度は留恵に上手く躱されそのついでに糸も断ち切られてしまう。
大きく後ろに跳躍し、体制を整える。
「大地よ我が身を護り給え」
留恵を取り囲むように壁を出し一瞬の目眩しを作る。
その間に後ろへと回り込み、壁を自主的に崩壊させる。
ナイフを振り上げた先にはかがみ込んだ状態の留恵がいた。
「グッ······!」
無防備な腹に蹴りを喰らい、横に吹っ飛ばされる。
なんとか受け身は取れたもののダメージは大きい。
息を整えてから右の手のひらを媒介にして刀を取り出す。
右の手のひらがぱっくりと裂け、そこから刀が出てくる。
これは便利だからと鈴が教えてくれた空間魔法だ。
そのついでに刀を予備も含め2本もくれた。
まだ身体の一部を媒介としなければ使えないが得物を変えたいときにはいいかもしれない。
改めて刀を構え、留恵と対峙する。
リーチが長くなった代わりに身体から自由が奪われる。
そのため翼を使って上空からの攻撃を試みる。
翼をはためかせ5メートルほど上昇したところで留恵に向かって突進し斬り掛かる。
留恵に受け止められてしまうが即座に引き返しまた斬り掛かる。
受け止められる度に退き、少し左右にズレてから攻撃するのを繰り返す。
もう一度、そう思って突進しようとしたその時、留恵も翼を使い接近してくる。
槍が間近まで迫った瞬間、翼を畳んで自由落下に身を任せる。
そのまま地面に着地し、翼を前方から身体が見えないように広げる。
留恵が着地したのを見計らってから突進する。
薙ぎ払いを跳んで躱し、全体重を乗せて翼諸共真上から袈裟斬りで切り裂く。
······あと数ミリ、少し力を込めれば届くほどの距離で刀は留恵に受け止められた。
でもそれで留恵の槍を止められるなら全く構わない。
左脚を地面に着き、すぐさま刀で槍を払い上げ、左右を大きく留恵の横に出し、右脚を軸にして振り返る。
媒介にするのは左脚、取り出す物は予備の刀。
左脚の脛から刀の先端が見えた瞬間、折りたたんでいた左脚を伸ばし留恵の背中に叩きつける。
脚から伸び出た刃は留恵の背中を貫き、胸をも穿つ。
「カハッ······!?」
刀を引っ込め脚を元の位置に戻す。
その瞬間、留恵が眩い光に包まれ『天使化 』が解ける。
「留恵!」
『天使化 』が解けた留恵は糸が切れたかのように倒れ込む。
幸いにもすぐに受け止めたため頭を打つことは無かった。
「ふぅ······もう大丈夫よ。ありがとう」
「無事なら良かったよ」
「逢」
「······!?」
そう言った留恵は僕の顔を引き寄せ口づけをする。
「······好きよ」
「僕もだよ」
今度は僕から留恵を引き寄せ口づけをし、あの時と同じ言葉を口にする。
「好きです。僕と付き合ってください」
「ええ、もちろんよ。これからもよろしくね」
雲の切れ目から顔を出す如月の満月は先刻見たよりもずっとずっと美しい光を放っていた。
留恵の槍先が首筋に当たる寸前で止められる。
「どう?」
「降参です」
ちょうど1年、初めて留恵に勝ったあの日からもうそんな年月が経っていた。
これで何敗目だったか。
さすがにもう覚えていない。
「これで私の154勝、1敗ね」
僕が勝ったあの日、いや最初に戦ったあの日からもずっと数えていたのか。
そんな留恵のちょっとしたところをまた好きになる。
「ほら早く立って、早く帰りましょう?今日は付き合って1年目の記念日なんだから」
「ああそうだね」
留恵が差し伸べた手を取り、立ち上がる。
すると目の前を白い何かが横切った。
「あら、雪ね。予報じゃ雨も降らないって言ってたのに」
「こっちで雪なんて珍しいね」
「そうね」
そんなとりとめもない話をしながら公園を出る。
ふと雪が映し出す銀の景色と彼女の笑顔があんまりにも綺麗でだったもので思わず見惚れて足を止めてしまう。
「どうかした?」
「いいや、何でもないよ」
もっと二人で歳を重ねたら、共に永遠を誓い合える日は来るのだろうか。
そんないつかの未来に思いを馳せながら指を絡める。
彼女の手は今日はどこかいつもより暖かい気がした。
皆さまどうも、羊木なさです。
これでこのお話は完結ということにさせて頂きます。
長い間ご愛読していただき本当に感謝しております。
今後も新たな世界を作り上げ皆さまを楽しませたいと思いますのでどうか今後ともご贔屓に。
それではまたどこかで会えることを心より望んでおります。
ありがとうございました。




