決闘③〜留恵視点〜
「逢、こんばんは」
「あ?······ふう、よう留恵」
珍しいわね。
逢ってそんな言葉を使ってたかしら?
逢らしくないわ。
「いい髪色ね。少し赤みがかかってる」
「あ?そういえばそうだったな。今は少し赤いのか」
「ええそうよ。あら?今日は爪を伸ばしてるのね。珍しいわ」
「伸びちまったか。まあ満月だからな。それがどうしたか」
まるで気付いたら伸びてたような口振りね。
多分実際そうなのだろうけど。
それよりもなんか今日は言葉遣いが荒いわね。
「いえ······。それより何時もの二人は?」
「あいつらか?知らねぇよ。どうせもうすぐ来んだろ」
やっぱりおかしいわ。
逢は『あいつら』なんて言わないわ。
喧嘩でもしたのかしら?
戦い終わったら聞いてみましょう。
「そう······。二人を待つ?それとももう始める?」
「あいつらなら先に始めてても何も言わねぇだろ。始めんぞ。今日の俺はいつもと違ぇからな。覚悟しとけよ」
「ええ」
突然逢が脱ぎ始めた。
「ブッ······!?」
つい吹き出してしまった。
服越しではわからなかったがうっすらと割れた腹筋に、引き締まった二の腕。
つい見とれてしまう。
え?
何を始めるの?
「どうかしたか?」
「なんで脱ぎ出すのよ」
「そりゃあ翼を出すために決まってんだろ」
「そう······」
今日は『完全化』するのね。
なんだそういう事だったのね。
逢が脱いだ服を近くのベンチに置いた。
「いい翼ね。コウモリみたい」
ちょっとだけ触ってみたい。
あ、そうだ。
大事な事を忘れてたわ。
「あ?よく言われるよ」
こちらを振り向いた瞬間、携帯を逢に向けて写真を撮る。
念の為もう何枚か撮っておく。
「······何してるんだよ」
「······撮影」
「消せ」
何故消さなければいけないのか。
こんなに素晴らしいものを消すわけにはいかない。
「やだ」
「ダメだ。消せ」
「大丈夫よ。何処にも広めないわ」
「そういう問題じゃねぇんだよ」
「それより下は?」
「脱がねぇに決まってんだろうが」
「そう······。残念ね」
少し期待していたのに······。
逢の後ろから友人が出てきて急に刀を落とした。
「あ、逢君。君もしかして······。うわぁぁぁぁぁぁ」
刀を拾ってから後ろから来るもう一人友人の目を塞ぐと「多玖、逃げるよ。ここは危険だ」などと意味のわからない事を言って公園から去っていった。
「······災難ね」
「あいつ顔が笑ってたな。許さねぇ」
「悪魔って色々大変ね」
主にこういう日は。
「そんなことはどうでもいい。はやく始めんぞ」
「ええ」
なんか今日の逢は積極的ね。
私嬉しいわ。
「いつも通りコインが落ちたら開始な」
「いいわよ」
コインを逢の長い爪で弾く。
するとコインが両断されてしまった。
「······」
「······」
「どうすんだよ」
「どうするのよ」
なんで爪でコインが割れるのよ。
「あんな感じの遊びで使うコインは持ってねぇのか?」
「持ってないわよ」
なんで持ってると思ったのよ。
「仕方ねぇな。攻撃したらそれが開始の合図だ」
「それでいいわ」
そう言うと同時に逢が脇差を出して構える。
それに対して私も『天使化』して槍を構えた。
急に脇差を投げられる。
「しゃらくせぇ!武器なんかでお上品に戦えっかよ!」
「っ······!?」
なんか急に性格が変わったわね。
逢が脚で地面を蹴り、翼を羽ばたかせて一直線で私に近付き爪を振るって来る。
私は逢の変化に驚きながら爪を防いだ。
槍と爪で鍔迫り合いをしている途中で急に逢がしゃがみこむ。
そのまま足払いをかけて来るので羽ばたいてなんとか着地する。
すぐさま逢が近づいてきて爪で連撃を仕掛けてくる。
普段よりは強いけれど、まあまあね。
バックステップで距離を取って私の方から槍で連続で突き刺す。
急に右手の爪で私に向かって貫手をしてくる。
顔をズラして難なく避ける。
が、左手で攻撃しそうだったのでその前に槍で弾いた。
「てめぇ······」
逢が怒ってるわ。
やっぱり何かあったのかしら。
すると逢が爪を伸ばし始めた。
さっきの倍ぐらいの長さまで伸びたわ。
なんかすぐ折れそうね。
また逢が一直線で近付いてきて、目の前で急に右に曲がる。
大体後ろに行くと思ったので薙ぎ払うがそこにはいなかった。
代わりに上を見上げると逢が両手を振りかぶって攻撃態勢に入っていた。
予想外だったため少し崩れるがなんてこと無い。
だが油断が祟ったのか腹部を逢に切られていた。
「っ······!?」
びっくりしたけど大したことないわね。
かすり傷だからすぐ治るわ。
逢が詰め寄ってきて連撃を仕掛けてくる。
今度は足払いを入れていて多様化していた。
顔に爪が掠る。
その瞬間、逢の翼が大きく広がりその翼で引き寄せられる。
「捕まえた」
捕まっちゃった。
やだ、今日の逢ってば大胆ね。
このままキスでもするのかしら。
目を閉じた方が良いのかしら。
と思っていたが右手を大きく振りかぶった。
ドスッ。
反射的に槍で刺していた。
槍を引き抜かれると同時に倒れてしまい、『悪魔化』が解ける。
「危なかったわ」
もう少しで理性がなくなるところだったわ。
あと数秒あのままだったら何をしていたかわからないわね。
「ちっ、また負けちまったな」
「次回は勝てるといいわね」
「ああ」
逢がウトウトし始める。
「逢?大丈夫?」
「······寝ちゃったみたいね。せめて服を持って来てあげましょうか」
服を手に取ったとこで気が付く。
今この公園には恐らく私と逢だけ。
何をしてもバレないんじゃ?
いやでも二人が帰ってくると不味いからあまり過激なことは出来ないわね。
服の匂いを嗅ぐだけで我慢しましょうか。
「えへへへへへへ」
おっと、つい笑い声が。
服を逢に着せてあげる。
上だけだから少し物足りないような気がするけど気の所為ね。
ついでに頬にキスもしておく。
完璧。
あとはベンチに運んで膝枕でもして二人が戻ってくるのを待ちましょうか。
膝の上に逢を乗せて頭を撫でる。
数分間そうしていると二人が戻ってきた。
「はーい、逢を回収しに来ましたー」
「もう目隠しとってもいい?」
「うーん、いいんじゃない?」
「結局何があったんだよ」
「秘密」
「えー」
なんだこの二人。
やっぱり後ろの友人には変なことを吹き込んだわね。
「はい、逢を連れてってちょうだい」
「はーい。『ウーちゃん』『ルーちゃん』『フーちゃん』、逢君を担いで」
「「「ワン!」」」
「ありがとね」
(それよりなんで逢が服着てんだろ。自力で着れたのかな。それとも雨里さんが着せたのかな?)
「それじゃあ、さようならー」
「さようならー」
「あっ、ちょっと待って。今日の逢の様子がおかしかったんだけど二人は何か知ってる?それと急に寝ちゃったのも」
「ああ、逢は満月になると口調が悪くなるんですよ。あと『完全化』した後は急に寝始めます。理由は知りませんが疲れるんでしょうね」
「······それだけ?」
「それだけです」
「なんだぁ良かったわ」
「それじゃあ今度こそさようならー」
「さようならー」
「さようなら」
あの眼鏡の子頭良さそうだから服着せたことバレてないといいな。