決闘③
公園に着くと辺りを見回してみた。
まだ多玖も鈴も来ていないようだ。
さてストレッチでもするか。
屈伸に伸脚、その後に前屈。
下の方から順番にほぐしていく。
最後に伸びをする。
「逢、こんばんは」
「あ?······ふう、よう留恵」
伸びをしている最中に話しかけるのはやめて欲しい。
「いい髪色ね。少し赤みがかかってる」
「あ?そういえばそうだったな。今は少し赤いのか」
「ええそうよ。あら?今日は爪を伸ばしてるのね。珍しいわ」
「伸びちまったか。まあ満月だからな。それがどうしたか」
「いえ······。それより何時もの二人は?」
「あいつらか?知らねぇよ。どうせもうすぐ来んだろ」
「そう······。二人を待つ?それとももう始める?」
「あいつらなら先に始めてても何も言わねぇだろ。始めんぞ。今日の俺はいつもと違ぇからな。覚悟しとけよ」
「ええ」
邪魔になるため上着とTシャツを脱ぎサラシを取る。
「ブッ······!?」
何故か急に留恵が吹き出した。
「どうかしたか?」
「なんで脱ぎ出すのよ」
「そりゃあ翼を出すために決まってんだろ」
「そう······」
脱いだ服を近くのベンチに置く。
「いい翼ね。コウモリみたい」
「あ?よく言われるよ」
パシャッ。
留恵の方を振り向いた瞬間、突然シャッター音が聞こえた。
留恵の方を見ると何故かスマホでこちらを撮影していた。
またシャッター音が響く。
「······何してるんだよ」
「······撮影」
撮影じゃねぇんだよ。
「消せ」
「やだ」
「ダメだ。消せ」
「大丈夫よ。何処にも広めないわ」
「そういう問題じゃねぇんだよ」
「それより下は?」
「脱がねぇに決まってんだろうが」
「そう······。残念ね」
何がだ。
カランカランと何かが落ちる音が背後から聞こえる。
「あ、逢君。君もしかして······。うわぁぁぁぁぁぁ」
落とした刀を拾い、後ろから来る多玖の目を塞ぐと「多玖、逃げるよ。ここは危険だ」などと意味のわからない事を言って公園から去っていった。
「······災難ね」
「あいつ顔が笑ってたな。許さねぇ」
「悪魔って色々大変ね」
留恵が呆れた顔で同情する。
「そんなことはどうでもいい。はやく始めんぞ」
「ええ」
「いつも通りコインが落ちたら開始な」
「いいわよ」
コインを長い爪で弾く。
するとコインが両断されてしまった。
「······」
「······」
「どうすんだよ」
「どうするのよ」
「あんな感じの遊びで使うコインは持ってねぇのか?」
「持ってないわよ」
「仕方ねぇな。攻撃したらそれが開始の合図だ」
「それでいいわ」
そう言うと同時に脇差を出して『悪魔化』する。
『完全化』しても『悪魔化』が出来るのはとても嬉しい。
それに対して留恵も『天使化』して槍を構えた。
一呼吸置いてから脇差を投げる。
「しゃらくせぇ!武器なんかでお上品に戦えっかよ!」
「っ······!?」
脚で地面を蹴り、翼を羽ばたかせて一直線で留恵に近付き爪を振るう。
留恵は若干狼狽えながらも俺の爪を防いだ。
槍と爪で鍔迫り合いをしている途中で急にしゃがみこむ。
そのまま足払いをかけて転ばす。
だが留恵は上手く翼を使ったようで転ばずに済んだ。
すぐさま近づいて爪で連撃を仕掛ける。
何とか捌き切っているがこの拮抗がいつまで続くかわからない。
留恵はバックステップで距離を取り今度は留恵の方から槍で連続で突き刺してくる。
今の俺にはそんな攻撃はかすりもしない。
避けながら時には弾きながら隙が出来るのを待つ。
留恵が瞬きをした瞬間、右手の爪で留恵の顔に向かって貫手をする。
さっ、と顔の位置をズラして避けられたがまだ左がある。
と思って左手で薙ぎ払おうとするが先に槍で止められる。
「てめぇ······」
有効打が無いことにだんだんとイラつきを覚え始める。
1度地面を蹴って距離を取る。
そこから爪を伸ばす。
20センチほどの長さから40センチほどの長さまで一気に伸ばす。
ついでに折れないように硬度も上げておく。
また留恵に一直線で近付き、直前のところで直角に右に曲がる。
そのまますぐに後ろに回り込む。
留恵が薙ぎ払うがそこにはもう俺はいない。
月明かりを背景に両方の爪を全体重をかけて思いっきり留恵にぶつける。
受け止められたが崩すことは出来た。
ぱっ、と爪を離してそのまま懐に潜り込み、腹部を切り付けすぐに後ろへ退く。
「っ······!?」
『天使化』しているので血は流れないが結構なダメージが入ったと思う。
すぐさま詰め寄り連撃を仕掛ける。
今度は途中で足払いを入れたりして崩れるのを待つ。
一瞬だけ顔に爪が掠った。
少し疲れるがしょうがねぇ。
翼を一気に広げ、翼で留恵を掴むようにして引き寄せ左手首を掴む。
「捕まえた」
口角がつり上がっていくのがわかる。
右手を大きく振りかぶり勝利を確信する。
ドスッ。
自分の腹を見てみると槍が貫通していた。
あ?
どういうことだ?
槍を引き抜かれると同時に視界が歪んで倒れ、『悪魔化』が解ける。
「危なかったわ」
そうか、俺はまた負けたのか。
もう少しだと思ったんだけどなぁ。
来月だ。
来月こそは勝てるはずだ。
その時の俺を信じよう。
「ちっ、また負けちまったな」
「次回は勝てるといいわね」
「ああ」
ハナからそのつもりだ。
あぁ、やばい。
すっげぇ眠みい。
だんだんと意識が薄れていく感じがする。
「逢?大丈夫?」
どうせ鈴と多玖が見てるだろうし大丈夫かな······。
瞼を閉じると同時に夢の世界へ誘われる。