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ガレット村の騒動(後)

こちらの更新は恐らく一年ぶりでしょうか?

サイドストーリーのガレット村の騒動・後編です。

「エル!キャロル!もうすぐ晩ご飯ができるから、早く家に入りなさい!」


日没が近づいて来た頃、マーサが畑に居る子供達に声を掛けた。


畑の片隅で兄妹揃って蹲っている姿を窓から眺めながら、マーサは二人の様子を気にかけていた。

特に今回の件で一番ショックを受けた娘のキャロルは、いつもマーサの畑仕事を見ていた影響から、いつからか自分からいちごを育てると言い続け、根負けしたマーサが去年ドランに頼んでイチゴの苗を譲って貰い、一から丹精込めて世話をしていた様子を知っていただけに、どう慰めていいかわからなかった。

また息子である兄のエルもその姿に感化されたのか、兄妹揃っていちごの成長過程を楽しんでいたからこそ二人のショックは計り知れない。


村の異常事態に村長のガシムが冒険者ギルドに依頼を出し、それを受けた冒険者がやって来たはいいが、最初の印象のせいか“なんだか頼りないな”という思いを抱いてしまった。あまりにもその思いが強かったのか、少し前に訪ねに来たミモザに思わず愚痴ってしまったほどだ。



「母ちゃん!」



そんなことを考えながら夕食の支度を続けていると、外から扉を乱暴に開けながらエルが飛び込んで来た。


マーサが扉が壊れるから止めなさい!と注意するものの、エルはそんなことは聞いていない様子で、代わりに「さっきの兄ちゃんが来た」と返ってくる。

さっきの兄ちゃん?と疑問を浮かべながら扉の外を見やると、キャロルに手を引かれながら、先ほど訪れた二人組の愛想のない方の青年の姿があった。

青年は外からマーサの姿を見つけると、どうもと会釈してから少し話がしたいと声をかける。


「えっと・・・たしかケイだったっけ?ウチに何か用かい?」

「ちょっと畑に“トラップ”を仕掛けたいんだけど~」


家に訪れたケイから、畑荒らし対策の仕掛け設置の申し出があった。


もちろんマーサは「急に来て、彼は何を言っているんだ?」と疑問しか浮かばなかったのだが、ケイからまた畑を荒らしは来る思うから、その対策として拘束系の魔法をトラップとして敷きたいと懇切丁寧に説明をされる。


(この人、魔法使いだったんだ・・・)


マーサはケイの発言に驚きを隠せずにいた。


なにせ革の防具を着用していたため、てっきり剣を使う職業の類いだろうと思い込んでいたからだ。


夫の残してくれた畑を護るためなら・・・と二つ返事で了承したマーサに、ケイは早速作業にとりかかるや家の前にある畑に何かの術を施していた。

もちろんマーサも後方でその様子を窺っていたのだが、彼が畑に手をかざすと瞬時に緑色に光る円形の何かが浮かび上がり、それはすぐに消えていった。

時間にしてものの数秒のことだったが、ケイは「あとはコレに引っかかるのを待つだけだ」と言い、なにをしたのか全く分からないマーサは、本当に信じてよかったのだろうかと目の前の青年の行動に疑問を拭えないでいた。



「母ちゃん!母ちゃん!」


深夜、突然マーサは揺さぶられる感覚に気づき、意識が強制的に覚醒された。


目を開けるとベッドの傍らにエルとキャロルが立っており、こんな夜中に~と思いながら上半身を起こすや、二人がしきりに「外!外!」と繰り返している。


「母ちゃん!外が明るいんだ!」

「はぁ・・・何言ってんだい、まだ夜じゃないか~」

「ウソじゃないもん!」


いい加減に寝なさいと諭してからもう一度横になろうと思ったが、思いの外二人が慌てた様子を見せるものだから、マーサは渋々とベッドから下りると玄関の方へと足を向ける。



(・・・・・・・・・なんだい!これは!?)



二人に促されるまま扉を開けたマーサは、一瞬自分の目の前に起こっていることが理解できなかった。


家の前の畑に緑色の円形をした光が放たれ、そこから太い幹の様な蔦のような、なんとも奇妙な植物が空へと伸びるように這い出ている。

そして、それは畑を護るようにウネウネと動き回り、マーサは日常では起こりえない状況を前に、頭が覚醒していない状態もあってか、呆けた顔でそれを見上げる。


「マーサさん!」


畑を前にマーサ達が立ち尽くしていると、騒ぎを聞きつけたのかハンスが二人の冒険者を連れて駆けつけた。


「ハンス達じゃないか!これはどういうことなんだい!?」

「ケイさんの仕掛けたトラップに犯人が引っかかったみたいです!」


ハンスの話では、深夜まで起きていた近隣の住民がマーサの畑の異変に気づき、慌てて村長の家に駆け込み事態が発覚したのだが、その際に予めケイが村にある全ての畑にトラップを仕掛けていたことが告げられる。


マーサは、だから夕暮れに自分の所に来たのかと納得し、同時にこの青年(ケイ)はそれを想定していたのかと驚きを隠せなかった。


「実験成功!では答え合わせと行こうじゃないか!」


意気揚々としたケイが魔方陣の方を見やると、頭上の方から誰かが助けを求めるように藻掻く声が聞こえる。


「はなせぇぇぇ!!!!」

「抵抗するなよ!降参するなら下ろしてやる!」


頭上から少年よりも幼い特有の声が響き渡る。


見上げると、夜空に混じり蔦に絡まった幼い影が藻掻いている。

その影が降参の意思表示をすると、ケイが魔法を解除するや空に伸びていた幹のような蔦が魔方陣に吸い込まれるかのように元へ戻ると、光を放っていた魔方陣は粒子へと変わり霧散した。


「ケイさん!アダムさん!この騒ぎは一体!?」


騒ぎを聞きつけ、集まる村民に混じって村長のガシムがナンシーの付き添いで顔を出した。


ケイとアダムから事の経緯を説明されたガシムは、先ほどまで魔法陣があったであろう箇所に目を向けると、今回の畑荒らしの犯人に驚愕した。

もちろん、自分の畑に現れた正体にマーサも他の村民達もやはり驚きを隠せず同じ表情をする。


なにせ犯人は“幼い獣人族の男の子”だったのだから。



獣人族の子供を保護した際、村の南側の森に友達が隠れているという証言から、ハンスは冒険者のアダムと数人の村民と共に現地に向かった。


その場所は村から数百メートルの距離だが、森と言うよりも林に近い場所で、たいまつを片手に辺りを捜索したところ、ほどなくして茂みの隙間から二つの影が見えた。


「アダムさん!こっちに居ました!」


ハンスがその影を確認するように茂みを片手で遮ると、なるべく見つからないように子供が蹲っている姿があり、姿を見るに先ほど保護した男の子と同じ獣人族のようで、一人は猫種の男の子、もう一人は犬種の女の子だった。


駆け寄ったアダムが二人の子供に歩み寄り、数メートル先で立ち止まると、怯えている子供達を刺激しないように「ここは危ないから、一旦安全なところに移動しよう」と提案をする。

もちろん子供達は、見知らぬ大人達を前に恐怖のあまり硬直したまま反応せず、困った様子のアダムは自身の冒険者カードを二人に見せながら、ハンスを含めた村の人達が友達を保護していることを伝える。


「えっ?お兄ちゃんが・・・?」


そう口を開いたのは二人の内の女の子で、お兄ちゃんという言葉を察するに先ほど保護をした男の子の妹なのだろう。

再度アダムが夜は野生動物が活発するから危ないことを懇切丁寧に伝えると、そこでようやく二人は渋々といった様子で保護を受け入れた。



ハンスとアダムが隠れていた子供達を連れて戻ると、村長の家に入るや案の定かなり怯えている様子があった。


どうやら残っていた子供二人も獣人族のようで、先に保護された男の子のゼムが二人に気がつくや「ノーリン!グッツェ!」と名前を呼び駆け寄る。

三人が互いに無事だったことを確認し、安堵しているタイミングをみてからアダムが話を聞きたいけどいいか?と問いかけると、三人は互いに顔を見合わせてからコクリと頷く。


話によるとルフ島の子供達で、兄妹である兄・ゼムと妹・ノーリン、それから二人の友人のグッツェと名乗った。


彼らは港で遊んでいたところ、木の箱に入って遊んでいるうちに眠ってしまい、気がついた時には見知らぬ場所に着いていたそうだ。

港に近いところに住んでいたことから、彼らが気づかない内に木箱が運ばれ、港町のアーベンに辿り着いたのだろう。

しかし何故ガレット村近郊まで来たのかということについては、ゼムからなんとかして島に戻ろうと考えている時にお腹が空き、たまたま見えた村の畑に目をつけなんとか食いつないでいたと語る。



「・・・で、じじぃ、どうすんだ?」



不意にケイがガシムに尋ねるように口を開いた。


「どうすると申されますと?」

「こいつらをしょっ引いて豚箱に入れるか?奴隷にして強制的に働かせるか?」


その言葉にその場に居た全員が息をのんだ。


たしかに畑荒らしの犯人を捕まえたいと依頼を出したが、まさか犯人が十歳にも満たない三人の獣人族だとは思わないだろう。

ハンスはケイの発言に今すぐにでも口を挟み抗議したい気持ちが湧き出たが、同じ事を思ったアダムが「なにもそこまで・・・」と間に入るやケイが反論をする。


「責任に大人も子供もねぇ。自分のケツが拭けないような奴にその後起こったことに文句は言えねぇよな?」


ケイが三人の子供達の方を向くや、さらに「もしそうなったらどうするんだ?」と問いかけるとゼムが「そ、それは・・・」と言い淀む。

この世界はたとえ相手が子供であろうと、悲劇的な結末を迎えることがあるとわかってはいたが、実際にそのやりとりが行われていることにハンスをはじめ、村長の家で待っていたダンやマーサ・ドランも複雑な表情を浮かべる。



「ケイさんそこまでにしてください」



なおもケイが幼い三人に「奴隷として売られたらどうするんだ?」と問いかけたところで、ハンスはその衝動を抑えきれずに口を挟んだ。


ガシムがハンスを静止しようとしていたが、ケイの言葉に我慢がならないことと昔から困った人を放っておけない気質が相まって、自分は三人を処罰することを望んでいないことを伝えた。


「まぁ、野菜はまた育てればいいしなぁ」

「さすがに私もこんな小さい子にそこまでするのは気が引けるよ」


場の空気感に耐えきれなかったのか、ダンとマーサがその後に続き意見する。


また、ケイに怯えている子供達にドランが「うちの果物はおいしかったかい?今度は言ってくれたらとってあげるからね?」と宥め、三人がごめんなさいと謝罪をしたところで、ガシムが気を利かせるように「今日は遅いから明日また話し合おう」とお開きとなった。



「ハンス」


保護をした子供達を村民達に任せている間、ナンシーが彼らの手伝いで場を離れたと同時にハンスがガシムに呼ばれた。


「父さん、どうしたの?」

「・・・お前は昔から正義感が強く優しい子ではあるが、そろそろ言葉の裏を見極めるべきではないか?」


振り返るとガシムが珍しく一人の父親の表情を浮かべ、ハンスがその発言に疑問の表情で返すや、やっぱりか・・・と言わんばかりの表情へと変わる。


「もしかして、さっき僕がケイさんに言ったこと?自分は間違ったことは言っていないし、彼が半分脅しの様に言っているのも理解はしているつもりさ。でも、あの場で言っていいことといけないことぐらいあるだろう?」


それをなんで・・・と言いかけたところで、ガシムを見ると普段見る表情の中に険しい雰囲気を感じ取り、思わず口を噤む。


「たしかにお前の言うことは一理ある。だが、あの子達は獣人族だ。その意味がわかるか?ケイさんが言っていることは獣人族のいわば“掟”みたいなものだ」

「掟?」

「獣人族は幼少の頃から油断は死をも招くことをすり込まれておる。人とは違った生活様式を続けているが故に彼ら(獣人族)にとっては、優しさと厳しさを持って知るための必要な行為だった」


「まぁ、(ケイ)がそのことを知って言ったのかはわからんがな」と締めくくったガシムは、ほどなくして綺麗になった子供達を連れて戻って来たケイとアダムを出迎えるため席を立つ。


ハンスは、裏を見ろと言った父の言葉の意味に嫌悪感とも違うなにかを感じた。


たしかに人生を何十年も生きた人と二十代そこそこの自分では比較対象にすらならないが、自分の思っていることを否定し取り下げる意思はない。

幼き頃、亡き母から『人の話をよく聞き、困っている人がいたら手を差し伸べられるような人になりなさい』と言われていたこともあってか、ガシムの言葉を拒否出来ない自分もいる。


ハンスは、裏を見ろというガシムの言葉には『冷静になれ』という意味があったのではと思い直し、自分なりに理解しようと逆に頭を悩ませ、眠れない夜を過ごしたのだった。



翌日、二人の冒険者は保護をした子供達を親元に帰すため、港町のアーベンに戻ることになった。


子供達は、各々村人達から着られなくなったお古を着させられ、元々身につけていた衣服は綺麗に洗い、ほつれや破れた部分をマーサをはじめとした女性達で手直してから丁寧に麻袋に入れてアダムに手渡した。



「待ってー!」



ガレット村の面々に挨拶をし、出発しようとしたところで、後方からマーサの子供達であるエルとキャロルが駆け寄って来る。


皆がその様子を見守っていると、三人の前に立ったキャロルの手に赤いイチゴがいくつかなった小鉢を抱えており、これあげる!とノーリンにその小鉢を手渡した。


「わたしとお兄ちゃんで育てたの!大事に食べてね!」


キャロルの行動に驚いていると「妹があげるって聞かなかったんだ。黙って食わずに今度は声を掛けてくれよな」と、横からエルの補足が入る。


マーサは、子供達に保護した三人のその後を話していなかったが、他の村民たちの話を又聞きした形で知り駆けつけたのだろうと察した。

子供達のやりとりを静観していたマーサは「ごめん・・・ありがとう」と礼を述べるゼムの姿に「また遊びにおいで」と声を掛けると、「今度来たときは、それ以上の量を食わせてやるからな!待ってるぞ!」と続けてエルが笑顔で声を掛けた。


「それではケイさん、アダムさん。彼らの事よろしくお願いします」


ガシムが頭を下げると、責任を持って親御さんの元にお送りしますとアダムが承諾し「おいお前らいくぞ!」とケイを先頭に立つと、子供達の元気な声が広がりその後に続く。


ガレット村の人々は、原因が解決した安堵感と保護をした子供の今後を願いつつ、その姿が見えなくなるまで見送ったのだった。

たまに更新します。

サイドストーリーの需要ありますかね?


いつもご高覧くださりありがとうございます。

閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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