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奇妙な新人

今回は、異世界満喫冒険譚6話から登場する港町・アーベンの冒険者ギルドの回です。

登場人物:ニーア(受付嬢) ブランド(素材買取担当) オルガ(ギルドマスター)

ここは港町・アーベンにある冒険者ギルド。


受付嬢のニーアは、いつもと変わらず担当している受付窓口の業務を行っていた。

朝の依頼争奪戦が一段落し、ギルド内の清掃や整頓、掲示されている依頼の確認および張り出しなどを行い。受付にやってきた人々の対応にも応じる。

受付は彼女以外にも複数人いるが、物腰が柔らかく対応も良いことから、意外にも彼女目当てで来る者も少なくはない。


「冒険者の登録をしたいんだけど」


受付に経ってからすぐにある青年が彼女の元までやって来た。


お決まりの挨拶と担当者の名前を告げ用件を伺うと、冒険者の登録申請を行いたいと言う青年は、ミーアの記憶している限りこの辺りでは見かけない顔だと思った。

一般的な麻のシャツに革製のベルトとズボン・ブーツを着用し、少し茶色っぽい髪と顔の凹凸があまり深くないのか想定より少し幼く見える。


ミーアは記入用紙を青年に手渡し、代執もしていると告げるとその必要なないと彼は断わり、自身で記入を行う。


「なぁ?これ何?」


必要事項を記入漏れがないことを確認し、用紙を受け取ったミーアが取り出したものに青年は何かと尋ねた。


「これは本人の情報を読み取って、ギルドカードにする魔道具になります」


特殊加工された正方形の板に半球型の水晶体が設置し、その透明の内側に時計の針のようなものが見える。

これは魔道具の一種で【能力測定器】というもので、元は1500年前に王都・アルバラントの地下から発見されたオリジナルを元に複製したものである。

ミーアもその辺りの経緯はよく知らないが、研究によると今で言う鑑定レンズの大型版の様なもので、それがモデルとなって鑑定レンズや研究道具が開発されたと伝えられている。


その説明をすると、へぇ~と青年が珍しそうな顔で魔道具を覗き込んでいた。


カードを作製するために青年に手を魔道具の上に置くように指示をする。

時間にしてほんの数秒でその人物の能力が解析され、ギルドのカウンター下に設置してある半透明の正方形の板に結果として反映される。

その結果をカードに反映させる作業は装置で行うのだが、少し時間がかかるので、その間にギルドの基本的なルールを青年に説明する。


ほどなくしてカードが完成し、青年に手渡す際に間違いがないかを確認するように伝えたのだが、当初ミーアはその鑑定結果に驚きの表情を浮かべた。


ケイという名のその青年は、革製の服装をしていたのでてっきり剣士系かと思っていたのだが、職業が魔法使いと後衛系の職業と表示されている。

スキルも六つあり、その内の三つが属性魔法とレベル8のわりには多いと感じてしまう。しかも彼はユニークスキル持ちで、鑑定眼とアイテムボックス持ちと二つ所持をしている。


このユニークスキルは生まれ持った才能を示しているので、それによっては将来の職業がある程度決まってしまうことがある。

特にケイのユニークスキルは、どちらかというと本職の商人も羨むほどのスキルにあたり、アイテムボックス持ちは荷物を運び各地を訪れる行商人の間で尊敬されるスキルと言われている。


「でも、ケイさんって意外ですね?」


ついポロリとミーアの口から言葉が漏れた。


ケイが意外の意味を問いかけると、ミーアは初めは剣士系の職業かと思ったと口にし、しかも魔法使いの常識であるローブや杖を持参していないことを指摘する。


単にケイが自分の職業に気がついていないだけかと思ったのだが、本人曰く、ローブは動きを阻害するし杖は殴っても威力がたかが知れている、そんなモノを持つ意味が分からないと首を捻る。

もちろんケイの個人的な感想なのだが、それを他の魔法職が聞いたら激昂するのではと、ミーアは笑顔を取り繕いながらそうなんですね。と曖昧な返しをした。


それから一通り登録が済んだ事を伝え、質問はありますかと問いかけたところ、ケイから素材の買取をしてほしいと尋ねられる。

素材買取は左奥にあるブランドの担当にあたるため、その場所を教えるや礼を言ったケイは意気揚々と買取カウンターの方へと足を向けた。


ミーアは随分変わった人だなと、彼の後ろ姿をみながらそんなことを思い浮かべたのであった。




「ブランドさん!こっちの解体は終わりました!」

「おう!こっちも終わったから一緒に運んどいてくれ!」

「はい!わかりました!」


買取担当のブランドは、この日も持ち込まれた魔物の死体を解体するために朝から奮闘していた。


なにせ港町の中心と言われるアーベンは、日々様々な場所から色々な素材や品物がひっきりなしに出入りし、それを冒険者ギルドの職人兼職員が一つずつ確認しているのだ。

またブランドの方は解体も行っているため、他の担当よりも業務は多く、この場にいる八人の職人をフル稼働させても手が足りないのが状況で、以前からギルドマスターに要望を出したのだが調整諸々の事情があり難儀していると聞く。


「お~い、交代だ!」

「はい。ではお願いします!」


買取を担当していた若い職員と代わり、今度はブランドがカウンターに立つ。


朝から立ちっぱなし動きっぱなしのブランドにとっては、椅子があるカウンターの業務はひとときの休憩でもある。しかし同時に元々冒険者をしていたことから細かい勘定などが苦手ではあるものの、五十を過ぎた老体にとっては朝からの立ち仕事は色々と身体にガタが来ることから、内なる天秤にかけた時に仕方がないと受容している部分がある。


それからほどなくして、一人の青年が彼の前に現れた。


青年は麻のシャツに革装備と初心者そのものの容姿で、ミーアからここで素材の買い取りをしていると聞きやって来たと述べる。


互いに紹介した際、ケイと名乗った青年にブランドが買取量を提示するようにと伝えると、少なくともここでは無理と言い切った。

たまにゴブリン二~三体倒しただけで同じような物言いをする輩は居るが、ケイのを見るとなぜか嘘をついているようには見えず、モノは試しとブランドが裏に来るようにと言った。


「ここならいいだろう」


裏の解体場に連れて行くと、ブランドがここで素材を出すようにと指示を出した。

ケイはなんの躊躇もなく宙に手をかざすと、瞬間的に魔方陣が形成され、そこからとんでもないモノを取り出した。


「これは・・・コカトリスか?」


ブランドの目に映ったのは解体場に横たわるコカトリスだった。


その異様な光景に、周りで作業していた若い作業員達もこちらに注目している。

全体的に細かい傷はあれど、目立つほどの傷がないことに一瞬寝ているのではと身構えたが、ケイからは「ちゃんと死んでいるぞ」と指摘され、指さした先には舌を垂らし白目半分のコカトリスの顔があった。


細かい傷は、けん制の際にできた傷だろう。


長年の経験から推測したブランドだったが、致命傷となった額の傷が何で出来たのか判断出来なかった。

おそらく剣のような刃物類なのは間違いないのだが、ここまで綺麗に突き刺さるとなると、相当の技量と力がなければ難しい。しかもコカトリスは見た目に合わず素早いことから手慣れの冒険者でも気を抜けない魔物だと認知されているはずだ。


(ん?・・・・・・これは?)


さらに状態を確認してみると、コカトリスの頭部の丁度てっぺんに何かが直撃し陥没した跡が残っている。形状を見るに真上から重量が加わったナニカが落下して出来たのは間違いないのだが、プロであるブランドでもそれがなんなのかわからずケイに尋ねる。


「ケイ、この頭部の陥没した箇所はなんかわかるか?」

「あぁ!それ、俺だ」


聞き間違いかと思われたが、ケイ曰く崖の上からコカトリス目がけて飛び降り、頭部に足が直撃した跡だという。しかも額の傷は剣を逆手に持ち、投げて当たった跡だとも答える。

手練れの冒険者でもそんな芸当はほぼ不可能に近いのだが、一撃でコカトリスを仕留めたとなると、額の傷は頭部を貫通しているのだろうと推測できる。

ともあれ、ここまで綺麗な状態が残っているのなら解体しがいがあるし、売れば相当な金額になるだろう。


解体に時間がかかるので夕方また来るようにと告げると、ケイは時間を見てまた来ると返し、ブランドが彼の去り際に「もしアイテムボックス持ちなら、他の奴に悪用されかねないから気をつけろ」と忠告をした。


ケイはこちらに振り返ることもなくブランドに了解の意を込めて手を上げたが、本当に分かっているのかと訝しむ。

しかし、昨日のアダム達からの報告に上がっていた人物がケイのことであると理解したブランドは、本当に彼は何者なのだろうかと疑問を浮かべるしかなかった。




「ニーア、これはなにかの冗談か?」


執務室にて書類確認を行っていた冒険者ギルドのギルドマスター・オルガは、ある書類を前に眉をひそめ、眼前にいる受付嬢のニーアに尋ねた。

彼女が持参した書類は本日加入した冒険者のリストで、一覧と個人の能力測定結果を記した羊皮紙でまとめられている。


その一枚に本日加入した“ケイ”という人物の名前が記されている。


十九才の一般成人男性で能力値も現レベルから見るといたって普通なのだが、そのなかでもオルガが注目したのはスキル構成で、その内容のあり得なさに自身の目を疑いニーアに尋ねた。


「測定器で計測をしたので間違いありません。それに使用した魔道具は比較的新しいもので行いましたので、ミスや故障の可能性は低いかと・・・」

「スキル構成は魔法職寄りだが、火属性の他に風と光って三属性持ちなのに杖術なしとはどういうことなんだ?」


ケイという青年は、魔法職なのだが一般的に必要なものが不足している。


例えば杖術。これは魔法の威力を高めるための必須スキルで、スキルレベルは個々に異なるが大抵の魔法専門職は所持している。このスキルがあるのとないとでは、発動した威力が誰が見ても明らかなほど差に現れる。それに彼はローブも着用していなかったため、対応したニーア曰く革装備だったので初めは剣士系だと思っていたとのこと。

こちらに関しては本人の好みや特性があるので一概に言えないが、オルガが見た限りでは着用している者は多いと感じる。


またギルドの規定により虚偽の報告は御法度なのだが、計測結果に偽りがないとなるとこの年齢でこのスキル構成は驚異的だと感じる。


仮に先天的な能力であるならば、早い段階でエルゼリス学園などからスカウトの話もあっただろうし、少なくとも噂になっていたはずだ。

今までにそれら一切の話が上がらなかったとなると、なにかしらの事情で隠蔽していた可能性はあるが、その辺りに関して個人の事情であることからあくまでも推測となる。


オルガはニーアに、今後ケイという人物に何かあればその都度知らせるようにと指示を出した。一方彼女は、今までそんなことはなかったのにギルドマスターはどうしたのだろうかと?首を傾げた。


しかし、後にオルガの推測が現実のものとなるのはその少し後の話である。

楽しんで頂けているかは不安ですが、細々とマイペースに活動していますのでよろしくお願いします。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。


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