第一話 眠り
夏の熱気が窓から入り込む。
今日も真夏日らしい。
「生徒会長、こんにちは!」
通りがかりに女子生徒から挨拶をされる。
そう、俺は他でもない生徒会長。
生徒たちの代表であり、憧れだ。
無視するのは尊敬に値しない。
きちんと挨拶は返す。
何ということのない、ごく普通の顔に、くるくるとはねた髪、自慢のトーク力と学力だけで会長に上り詰めた。
そこそこ凄いと思う。
そんな感傷に浸っていると、背後から声がかかる。
「おーい、神崎、このプリントを職員室まで持って行ってもらえないか?」
「分かりました」
「悪いな」
先生も大変だなあ。やっと中間テストを終えて、解放された生徒とは違い、回答用紙の丸付けもあるのだから、難儀というか、何というか...
受け取ったプリントをひらひらともて遊びながら、職員室へ向かう。
第二体育館を通る道が、一番の近道だということは、多分、俺しか知らない。
「やあ、神崎」
あ、そうか、こいつも知っていたんだ。
「信之じゃないか。もう下校時間なのに、お前が残ってるなんて珍しいな。」
こいつは信之。俺の親友であり、幼馴染であり、信頼している副生徒会長だ。
髪をぴっちりと七三に分けていて、いつも不機嫌そうな顔をしているクソ真面目なやつ。そして高身長。羨ましい。
「俺は職員室に用事があってな。お前は?」
「ああ、俺もこのプリントを職員室に届けるよう、頼まれたんだよ。一緒に行こうぜ。」
うんうん、人間だもんな。近道通って楽したいよな。分かる、分かるぞ。
二人で足並みを合わせながら、他愛のない話をする。何か、久々な感じがするなあ。
最近は勉強が忙しくて、あまり話せていなかったからかな。
「失礼します。三年二組の神崎です。担任よりプリントを預かったので、届けに来ました。」
「おう、お疲れ様。」
無事、プリントを届けた。信之の方も用は済んだらしい。
「なあ、今日さ、久々に...その...」
?何だろう
「いや、その...」
「なんだよ信之!はっきり言えって」
「い、一緒に帰らないか?」
何だ、そんなことか
「良いよ、久しぶりだもんな。一緒に帰ろう。」
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「___それで、気付いたときには、もうあいつは先に帰ってしまっていてな」
「ははは!お前は本当に鈍感なところがあるよな」
「笑うな」
「あいた」
何も、殴ることはないだろう、とかぼやきながら、歩き続ける。
沈黙が続く。職員室までの道でも話していたため、会話のネタがない。
「なあ、そういえばさあ」
「「「危ない!!!!」」」
え
何が?
突然、響く轟音。
目の前には大量の鉄骨。
もしかして、工事の
信之は?
俺、死ぬの?
首から下が動かせない
感覚もない
頭が回らな...
かくん、と自分の頭が落ちた感覚がした。
かくして、この俺、神崎の人生は齢十八にして幕を下ろした。
俺だって、
きっと、信之だって、
再び目を開けることはない
そう思ってたんだ。