~パーティを追放されましたけど、倒した魔物を手駒に最強へと至ります。 今更パーティに戻れと言われましても、君たち詰んでますから~
「アラタ、お前クビな」
「え?本気ですかルーク?」
ダンジョン帰り。宿屋兼酒場の「鯨亭」の部屋を借り切っての反省会。
今日は、ボスを倒してかなりの収入が見込まれるので、めずらしくパーティの皆と酒を飲んでいたのだが。
「嘘なもんか。辛気臭い屍術師とは今日でおさらばだぜ。お前の顔を見ないで済むかと思うと清々すらぁ」
にやにやしながらルークが言った。
勇者職のルークは金髪でハンサムな顔立ちなのだが、こういう表情をすると下司な性根が現れる。
「いや、いくらリーダーでも、それは横暴でしょう」
「ふん。俺の独断じゃねぇ。パーティの総意だ。なぁみんな」
「そうだな。1年の付き合いだが、正直お前みたいな陰キャとは一緒にいたくない。支援魔法もほとんど役に立ってないし、付き合いも悪い」
茶短髪の偉丈夫、盾役のロイドがぼそりといった。
「だいたい話し方が嫌なのよね。あんた私たちのこと馬鹿にしてるでしょ」
赤髪の美女、魔術師のアンナが私を指さす。
「そんなことはありませけど。具体的にどういうところが嫌なのですか?」
「そういうとこよっ!あんたと話してるとイライラするのっ」
「私も屍術師の方とは一緒にいたくありません。別にアラタさんがどうのってことではないんですが・・・」
銀髪の美少女、僧侶のライラが申し訳なさそうにつぶやく。
「いや、だから屍術は使わないようにしているんだけど・・・」
「聖職者にとって屍術は忌むべき魔法、それを操る屍術師は悪魔のようなもの。教義に背いたまま冒険者を続けるのはきついです」
「ま、はっきり言って飛ぶ鳥を落とす勢いの俺たち「逆境の獅子団」に屍術師なんかがいたら印象が悪くなるんだよ。ってことで多数決を採る。アラタをパーティから追放するのに賛成の者は手を挙げろ」
ルークが振ると、私を除く全員が手を挙げる。
「ひゃっはぁ!これで決まりだな。さよならアラタ君、達者でな!」
「・・・まぁパーティの総意なら仕方ないですね。私も居心地が悪いのは嫌ですから。じゃあ抜けますから、今日の分の報酬をください」
「はぁ?報酬なんてやるわけないだろ。ギルドから金が入るのは明日で、その時点でお前はパーティのメンバーじゃないからな」
「無茶苦茶です。そんな理屈が通ると思ってるんですか」
「けっ、仕方ねぇな。そういうことなら俺が特別に報酬をやろうじゃねぇか」
ルークが目配せするとロイドが俺を後ろから羽交い絞めにした。
「これがお前の最後の取り分だよっ!」
ルークが私の鳩尾に鋭いパンチを入れて来た。
あわてて防御魔法で腹部を強化するが、流石に勇者のパンチだ。
胃液がせりあがる。普通の人間なら内臓が破裂して死ぬんじゃないのか。
「ぐぶぅ」
膝をついた私の頬にしゃがみ込んで左右のパンチ。歯が折れ鉄の味がした。
倒れた私の髪をつかんで立たせるとルークは厭らしい笑みを浮かべる。
「どうだ、まだ足りねぇかい?」
「ぐっ、こ、こんなことをして、いいと・・・」
「おや、まだ足りねぇのか?欲張りな奴だな!」
顔面へのパンチ。私は部屋の外まで転がり出る。
「なんだ」
「どうした」
騒動を聞きつけてやじ馬たちが集まってくる。
「ああ、なんでもねぇよ。内輪のちょっとしたトラブルだ。気にしないでくれ」
「なんだ、そうか」
「ちぇっ、つまらん」
快活な声でルークが言うと、やじ馬たちは納得して散っていった。
勇者のスキル「カリスマ」を発動したようだ。
「おいアラタ、まだ報酬がほしいかい」
「・・・わかった。もう報酬はいらない」
「いいか、ギルドにチクったりしたら殺すからな」
ルークが耳元で囁く。私は頷くしかなかった。
「素直になったようだな」
「ふん、いいざまね。弱っちい男」
蔑んだ目でアンナが言う。
「ははっ、言ってやるなって。元メンバーに可哀そうだろ。おい、ライラ、昔のよしみだ。回復魔法をかけてやれよ」
「あっ、はい」
ライラの回復魔法で、ボコボコにされた私の顔が瞬時に修復する。
「はっはーっ。何と言っても俺は慈悲深い勇者様だからよ」
・・・嘘つけ、パーティメンバーへの暴行の証拠を隠滅しただけだろうが。
そう思ったが勿論口には出さない。
「おら、俺への感謝の言葉はどうした」
「・・・ありがとうございました。今までお世話になりました」
これ以上怒らせても仕方がない。とっととこの場を立ち去るに限る。
私は歯を食いしばってルークに頭を下げた。
「おう、お前も元気でやるんだな、アラタよ。
まぁ、うちを追い出された屍術師なんて、野垂れ死にするのが関の山だろうけどよ。
さぁ、厄介者もいなくなったし、飲みなおしだ」
「おう」
「さぁ飲むわよ、今日は。嫌な奴もいなくなったし」
「ええ、うんと飲みましょう」
確かにパーティを抜けると生活は厳しい。
私は肩を落として、盛り上がる元パーティメンバーを背に、鯨亭を後にした。