女子会
『中ボス令嬢2』発売記念(※発売は8月20日です。一部地域は数日遅れます)番外編です。
のほほんと楽しんでいただけると嬉しいです。
一連の事件が収束し、ようやく落ち着いた気分でお茶ができるようになった。
今日は母とボラと一緒に、三人でお茶会をしている。
休日なのに、父もバウディも仕事が忙しいのよね。我が国の公爵家のひとつが失墜して、今まで幅を利かせてきたその派閥がらみで色々あるらしい。
公爵家と連座で爵位を落とした家もあるみたいだけれど、民に影響が出ないようにするのが腕の見せ所とかなんとか、某先輩が言っていたわね。
それにしても、この三人でお茶をするのは珍しいので、ちょっとウキウキしてしまう。
「カードが特別に腕を振るってくれましたよ」
ボラがテーブルに用意してくれたお茶菓子は、ちょっと高級なフルーツを使ったタルトが数種類に、スコーンとジャムだ。
お茶をいれて早速フルーツタルトを堪能する。
甘酸っぱいフルーツとタルト生地の相性が最高で、鼻に抜けていく香りも美味しい。
「はぁ、美味しい……」
うっとりと漏れてしまった言葉に、ボラも深く頷いてくれる。
「本当に、カードの作るお菓子は絶品ですねぇ」
ほくほくと頬を押さえるボラが可愛い。
でも本当にその通り、カードの作るお菓子は絶品なのよ! もちろん、お菓子以外のお料理も美味しいけれど!
「食べ過ぎてしまうのが、問題ですけれどね、ふふっ」
母はスコーンにジャムを乗せて、優雅に笑う。
そう、そうなの! ついつい手が伸びてしまうのよ、こうして何種類も出てくると全部制覇したくなるじゃない? ちゃんと人数分あるしさ。
「あとで運動すれば大丈夫ですよ。……きっと」
二つ目のタルトに手を伸ばしたボラの言葉に、母は微笑んで頷く。
「そうね、しっかり運動しましょうね、ボラ」
「はぃ……奥様」
ボラの表情が僅かに引き攣っている。
最近太ったってこぼしていたものね。その時に母の目が光っていた気がした……見間違えじゃないわ、隙あらば『特訓』したがる母だし。
「そうだ、お母様。以前王妃殿下の侍女をなさっていたんですよね?」
話を変えるべく、母に尋ねた。
「ええそうよ、当時は王太子妃殿下でしたけれどね。元々は護衛だったけれど、当時の女官の皆さまが不甲斐なくていらしたのよねぇ」
思い出すように窓の外に視線をやる母だが、不甲斐ないの意味がわからずに首を傾げてしまう。
「ふふっ。王妃殿下は昔、とてもやんちゃだったのよ?」
「そうなんですか?」
今の王妃殿下は王の隣に並んで遜色ない、凜々しく存在感のあるお方だ。
「お子様も生まれてらしたのに、元気いっぱい馬で遠乗りをなさったり」
ん?
「陛下は妃殿下に甘くていらっしゃるから、お願いされるとすぐに許可されてしまわれて。本来止めるべき女官は、おもねるばかりで」
そこまで言うと、はぁと悩ましげな溜め息を吐いて、お茶を一口飲まれた。
代わりに口を開いたのはボラだ。
「その時にお諫めするのが、奥様だったのです。毅然としていて、女官達の憧れの騎士様だったんですよ」
「騎士様……」
このおっとりとした母が?
「あれ? どうして、ボラがそのことを知っているの?」
私の疑問に、母とボラが顔を見合わせる。
「レイミは知らなかったかしら? ボラも王妃殿下の宮で、女官として働いていたんですよ」
レイミの記憶の中では、どこかの貴族の屋敷で働いていたがそこでなにかあって、ウチに来ることになったというざっくりとした記憶だったんだけど、貴族じゃなくて王族相手とは……手際がいいし腕もいいとは思っていたけどね! 第二王子殿下が来たときも、平然としていたし。
「知らなかったです。でも、王妃殿下の女官ということは、名のある貴族なのでは?」
私の疑問に、またしても二人は顔を見合わせて笑った。
「歴史だけ古くて、娘を働きに出すことで、なんとか家を維持するような家でしたけれどね」
笑顔で話しているから、辛い話ではないのかしら?
「夫と結婚すると伝えたら、女官ができなくなるからと反対され。トウの立った、行き遅れの私を好いてくれる夫を貶すだけ貶してくれたので、伝手を使って縁を切りましたから、もうすっきりしたものですよ」
ボラはサバサバと言ってお茶で喉を潤す。
「……ボラがいま幸せなら、それでいいわよね、うん」
「そうですとも」
私の言葉に頷いてくれた彼女にホッとする。
「そういえば、お母様は女性騎士だったのですね? 知りませんでした」
だって、騎士っぽさが少しもないもの、わからないわ。
「随分昔のことですよ。もう久しく剣を握っておりませんわ――ああ、そうだわレイミ。あなた、体力がついてきたわよね?」
母の目がキラリと光った。
「いえ、まだまだです! お母様がおっしゃっていたように、義足への強化も未熟ですから!」
危険を察し、急いで残りのお茶を飲み干して立ち上がる。
「明日提出の課題を思い出しましたので、失礼いたしますね。お二人は、どうぞごゆっくり!」
そそくさと辞した私の背に、母とボラの笑い声が聞こえた。
無事に切り抜けたと思ったけれど……バウディに話を通した母によって、剣の素振りを指導されるようになるまで、あと三日。





