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中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。【書籍化】  作者: こる
本編

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68:打ち合わせ

 バウディと二人で通されたのは、会議室のような事務的な小部屋だった。


 ……自宅に会議室とはさすが辺境伯邸だわ、外から見たとおりに中も広いから、この様子だと他にも中会議室とか大会議室とかもありそうね。


 なんてのほほんとしていたんだけれど。


 渋い顔をしたカレンド先輩から、アーリエラ様とミュール様の動向を教えられた。


「アーリエラ様から軍資金を得て、ミュール様が私たちを探してるんですか」


 もっと色々説明してくれたけれど、要約するとそうなってしまった。


「ああ、そして君たちの居場所の情報を、使者に伝えている」


「使者って、まだ国内にいるのですか? てっきり、もうお帰りになったものだと思っておりました」


 十日も掛けて移動したので、きっともう帰国したのだと思っていたんだけど。


「視察の名目で、滞在日数を大幅に伸ばしてきたらしい。そして、近く、ここまでくるだろうということだ」


「……ミュール様はどうやって、私たちの足取りを掴んでいるのでしょう。行き当たりばったりで、寄り道してきているのですが」


「金だな。馬車の御者に手当たり次第に聞き込んで、口を割らない相手にも金を積んで、情報を聞き出しているようだ。公爵家の宝石が、ふんだんに市場に流れているから、みなで公爵家の資産の流出にやきもきしている。……万が一にも、違法収益分の追徴金が回収できなくなったらことだからな」


 取りっぱぐれるわけにはいかんって、どれほどの金額なのかしら。庶民の私が聞いたら、腰抜かすくらいかな?


 とはいえ、いまは泳がしておくとのことだ。

 そして、彼らが行動に出たときに、言い逃れできない状態で取り押さえる計画らしい。

 護衛の追加として、丁度よく一緒にきていたマーガレット様たちを留め置いて、万全を期すとまで言ってくれた。

 クロムエル家への信頼感がなかなかに高い。



「お手数をお掛けします」


 バウディが神妙な顔で頭を下げれば、カレンド先輩は慌ててお互い様だからと頭を上げてくれと頼んでいる。


「こちらも、現状ではミュール嬢を拘束するわけにもいかず。とはいえ、彼女は中和魔法という希有な魔法持ちではありますが、それを悪用するような品性の人物、このまま放置するわけにはいきません。しかし、今回の件があれば、アーリエラ嬢共々、相応の罰を与えることができるようになるので、こちらとしても助かるのです」


 なるほど、決め手に欠けていたのか……。


 私が階段から突き落とされたときに周りに人はいなかったし、いつの間にか人が集まっていると思えば、陰のほうでアーリエラ様がなにかしていたっぽいから、私に不利な証言ばかりになっていたとしてもおかしくはないわけだし。


 今回の件――隣国へバウディの情報を送り、隣国内で内乱を起こそうとする一派と繋がる。

 もしかすると本人たちにそこまでの悪意がないのかも知れないけど、やっていることはかなりヤバい。


 そして、カレンド先輩……いや、ビルクス殿下だろうか、裏で動いているのは。きっと、アーリエラ様とミュール様を泳がせて、やらかすのを待っていたんだろう。


 権力者を敵に回すのはよくないね、割と本気で怖いわ。


 曲がりなりにも自分の婚約者を――


「現在、アーリエラ嬢は殿下との婚約も白紙に戻り、気を病んで部屋にこもっているようですが――」


 カレンド先輩の言葉に、思わず聞き返してしまう。


「婚約は解消ではなく、白紙に戻ったのですか?」


 白紙ということは、最初からなかったことにしたわけだよね?


「ああ、そもそもまだ内示の段階で、正式に婚約していたわけではなかったから。そういう処理になったそうだ」


 なるほど、婚約してなかったからなかったことでいいのか。処分ではなく『処理』ってところも事務的だ。


 アーリエラ様にとっては一層酷かもしれないわね、最初から婚約者じゃなかった、端から他人だっていわれたようなもんだし。


 自業自得とはいえ、そりゃぁ部屋に引きこもるわ。王子様との結婚を目標にしてたもんねぇ。

 よそ見なんかせずに、ちゃんと目標を見て行動しておけば、こんなことにならなかったろうに……。


「とはいえ、引きこもりつつも、ミュール嬢に資金提供はしているんだから、反省はしていないんだろうがな」


 苦々しくカレンド先輩がこぼす。ホントにそれな。




「カレンド殿、何点か確認したいことがあるのだが、いいだろうか」


 バウディがカレンド先輩にそう切り出し、現在の外交使節の動向と規模を確認し、こちらの手勢についても確認していた。


 正直……私は、出されたお茶とお菓子を堪能しているだけで、内容についてなにも口を挟むことはできなかったし、求められもしなかった。


 適材適所よね。よろしくお願いします。


 バウディとカレンド先輩との打ち合わせの間に、外から最新情報が入ってきたりして、私がお代わりのお茶を飲み干すまで続いた。



「ということで、敵は明日こちらに到着するのですね。では我々は、ピクニックでもして、獲物が接触してくるのを待ちましょうよ。湖も捨てがたいですけれど、ここにくるときに見えた見晴らしのいい丘なんかどうかしら?」


 私達を餌に、一本釣りを目指したいなと思うわけで。二人の話が一段落したところで提案したけれど、二人の反応は芳しくなかった。


「あそこは、向こうにとっても隠れる場所がないが、こちらにとっても兵を潜ませる場所が離れすぎてしまい分が悪い。向こうの手勢が外交官三人にその護衛が九人。殺さずに制圧するには、同等以上の人数が欲しいところだ」


 カレンド先輩から駄目出しが入る。

 ふむぅ……。難しいものなのね。


「だが、ピクニックはいい案だろうな」


 バウディのフォローにカレンド先輩も乗る。


「そうですね、お二人の他に、私とマーガレット嬢も一緒にとなれば、変な組み合わせでもありませんし。では、ピクニックに適した場所を選定しておきましょう」


 地の利はこちらにあると、カレンド先輩がイイ笑顔になった。




 ということで、ピクニックの場所と準備はカレンド先輩に任せて、我々は部屋にさがった。


 バウディとは別の部屋だが、一旦私の部屋に入る。


「すまない。私のゴタゴタで、危険な目にあわせて……」


 部屋に入った途端、バウディに謝罪されて面食らった。


「どうしたの?」


「私が自分でけじめをつけなければならないのに、こうしてあなたや周りも巻き込んでしまった。あなたに傷ひとつつけるつもりはないが――」


 謝罪している口を、人差し指で止める。


「なにを勘違いしているの? 悪いのは、あなたを担ぎ上げようとしている、馬鹿な人たちでしょう? そして、その馬鹿に情報を渡していた、ミュール様とアーリエラ様が悪い。だから、我々に余計な手間をかけさせる彼らが謝罪すべきであって、あなたではないわ。でも、どうしても言いたいのなら、感謝の言葉がいいわ」


 しっかりと彼の目を見て伝えた言葉に、彼はひとつ瞬きして緩く微笑むと唇を押さえていた私の手を握って指を絡ませ、そのまま私の指の節に口づけた。


「ありがとう――いつも、あなたに救われる」


 感慨深い声音が私の胸に染み、ゆっくりと彼の胸に抱きしめられた。

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