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中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。【書籍化】  作者: こる.
本編

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66:辺境

 そして、おじさんが言った通り、数分後に馬に乗り揃いの防具を身につけた五名の助っ人がやってきた。


 ……そのなかのひとりに、どうにも見覚えがあるんだけど……。


 小柄な女性が先頭を切って馬を走らせてくる。トレードマークの黒縁眼鏡がないだけで、随分雰囲気が変わるものだなぁ、マーガレット様。


「ここで会ったが百年目ぇぇぇ! 今日こそ引導渡してくれるっ!」


 彼女の怒声に呼応するように、熊の魔獣が吠えた。


 馬が熊に最接近したところで馬の背を蹴り熊へと飛びかかった彼女は、自身の腕の長さ程もある山刀を逆手に持ち、熊の首を取りにいく。


「みなさん、大丈夫ですかー」


 のほほんとした声で、マーガレット様と一緒にきた人がお客の安否を確認する。

 外の熾烈な戦いとの違いに、強ばっていた体から力が抜けた。


 他の人もそうだったようで、戦いが終わっていないにもかかわらず、馬車のなかには安堵の空気が流れだす。


「あのお嬢さんは、あの熊になにか因縁でもおありなんでしょうか?」


 よく聞いてくれた行商のおじさん!

 気になるよね、あの第一声。


 馬車の前で護衛をしてくれる体勢の彼は、顔の前でパタパタと手を横に振った。


「あれは景気づけなだけで、因縁もなにもありはしませんよ。あれを言うと、気合いが入るんですって」


「はぁ、なるほど」


 おじさんが肩を落として頷いていた。


「おっ、終わりそうだ」


 戦いを見ていた彼がそう言った途端、私の目がバウディの手に隠された。


 えっ? なに?


「あの体格で首を跳ね飛ばすとは、随分な膂力だ」


 バウディが呟いた。


 なるほど、グロ画像注意ということか。私、結構そういうの大丈夫なんだよね。




 耐性のないグロ画像を見てしまった乗客が馬車の外でエレエレしているなか、私はすがすがしい笑顔で仲間の人たちと談笑しているマーガレット様に近づいていった。


 近づく私に気づいた彼女は、返り血を拭いた顔で目を丸くした。


「あらレイミ様、こんなところでどうしたんですか」


「マーガレット様こそ、随分楽しそうでしたね」


 私がそう指摘すると、体の前面の返り血も気にせずに可愛らしく照れ笑いした。


「はい、体を動かすのが好きなんです。趣味と実益を兼ねまして、害獣駆除をしてました」


 そっかー、体を動かすのが好きで、趣味で害獣駆除なのかー。すっごい手慣れてたものねぇ。

 本当に容姿と行動が合わない人だ、魔法学校にいるときから不穏な空気はあったけれど、思った以上に拳で会話する系の人だった。シンパシーを感じたのは、だからかしら?


「レイミ様は、もしかしてこれから辺境伯領へ?」


「ええ、アルデハン湖を見てみたくて」


 そういえば彼女の実家はカレンド先輩の領地に接していると言っていた気がする。


「それはいいですね。湖畔は涼しいですし、浅瀬でしたらボートで水遊びもできますよ。あまり奥へいくと、パクッと飛び出してくるので気をつけてくださいね」


 朗らかにそう教えてくれたけれど、パクッとどうなるのかしら……。


「奥へは行かないようにするわね。あら、呼んでいるようよ?」


 マーガレット様と一緒に来ていた人たちの中の、一番しかめっ面のおじさんが呼んでいるのを伝えると、彼女は気まずそうにそっと斜め下に視線を落とした。


「いえ、あの、ほら、折角久しぶりにお会いしたのですし、積もる話も――」


「マーガレットォ? お前、いつも言ってるよなぁ? 価値の下がるような狩りかたはするなって」


 往生際悪く私の前から動かなかった彼女のうしろに、大きな影がさしかかる。


「あ、あの、そうだ! レイミ様、こちらが私の二番目の兄になります!」


 突然の紹介に、私も大きな人も一瞬フリーズしてから、お互いに顔を見合わせる。


「レイミ・コングレードと申します、マーガレット様とは魔法学校の同じクラスで親しくさせていただいておりました」


「これはご丁寧に、マーガレットの兄のロータス・クロムエルです」


 はい、ご挨拶は終わり。私とロータス氏の視線がマーガレット様に向かう。


 引きつった顔の彼女に、ロータス氏が腕組みをして向き合う。


「マーガレット、お前の雑な狩りかたは、この夏で徹底的に矯正する。レイミ嬢、どうぞ楽しいご旅行を! もしお時間がありましたら、我が家にもお越し――」


「ロータス兄様っ、この先は最近魔獣がよく出ておりますし、我々で護衛するのはいかがでしょうかっ!」


 兄の言葉を遮ってマーガレット様が提案すると、彼は少し考えてからそれを了承した。


 それから、一緒に来ていた隊を二つに分け、そのひとつに討伐した魔獣を持ち帰ることを命じ、残りで馬車を護衛してくれることになった。


 マーガレット様たちにバウディを紹介すると、にんまりと笑まれた。


 どうやら、マーガレット様は大階段の出来事を知らないらしく、私がシーランド・サーシェルと婚約関係にあったことなどおくびにも出さず、バウディとのことを冷やかしてくれた。


「でもさすがレイミ様の婚約者様だわ、一分の隙もない魔力循環と強化魔法ですね。我が家の長兄が見たら、即時に勧誘するくらいの素晴らしさです」


 少し興奮気味にそう評してくれたのだけど、それは賛辞なのだろうか?



 ともかく、こうして護衛が増え、安心してアルデハン湖のある町に向けて再出発した。


「クロムエル様がついてくださるなら、安心ですね」


 行商のおじさんがほくほくした顔でそう言うので、水を向けると。


 するするとクロムエル家の事情を教えてくれる。

 とにかく武に秀でた家らしく、両親もさることながら五人兄妹も逞しく、且つクロムエル領で鍛えられた兵士はどこにいっても通用するということで、さながら傭兵育成場だなと思ったら、実際に他の領から兵士を預かり、鍛えて返すということもしているらしい。


「領地がほぼ山間地だし、街道も領の端を通るくらいでね。ようは主要産業がないんだよ。そのくせ、魔獣が多いから防衛をおろそかにはできないし」


 なるほど、そりゃ武力を伸ばすわ。


 馬車の後方を馬でついてくるマーガレット様と目が合ったので軽く手を振ると、彼女も笑顔で手を振り返してくれた。


 心強い護衛を引き連れて、馬車は一路辺境伯領にあるアルデハン湖へと向かう。

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