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06:公爵邸は立派でした


 体力増強を目標に、日々秘密のトレーニング……言い過ぎた、ストレッチなどを続けた結果、なんとか一日起きていられる体力は付いた!


 最初の頃は、一日に何度も寝落ちして驚いたわ。


 食事も積極的に摂るようにしているし、本当はプロテインが欲しいくらいだけど、肉をしっかり食べることで補うようにしている。

 最初はこのお肉さえも、食べ付けないのかすぐにお腹を壊しちゃってさ。

 なんとか少しずつ量を増やしていって、今ではなんとか一人前近くを食べれるようになった。




 そして迎えたアーリエラ・ブレヒスト公爵令嬢とのお茶会は、驚いたことに招待客は私一人だった。



 美しい金色の髪を緩く巻いた穏やかそうな彼女と、マンツーマンだ。


 悪い子ではなさそう。

 ふっくらした頬に、少し垂れた目がおっとりした雰囲気を醸している……これが生粋のお嬢様かっ!



 それに、公爵家ともなると格が違うわぁ。

 家の大きさも半端ないし、使用人の人数も全然違う。

 名ばかり貴族の我が家は、やっぱり名ばかりなのね。


 あまりキョロキョロしないようにしながら、今日はきっちりとお仕着せを着たバウディに車椅子を押してもらう。出迎えてくれた執事さんに、我が家なら二軒は入る広いお庭にある東屋……ガゼボ? なんだかお洒落な場所に案内された。



 華美すぎないのが美しいケーキスタンドに乗せられた、色とりどりの小さなケーキたち、香り高い紅茶、それに絶対お高いティーセット。


 小さなテーブルはそれらで埋め尽くされている。


 精緻な模様の美しいティーセットを見ながら、絶対に粗相をしないことを心に誓った。

 あれ、絶対、父の給料で気安く買えるような代物じゃないわ。


 メイドのお姉さんがお茶を用意すると、すぐにガゼボを出ていく。



「レイミお嬢様、こちらでよろしいですか?」


 車椅子をテーブル近くまで押してくれたバウディが低い滑らかな声で私に確認してきたけれど、その真面目な口調に思わず吹き出しそうになるのを厚手の膝掛けの下で太ももをつねって堪えた。


「ええ、ありがとう」


 礼を言う声が、震えてしまう。だって、彼が真面目な口調なんて!

 吹き出さなかった私を褒めて!


「では、私は見えるところにおりますので、お呼びください」


 生真面目な口調で私にそう言ってから、アーリエラ様に一礼をしてガゼボを離れていった。

 うん、ちゃんと私から見える位置にいるわね。




 レイミの心許ない記憶が確かならば。こうして少人数で、ましてや二人きりのお茶というのは密談に違いなくて。

 だから、メイドもバウディも、なにも指示がなくても声の届かぬ位置まで離れたのだろう。



 密談――この子とはじめて会うんだけど、本当に密談なの?


 ちょっとだけ不安になるじゃない。



「レイミ様、ごめんなさい、急にお呼びして」


「いいえ、アーリエラ様にお会いできて、光栄ですわ」


 微笑んで彼女の謝罪を受け入れる。


 それにしても、彼女のバウディを見る目が気になるのよね。チラチラ彼を盗み見て、ちょっと頬を赤くする。


 そりゃ、バウディは格好いいから、見惚れちゃうのはわかるけどね。


 まさかとは思うけど、引き抜きとかしないわよね? 公爵家から言われたら、従うしかないんじゃないかしら? 怒りに似た哀しみが胸に湧くのを、なんとか表情に出さないようにする。


 バウディを連れてくるんじゃなかった。とはいえ、ウチって男手がないからなぁ。


 やっぱり、自分で移動できるようにならなきゃ。

 体力もついてきたし、松葉杖を入手しよう。



 香りのいいお茶をいただきながら、ぽつぽつと天気の話なんかをしている。そうよね、はじめて会うから共通の話題なんてないし、そもそもレイミは結構完璧な引きこもりだったから、天気以外の話題は無理。

 その天気だって、最近のものしかわからない。グレーのフィルターが掛かっていた頃の記憶なんて、ほぼ覚えてないし。なにして生きてたんだろうレイミってば。


 さて、そろそろ益体のない話は切り上げて、本題に入ってもらおうかな。

 目の前の彼女は会話をしながらも、ソワソワと落ち着きがなく。どう見ても、なにか別の用件を持っているのが見て取れる。


 このままスルーしたいなー。


 わざわざ自分から面倒に首を突っ込む必要もないわよねー。おいしいお茶とお菓子を食べて満足したし、帰って日課のストレッチしなきゃだし。



「ところで、レイミ様。あの、その」


 彼女が手をもじもじしはじめた!

 これは――とうとう、くるな。


「はい、なんでしょう?」


 カップを置いて微笑みを彼女に向ける。

 やっとかよ、とか、あースルーは無理かぁ、とか雑念は表情に出さない。とにかく、待ちの姿勢を取る。



 そして、満を持して放たれた言葉に、私はポカンとしてしまった。



「わたくしが転生者だと言ったら、驚きますか?」



 もじもじしながら、チラチラと私を見る彼女に、気を取り直す。


 と、取りあえず、バウディのスカウトじゃなくてよかったわ。


「てんせいしゃ、ですか? それは、どのようなものでしょう、ええと、ちょっと待ってくださいね」


 記憶を手繰り、転生者という言葉を思い出す。


「前の生の記憶を持って生きる者である、転生者でしょうか?」


 あれ? もしかして、私もソレなのでは?

 なんか、レイミとは別に麗美華の記憶バッチリあるし、っていうか、私の意識のほうがメインだけれども。


 なんかしっくりこないけど、転生者ってことでいいのかもしんないのかな? んー?



「そう! それです! 実はわたくし、この世界とは別の世界の記憶があるのです」




 キラキラと輝く表情で語ったのは、彼女の前世であるという『日本』のことだった。

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