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05:グレーのフィルター

 どのくらい眠っていたのか、気がつけばちゃんとベッドに横になって、上掛けを掛けられていた。

 きっとバウディよね、動かされても気付かないなんてちょっと恥ずかしい。




 ぼんやりと見上げる見慣れない天井、馴染みがある感じが不思議。



 私とレイミは二人で一人になってしまったのかしら? よくわからないけど。


 目の前に手のひらをかざしてみる。


 見慣れない、だけどよく知った細い手がある。栄養が足りないのか、体質的にそうなのかわからないけど、すこしかさついた細い手。

 指が長いから、ピアノとか向いてそう。


 冷たい指先をすり合わせれば、すこしだけ温かくなる。きっと、基礎体温も低いわね。



「圧倒的な、体力不足よね」


 だって、着替えてご飯食べただけなのに、疲れて寝ちゃうんだもん。



 これじゃぁマズイでしょうよ、まだ若いからいいけどさ、年齢を重ねる毎に体力なんて勝手に落ちていくのに!


 十代はなにをするにも“体力”を考慮することはなかった、二十代前半も無茶な徹夜をすれば疲れを感じることはあったけどどうにでもなった、だけど二十代後半に入るとそれが如実に自覚できるようになった――体力の、衰えを。



「いやぁぁぁぁ……っ! 本当にっ、いまのうちに、ある程度底上げしておかないと、十代のいまでコレでは、じり貧だわっ」


 がばっと起き上が――れなかったので、腕をついてよっこいしょっと起き上がる。本当に筋肉がない! 腕力も、腹筋もっ!


「なければ、付けるだけよ。知識もそうね、欲しい情報がなさすぎる! なにして生きてたのかしらこの子! まったくもうっ」


 筋トレすら無理そうだから、まずはストレッチからだわ。


 肩周りを伸ばし、首を回し、可動域の狭い上半身を解していく。あー、コッチコチだわ、面白いくらい固い。



 それにしてもさ。

 他人のことなんかどうでもいいんだけど、レイミは他人であって他人じゃないから、いくらでも怒るわよ私。

 まったくもうっ! 鬱々とばっかりして、泣いて暮らして、足が生えるのかってのよ!


 ないものはない! じゃぁどうすればいいのかを考えなさいよ。


 そこで思考を止めてどうすんのよ、ばーかっ!



 魔法があるなら、もしかして飛べる魔法もあるかも知れないわ、そうすれば足なんかなくても問題ないでしょ。


 車椅子があるなら、松葉杖だってあるかも知れないじゃない、いいえ、あるに違いないわ。

 そうすれば、移動も一人でできるようになるわ。車椅子であのイケメンと一緒に行動できるのもおいしいけど、ずっとそれじゃ息が詰まるもの。


 そしてゆくゆくは義足が欲しいわね。


 松葉杖を使うにしたって、やっぱり片足だけだとバランスが悪いもの。

 あと、見た目。私はどうでもいいんだけどねー、私を見る人が気にするでしょ? 面倒臭い。それなら見た目を誤魔化しておいたほうが、面倒がないってものよね。


 元の世界みたいに高性能なものは無理だと思うけどさ、生足出す服NGな世界っぽいから足っぽいのついてれば問題ないわ。


 ストレッチで体を温めながら、部屋を見回す。



 ウチのアパートの茶の間と同じくらいかな。

 八畳くらい? 壁に作り付けの本棚には、レイミの愛読書が一列だけ並んでいる。恋愛小説……オンリー。


 ちょっと待ってよ、教科書とかないの? 魔法の教本とか。


「んーっ、ううむ……」


 記憶を思い返すと……ああ、捨てたのね、どうせ自分には必要ないって、自暴自棄になって父の付けてくれていた家庭教師も辞めさせて。


 レイミには要らなくても私にはいるのよー!



 そういえば、義務教育の小中学校はないけれど、魔法教育の学校はあるのね。なんだか、よくわからない世界だわー。


 そして、魔法が使えるようになるのは魔法学校に入ってから。

 なんかの儀式をしたら魔法が使えるようになるのね、ふむふむ。体を捻るストレッチをしながら熟考したがよくわからん。

 なぜ、詳しいところが気にならないのかなレイミは。この世界で、それが当たり前だからなの? いやいや、それにしたってさ。



「取りあえず、情報をなんとかするのは置いておいて、体力をなんとかしましょう」


 上半身は温まったから、次は足よ。このマッチ棒のような足をどうにかしなきゃ。


 ベッドの上を這って、ベッドに並べておいてある机の近くまで移動する。取りあえず立ってみようと思うのよ。

 レイミの影響か、すっごく怖いけども! やればできるっ!



 足を床に下ろし、机にしっかり手をついて――



「とうっ!」



 かけ声と共に、ベッドから腰を浮かせた。


「た、立てるじゃない」


 とはいえ、机に縋ってなんとかって感じだけど。でも、立ち上がって見る景色は、とても明るい気がする。



 机の前にある窓の風景は、記憶にあるよりも明るくて、生き生きとしていて。

 小さな庭の木に小鳥が止まっているのを見たとき、勝手に涙が一筋頬を伝った。



 ああ、そうね、レイミ。


 あのときから、あんたの視界、グレーのフィルターが掛かったみたいに、世界の色がくすんでいたんだもんね。






 青い空が、緑の木々がとても眩しいわね、レイミ。

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