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中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。【書籍化】  作者: こる
本編

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55:次から次へと

 ミュール様が課題の提出を無視して泣き帰ったことを伝えるついでに、教室の異変にも触れておこうと、職員室に向かった。


 明日は迷惑をかけるわけだし、多少の孝行はしておこうと思うわけよ。




「シュレイン先生、ミュール様に課題のことを伝えたのですが、当の本人は帰宅してしまいました。もし、お待ちでしたらと思い、ご報告に――」


「またあいつか!」


 できるだけ淡々と報告していた私を、シュレイン先生の隣の席であるローディ先生が遮った。舌打ちしなかった私を褒めてほしい。


 因みに、シュレイン先生は静かに眼鏡のフレームを指先で上げて、位置を直していた。

 レンズに光が反射して視線は見えないが、なにやら怒りを感じる。


「おまえも、おまえだぞ。どうして本人に来させない? そんなことだから、いつも人任せでどうにかなると思い込むんだぞ」


 カッカしながら言い募る彼を、冷めた目で見つめた。


 知らんがな。


 シュレイン先生と私の白けた視線を受け、ローディ先生の気勢が目に見えて落ちる。


「ローディ先生、いつも言っているように、人の話はちゃんとお聞きください。レイミ君はちゃんと私の伝言を伝えました、だけどミュール君はそれを無視して帰宅した。私が待ちぼうけになるのを危惧して、わざわざ伝えに来てくれた、それを叱責するというのは、どう考えてもおかしいでしょう」


 そうだそうだ! お門違いも甚だしいぞー。


 シュレイン先生の言葉に、ローディ先生の肩が更に落ちて、なにかを振り払うように頭を振った。


「ああ、そうだな……悪かった。確かに、シュレイン先生の言うとおりだ――最近、どうも、頭が鈍くてな」


 本当に調子悪そうにする彼に、先程教室で知ったもうひとつの連絡事項を伝える。


「強化魔法を使うと、違和感が?」


「はい、マーガレット様に聞いて、私も確認したのですが、確かになにか空気がねっとりするというか、空気が気持ち悪かったです。先生ならなにかご存じかと思ったのですが」


 私の言葉に、二人は顔を見合わせる。


「すこし待っててくれ」


 慌ただしくローディ先生が教室を出ていった。


 待っててくれってことは、待ってなきゃいけないわよねぇ。



 それにしても、あの嫌な感覚って……もしかしたら、アーリエラ様の精神魔法なんじゃないかって考えちゃうのは、うがち過ぎかしら?


 でもねぇ、アーリエラ様に取り憑くのが碧霊族の旦那さんなら、ミュール様が学校に入学したことで、目覚めて取り憑いてもおかしくはないと思うのよね。それとも、取り憑くためにはなにか条件があるのかしら?



「……レイミ君、時間は大丈夫か?」


 気遣わしげにシュレイン先生に問われて、思考を止めて苦笑いを返す。


「家の者が迎えにきておりますが、多少でしたら」


 待つ覚悟はしたものの、さして待たずにローディ先生が戻ってきた。そして、あっさりと帰宅を許される。


 シュレイン先生を連れていったローディ先生に、なにかわかったのか聞いてみたかったものの、どのみち明日までの学校生活なので首を突っ込むのもなぁ……ということで、すんなりと引き下がって職員室をあとにした。




「おや、レイミ嬢」


「カレンド先輩……大荷物ですね」


 両手で大きな箱を抱えているカレンド生徒会長だが、重くはなさそうだ。

 身体強化も使えるし、苦ではないんだろうな。この世界って、地味に便利だわ。


「ああ、せめて夏期休暇の後半には領地に顔を出したいから。今のうちに、片付けられるものは片付けておこうと思ってね――」


 生徒会長自ら肉体労働するのは、上に立つ者として素晴らしいですね。

 と言う前に、彼がネタばらしをする。


「というのは建前で、いま、生徒会室にアーリエラ嬢がきていてな」


 少しげんなりとしたその口調に、彼がアーリエラ様を苦手にしているのがわかる。

 それにしても、なぜ彼女が生徒会室に……。


 まさか、生徒会の人たちに精神魔法を掛けに?

 でも穏便に卒業したいはずなんだから、そんな危険な橋を渡るようなことをするだろうか。


「アーリエラ様が、生徒会室にですか?」


 生徒会と彼女になにか接点……あるわー、そういや、第二王子殿下も生徒会役員だわ。

 滅多にお会いすることはないし、恐れ多くて会話なんかできないけれど、穏やかそうな雰囲気と笑顔が印象的なかただったわね。


 元々、第二王子殿下と結婚することを望んでいたし、彼との関係を向上させるために、接触を増やしてるのかしら?


 それなら、いいんだけれど……引っかかるのよね。

 他力本願な彼女が、自分から動くかしら?


 ああでも、私に接触してきたときは、自分から動いていたから、動かないというわけでもないのかな。


 ううううむ、人の心を計るのは難しいわぁ。



「まぁ、生徒会室は生徒の訪問を禁止するようなことはしていないから、な」


 悩ましげに吐き出した声は、低く、暗い。


 公爵令嬢だし、まだ内示段階だけど第二王子の婚約者だしってことで追い出すこともできないんだろうな。


 そして、生徒会長とは反りが合わないってことね。

 まぁ、合いそうにないけど。


 でも会長がこの様子なら、アーリエラ様が精神魔法を使っているってことはなさそうだよね……会長、精神抵抗強そうだから、他の人がどうかはわからないけど。


「そんなことよりも、レイミ嬢は長期休暇はどうするんだ? どこか、避暑にでも行くのかな?」


 気を取り直した彼に聞かれて、口元が引きつりそうになる。

 長期休暇の前に学校からエスケープする予定です、とは言えないわよね。


「そうですね。よい場所があれば、いってみたいのですけれど」


 当たり障りのない言葉に、彼は表情を明るくする。


「それなら、我が領はどうだ? 湖に船を浮かべるのも楽しいものだ」


「アルデハン湖ですか?」


 ロークス辺境伯領を思い出して問えば、嬉しそうに頷かれる。


「よくご存じだ。あの湖は是非一度見てほしいな、……とはいえ、我が領は夏場目立って涼しいということもないから、どうしても避暑には海側の地方が活気づくのだよな。海にはなかなか追いつけぬ」


 この世界でも、観光は重要な産業のひとつだものね。

 やっぱ夏は海に行きたくなっちゃうもんなぁ。


「あの大きさの湖でしたら、遊覧船を運行したり、もう一つ近くに観光できそうな滝でもあれば、そこと湖とを定期便で繋いだり、なにか食べ物で名物を作ってそれで観光地を盛り上げたり、できればいいんですけれどね」


 考え考え言った私に、彼は愉快そうな視線を向けてきた。


「遊覧船というのは面白いが、生憎と湖には魚型の魔獣が出るので、危険かな。ああ、浅瀬までは問題ないから、ボート遊びはできるぞ」


「魚型の魔獣なんているのですね! 大きいんですか? 形はどんなもので、どのくらい生息していて、味は――」


「味?」


 聞き返されて、はたと止まる。


 もしかして、魔獣って食べないの? 皮だの牙だの角だのは素材として使っておいて、身は食べれないとかなの?


 口の端を震わせた彼が、たまりかねたように吹き出した。


「味をきいてきた女性に、はじめて出会ったよ。味は淡泊だから、濃い味付けの料理によく使われている。君よりも大きくて、肉食なので捕獲することはなかなか難しいかな」


 世界最大の淡水魚ピラルクを思い出した。ピラルクサイズのピラニアのイメージでいいかしら? 見てみたいわねぇ。


「カレンド会長」


 手を振りながら階段を降りてくる生徒会会計のベルイド様に呼び止められ、カレンド先輩が溜め息をつく。


「レイミ嬢、ご歓談のところ申し訳ありません」


 折り目正しく謝罪され、私も礼を返す。


 彼の平時のとおり理知的な雰囲気と態度は変わりなく、やっぱりアーリエラ様が精神魔法を使っているという可能性は低そうだ。


「いえ、こちらこそ、会長をお引き留めして申し訳ありません。カレンド先輩、お忙しいところお付き合いいただき、ありがとうございました」


 お二人に挨拶をして、校舎をあとにする。


 またバウディを待たせちゃったわね、急がなきゃ。

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