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中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。【書籍化】  作者: こる
本編

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52/84

50:ローディ先生は魔法実技の担当です

 授業が始まる前の三十分は魔力循環を必ずおこなうことになっている。

 これは学年が上がっても変わらず、魔法学校を卒業しても日課として行うことに申し渡されるらしい。


 ふむ、両親も毎日魔力循環をしているってことだ。

 母はともかく、父もやっていたとは知らなかった。




 魔力実技の先生は、担任であるローディ先生なのだが。


 入学当初はあんなことがあって警戒してしまったものの、自然体で魔力を目視できる実力があることを知り、教師としての彼を侮るのはやめた。


 目に魔力を集めて他人の魔力を見ようとすると、普通は表情がこわばっちゃうんだよね。

 私も、ついいつもより目が細くなってしまう。スーンてしてる顔だ。


 だから、表情に出さずに魔力を見れる人は、かなりの実力者だってことを母が教えてくれた。





 ゆっくりと呼吸し、いつも通り魔力を循環させる。


 既に強化魔法ができると申告してあるので、手を抜くことを考えなくていいのはありがたい。


「よし、次は魔力を肩から右腕に、腕から指先まで流すように」


 先生の号令で、生徒たちは苦心しながら魔力を動かしてゆく。


 目に魔力を集中しておけば、まだまだ魔力が漏れまくってる彼らの魔力の動きが見えて面白い。

 懐かしいよね、母にビシバシ指導されたのを思い出すわぁ。母にもこんな風に見えてたんだろうな。


 私以外にも何名か、既に魔力循環をできる人が居るので、そちらは、なるべく早く魔力を巡らせる訓練を申し渡されている。


 そして、先生に肩を叩かれたら、その場所で魔力を止めるのだ。魔力を操るための訓練のひとつだ。


 先生は机の間をゆっくりと歩きながら、生徒の魔力の様子を見てアドバイスしている。


 一番前にいる、マーガレット様が肩を叩かれた。


 彼女も魔力循環がバッチリな方のメンバーだ、魔力の漏れもなくて綺麗に循環させて、ピタッと止めている。

 そして、その隣のミュール様もできてる方のメンバーだったりする、ただ、彼女はまだ魔力の漏れが結構あるのよね。ほら、肩を叩かれてから止めるまでのラグも大きいし。


 一番うしろの席なので、クラスが見渡せて面白い。


 ただ……前期の半分を過ぎているのに、まだできてない人がいるってどうなんだろう? 薄々このクラスが、わりと落ちこぼれ系が集まってるってのは気づいてるんだけどさ。


 そもそも、ある程度力のある貴族だと、入学前に魔力循環は覚えてきているらしい。人によっては、多少の魔法まで使えるとかなんとか……ある程度威力のある魔法は申告してからじゃないと使えないので、一瞬しか魔力を使わない火花の魔法程度らしいけど。


 アーリエラ様に至っては虫ケラを殺す魔法なので、マジでよろしくなかったわけなのだが。


 魔法の威力は、込める魔力の量と質に比例するので、初歩的な魔力循環しかできていないらしい彼女では、羽虫を殺すのが関の山だったということになる。


 あれからバウディが調べてくれたところによると、あの魔法は宮廷勤めの魔術師でも高位でないと、人を殺生できる程の威力にはならないらしい。

 考えたくはないが、本当に害虫駆除の為に頻用してるのかもしれないな、と嘆息していた。


 そんなことあるんだろうかねぇ、でもまぁ、そういうことにしておこう。




 トンッ


 肩を叩かれ、驚きと共にピタッと魔力を止める。丁度右足のつま先に魔力がきていた。


 うわっ……ヤバッ! いつもは、義足にまで魔力を通さないようにしてたのに! ぼんやり考えごとしていて、つい!


 恐る恐る先生を見上げると、愉快そうに口の端が上がった。

 ああ、これ、バレてるわ。


 がっくり肩を落とした私に、彼は自分の目元をトントンと叩いた。


 目? め、め、目もだぁぁぁ! 私、スーンって顔してたっ!


 みんなの魔力を観察するのに、体を循環させる魔力とは別に、目に魔力をためていたのもバレてーら。


「昼休み、職員室な」


「承知しました……」


 あー、うー、なにごとかとみんなの視線が集まる。ううっ、ミュール様の視線がかなり痛いんだけど、もしかして、ローディ先生狙いですか、代わりに職員室に出頭してもいいですよ。




 昼休み、連日通っていた生徒会準備室に顔を出して、勉強をしていたカレンド先輩に今日は職員室に呼び出されたので、勉強にこれないかも知れないことを伝える。


「そうか、それは残念だ。早く終わったらおいで、昨日の続きを教えよう」


「ありがとうございます」


 折角のお勉強タイムなのにー。


 カレンド先輩は生徒会長だけあって、なんでも答えてくれる、まるで検索アプリのような素晴らしいお方なので、勉強を見てもらえる昼休みは貴重な時間だったのにー。


 うしろ髪を引かれながら職員室のローディ先生の元へ向かう。


 そういや、ローディ先生とカレンド先輩って兄弟なんだよね。

 かたやヒロインを助ける主要キャラ、かたやヒロインを妨害する悪役っぽいキャラ。


 明暗が分かれてるのは、性格の差なのかな。



 職員室に入る前に深呼吸して、ローディ先生の席に向かう。


「おや、レイミ君じゃないか。ローディ先生なら、すぐに戻るはずだ。かけて待っているといい」


 ローディ先生の隣の席のシュレイン先生が、わざわざ椅子を用意してくれた。


「ありがとうございます。あ、そうだ、先生に聞きたいことがあったんですが、いまよろしいですか?」


 椅子に座り小さく手を挙げた私に、彼は愉快そうに笑って許可してくれた。


「魔力の循環で魔力を操作しますけれど、魔力自体は体を満たしていますよね? この魔力を完全に操ることってできないのでしょうか、こう、一部分だけ魔力を無くするとか」


 ミュール様対策で! 魔力がまったく無ければ、なんの干渉もできないと思うのよ。


「いいところに目をつけたね。答えは、できなくはない、というところかな。ただ、それができてしまうと、魔力を限界まで……いや魔力が無くなるまで使い切ることができてしまう。魔力が枯渇すると、どうなるか知っているかな?」


「最悪、死にます」


 私が答えると、彼は少しだけ真面目な顔になる。


「そうです。だから、魔法学校では、魔力を完全に操る程の精密な訓練はしません」


 噛んで含めるように言った言葉に頷く。

 なるほど、完全に操るための訓練方法があるということか。

 学校ではやらない、ってことは……教科書にもないってことよね。

 バウディなら知ってるかしら?


「シュレイン先生、レイミ君にあまり迂闊なことを言ってくれるなよ」


 頭上から声がかかり、ローディ先生が戻っていたことを知った。


 自分の席につくと、腕を組んで少し考えてから職員室の並びにある生徒指導室に移動することになった。


「シュレイン先生悪いが、同席を頼めるか」


「ああ、かまわんよ」


 少しも考えることなく了承したシュレイン先生も含めて、個室に移動した。


 貴族だし、男女七歳にして席を同じゅうせず、って感じだから、教師と生徒でも個室にマンツーマンはない。


 それにしても、ローディ先生も随分と考えてくれるようになったなぁ。


 他の先生もいるあそこで、義足への魔力循環について言及されるかと、ハラハラしてたのに。


 ローディ先生は部屋の真ん中に置かれた、盗聴防止の魔道具を起動させる。

 この魔道具は、校内の数カ所に設置されているらしい。校長室や生徒会室、生徒指導室もそうだ。

 実際に使っているところをはじめて見たけれど、一応起動していることを示すランプはついているけれど、音もなくて直方体のただの置物みたいだ。


 机を挟んで前にローディ先生、シュレイン先生は壁際に座っている。


「あそこは声が届かないから安心していい。それでだな、君は、物体への魔力循環も、既に習得している、という認識で間違いないな」


 前置きなし、端的に聞かれて答えに臆してしまう。


 バラしていいのかなぁ……、でもなぁ、物体強化までできちゃうのって、宮廷勤めの魔術師にスカウトされちゃうって聞いたんだよなぁ。

 そんでもって、魔法が上手だと強引に宮廷に引き抜かれるらしい。


 国防は勿論だけど、医療(外科的なものに限る)や土木工事の関係でも魔術師は大活躍だから、人材はいくらいてもいいとのことだ。


 なので、魔力の扱いのうまい貴族は、よっぽどの問題がない限りは、国に紐付けられちゃうのよねぇ。


「答える前に、質問なのですが。国に求められる程の魔法の能力って、どのくらいあればいいのですか?」


「そうだなぁ、騎士なら剣と盾への強化魔法を同時にできるくらい。他は放出できる魔力の量と、魔力の操作技術によるな。因みに、さっき君がシュレイン先生に聞いていた、アレができるようになると、宮廷魔術師になる以外の選択肢はなくなる」


 ニッコリといい笑顔で教えてくれたけれど、そっかー、そのくらいヤバい技術なのかー。


 そして、義足への魔力循環について、隠し通すことはできないだろうなぁと、腹をくくる。

 バウディに怒られなきゃいいけどなぁ。


「そうなんですね、ありがとうございます。それで、先程の先生の質問なんですが、確かに義足への魔力循環はできますが、これは、足を失ってからも足の感覚が残っていたからだと思います」


「足の感覚が?」


「はい、まだつま先があり、足首を動かしているという感覚があったので。多分そのせいで、魔力も義足を自分の足と認識してるのかと」


 私の説明を聞いたローディ先生は、腕を組んで考えるように目を閉じた。

 そして、程なく目を開き、納得したように頷いた。


「人体とは、不思議なものだな。わかった、とりあえず、魔力循環だけだし、これが義足を強化できるのなら、報告しなくてはならないが、今回は保留としておこう」


「報告、ですか?」


「ああ、それこそ、宮廷に提出することになる。成績優秀者を伝える、といった感じだな。A組は全員名前が上がっているし、B組の優秀どころも伝えてある。A組は、入学時点で魔力循環を習得していて、もう身体強化も半数はできているから、授業の進度も違うしな」


 さすがA組、レベルが違う。

 将来国を支える人材の集まりってことなのね。

 遠い世界ダナー。


 でも、これで憂いはなくなった。

 義足を強化したりしなきゃ大丈夫ってことで!


「とりあえず、物体を強化できるようになったら教えてくれ」


 絶対に言わないけどねっ!


「承知いたしました。では、失礼いたします」



 愛想よく礼をして、生徒指導室を後にした。

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