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04:記憶の引き出しを開けるには鍵がいる

 部屋に戻り、車椅子からベッドに移動させようとする彼を止める。



「バウディ、ちょっとだけ自分で動かしてみたいの。確か、自分でも動かせるのよね? この車椅子」


 私の言葉に、彼は一瞬固まってからすぐに笑顔で頷いてくれた。え、なにかヤバイのかしら、私がこれを動かしたら。


「もちろん動かせるさ。ただ、お嬢、筋肉無ぇからなぁ」


 あ、そういうことね。

 確かに、ウラヤマシイ細さを通り越して、ガリガリだものね。


「とにかくやってみたいの。どうやるのか、わかる?」


「はいはい。まずは、このストッパーをこう外側にずらすんだ、できるか?」


 やって見せてくれるのを真似して……。


「ぐ……ぬ、ぬ、ぬっ。かたいっ」


「そうか? ちょっといいか――やっぱ、別に固くはねぇな」


 私の手を避けて、もう一度やって見せた彼に、私ももう一度、両手を使って全力でストッパーを外す。


「とうっ! できたわ!」


 指が折れるかと思ったけれど、なんとかできたわ。もう少し緩くならないのかな、安全上これ以上緩くできないのかもなぁ。


「おお、できたな。そうしたら、車輪の横にあるここを手で回すだけだ」


「あーなるほど、やっぱり構造はあまり変わらないのね。これを、こうねっ! ふ……んんんっ! ――動かないわ」


「純粋に、力が足りねぇんだよな、お嬢は」


 ですよねぇー。

 ウンともスンともいわないもの。


「身体強化の魔法でもできりゃぁいいんだが」


 そう言って、頭を掻いた彼にハッとする。


「魔法っ? え? ええええと」


 魔法、魔法――ある、記憶にあるわ-! すごーい、魔法って、あのポッターさんちのハリー君が使っちゃうやつよね?

 ヤバイ、ヤバイ、テンションあがっちゃう!


 あれ、でも?

「しんたい強化ってなに?」


 レイミの記憶でもイマイチわからない。


「よく騎士とか兵士とかが使う魔法だ。純粋な魔法とはちょっと違うけどな、魔力で体を強くしたりする魔法だな。全身だけじゃなく、部分だけに使って、足を早くしたりもできるんだ」


「足を、早く……。私の場合は、腕力をあげるってことかしら?」


「腕力と握力と、まぁ上半身全体じゃないか。範囲が広いほうが魔力を食うから、なるべく魔力を集中させたほうが、効率がいいんだけどな」


「魔力には、量があるの? いくらでも使えるわけではないのね?」


「そりゃぁな。人によって、かなり違う。平民は少ないし、貴族は多いが、貴族でもかなり差があるからな」


「それって、自分でわかるの? 多いとか少ないとか」


「使っていれば、上限はわかるようになるもんだが。ああでも、お嬢みたいな、貴族の娘は、そもそも使う機会がねぇから、わからねぇかもな」


 お嬢様って基本的に上げ膳据え膳で、自分ではあんまり活動しないっぽいもんねぇ。


「でも、私にも魔法が使えるのよね? 使えるのなら、その身体強化で、この車椅子も動かせるようになるでしょ?」


 超名案! なんなら、魔法で空も飛べないかしら、とも思ったけど。レイミの記憶には、そんな魔法はなかった。いや、でもレイミの記憶ってザルだし、知らないだけであるかも知れないわ。


「その魔法を覚えるために、王立魔法学校に行くんだろ?」


「魔法学校! もしかして、ホグワーツ魔法学校?」


「どこだそこ? そうじゃなく、王立魔法学校だろう、貴族の子供は必ず入学しなければならない学校だ」


 必ず、というところに力を入れていたから、私も行くのは間違いないのよね!


「ということは、義務教育なのね。そこにいけば、魔法を教えてもらえるのかしら?」


「ああ、そうだな。さて、もう自分で動かすのは諦めたのか?」


「諦めたわ! びくともしないのですもの」


 最後にもう一度だけ渾身の力を出して頑張ってみたけれど、やっぱりちっとも動かないので、今日は諦めることにした。ちょっと……というか、かなり疲れちゃったし。

 レイミは本当に体力がないわね。


「頑張っただけ御の字だ。じゃぁ、ベッドに移動するぞ」

「はーい。お願いします」


 私を持ち上げにきた彼の首に両手を回して掴まり、そのまま持ち上げられてベッドに下ろされ、スマートに靴を脱がされた。やだ、イケメンッ。


 それにしても、やっぱり体をガッチガチに硬直させてるより、こっちのほうがスムーズに移動できるわね。まぁ、体を固くしちゃうレイミの気持ちもわかるけどさ。

 好きな人にお姫様抱っこされたら、緊張しないほうが無理ってものよね。


「ありがとう、バウディ。移動したくなったら、また呼んでもいい?」


「もちろんだ、いくらでも呼んでくれ」


 快く引き受けてから車椅子を押して出ていく彼を見送る。別に置いといてもいいのに、部屋がまあまあ手狭にはなるけれど。


 さてと、魔法の記憶、魔法の記憶。

 しっかり思い出すには集中して記憶の引き出しを開けないと、詳しいことが出てこないのよね。


「ふぬぬぬぬ~っ……駄目だわ、出てこないわね」


 額に人差し指を当てて、記憶を掘り返してみたけれど、魔法の使い方なんて出てこなかった。


 でも、調理器具に魔法が関係あるのや、灯りも魔法を使った道具で点くらしいし、王都では暖炉には薪を入れずに魔法でどうにかするっていうのも知ってはいた。火事対策で、なるべく火を使わない方法を都市では取り入れているだとか、父親との会話で知った知識らしい。

 仲良し親子っぽかったもんね。


 座っていた姿勢からそのまま後ろに倒れ、ベッドに大の字になって天井を見上げていたら車椅子を頑張った疲れなのか、気付けば眠っていた。




 本当に、レイミってば体力がないわぁ……。

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