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中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。【書籍化】  作者: こる.
本編

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46:生徒会準備室のお宝

 カレンド先輩にほぼ強制的に、図書室の隣にある生徒会準備室に連れてこられてしまった。


 生徒会の頭脳である人物の教科書とノートを餌にするのは、ずるいと思う。





 綺麗とは言いがたい……作り付けられたシンプルな棚に、箱に入った資料が押し込められている雑然とした部屋だ。床にも、箱がいくつも積まれている。


 部屋の真ん中にソファとテーブルがあるが、結構年季物だ。そのソファを勧められ、彼は奥から椅子を持ってきて座り、棚の隅の方で脇に紐でくくられていた束を取り上げて、ドサッとテーブルに置いた。


「約束の品だ、必要なのを持っていってくれ」


「ありがたく頂戴いたします」


 そそくさと受け取り、引き寄せて紐をほどく。


 カレンド先輩が去年使った教科書とノートの中から、私が必要としている教科の分を抜き取らせてもらう。


 ううむ……私の選択している教科と、あんまり被ってないわね。基礎教科全部はいただいて、選択教科は二つしか同じのがなかったわ。

 外国語を三つも取ってるのは凄いけど、ここら辺の国は大体大陸の共通語で間に合うから、必要ないんじゃない、って思っちゃう。


「あまり被ってるのがないみたいだね。他には何を選択してるんだい?」


 問われて、自分の選択している教科を教えると、うらやましそうにされた。


「実に実用的でいいね、魔道具作成なんて、女子で取る子をはじめて見たよ」


 そういえば、魔道具作成の授業に女子は私だけだったし、他の人にも驚かれた。


 そもそもあまり人気がないのか、私以外に四名の男子だけで、その中に高い爵位の人はいないから、貴族の嗜むことではないんだろうな。


「あれは本当に面白いですよ。はじめて卓上ランプの回路をひいて、電気をつけた時には、とても感動いたしましたわ」


 魔道具作成の先生はドワーフ族の人で、ボンドの知り合いだったからちょっと贔屓にしてもらっているのか、教科書にないことも色々教えてくれるから余計に楽しい。


「へぇ、楽しそうだね。私も君のように、自分の好きなように選べばよかった」


 少しだけ寂しそうに言った彼に、ちょっとむっとする。


「カレンド先輩は、お家の事情で選んだのでしょう? 私だって、選択の基準は自分の趣味ではなくて、将来のことを念頭においておりますわよ」


 ただ、自分の趣味と実益が合致している部分があるだけで。

 胸を張って答えた私に彼は目を瞬かせて、それからへにゃりと笑みを崩した。


「なんだ、君もそうなのか」


 クールなイケメンの気の緩んだ顔というのは、レアでいいわね。ちょっとほっこりしてしまう。


「案外みんなそんなものなのではありませんか? 完璧に、自分のやりたいことだけをやれる人間なんて、赤ちゃんくらいでしょう」


 赤ちゃんは赤ちゃんで、自分の体が思い通りに動かないから、やりたいことをやれてるとは言いがたいけれど。

 それでも言いたいことはわかったのか、彼は声を出して笑ってくれた。


「ははっ、それもそうだな。自分ばかりが、などと卑屈になるのは、自惚れか」


「自分を大切にすることはいいと思いますけれど、自分を哀れむのは時間が勿体ないと思いますわ、哀れんでいる暇があるなら、できることをしたいじゃありませんか」


 レイミはもう十分に自分を哀れんだから、次は前に進むのよ。

 レイミとカレンドに向けて言った言葉に、彼は素直に頷いてくれた。


「君に言われると、説得力が違うな」


「そうでしょうとも。ということで、こちらの教科書とノートをいただきますね、ありがとうございます」


 ニッコリと笑いながら取り分けた教科書とノートを、鞄から取り出したマイバッグにそそくさと入れる。


 来年度の教材ゲットー! 前期で辞めちゃう私には超貴重。


 辞めるのに勉強が必要かって思うよね? 必要なのよ! 魔法の理論を学び、魔法の構造と発動方法、発動に掛かる必要魔力などなど、まだまだ覚えておきたいことが目白押し。


 教科書類って教材だからわかりやすくて、でも市販はされていないから、もらえると本当にありがたい!


「それにしても、こんなに急いで学ぶなんて――まるで、卒業まで居られないみたいだね」


 ポロリとこぼされた言葉に、ぎくりと内心で固まる。


 鞄に教科書を詰めていた顔を上げて、ニッコリと笑みを彼に向ける。


「いやですわ。卒業しなければ、貴族と認められないではないですか。貴族籍を剥奪されるのは、困りますもの」


「そうかい? 君なら、市井におりてもやっていけそうだけどね」


 ニッコリとした笑顔を返され、冷や汗が伝う。

 つい先程、私の選択教科を教えたばかりだから、どうしたって、怪しまれるよね。


「あら、か弱いレディに、無体なことをおっしゃいますのね? この細腕では、鞄を持つのが精一杯ですし、義足という弱みもありますのよ?」


 鞄の中はいつも教科書が目一杯入っているので、結構な重量ではあるけれどね。

 だから、さっきいただいた教科書類は、母に作ってもらったマイバッグに詰めたのだけど。

 無言で彼の手が伸びて、鞄を持ち上げられた。


「あっ! ちょっとっ!」


 ダンベルのように鞄を上下させる彼に慌てる。


 そして彼は大きな声で笑いだした。


「あっはっはっは、いや、なかなか素晴らしい細う……ぷっ、細腕だ」


「もうっ! 勝手に人の鞄で遊ばないでください」


 彼から鞄を取り上げ、膝の上に抱える。うん、確かにいい重さだ。


「いや、失敬。君はあれだな、思ったよりも随分と面白い人だ」


「楽しんでいただけて、光栄ですわっ。迎えの者が来る時間ですので、もう失礼いたしますわ」


 そう言って立ち上がると、彼も立ち上がる。


「君にいいものを貸してあげよう、手を出してくれ」


「なんですか?」


 不審に思いながらも手を出すと、手のひら上に一本のカギが落とされた。


「この部屋のカギだ、君なら悪用はしまい」


「これをお借りする理由はないと思うのですが……」


 疑問符を顔に貼り付けて首を傾げると、彼は先程教科書とノートを取り上げた一角を指し示した。


「あそこに、歴代の生徒会役員が置いていった教科書とノートがある。この部屋からの持ち出しはできないが、ここで読むことは可能だ。古いかも知れないが、君の選択している教科も、探せばあるだろう」


「カギ、ありがたくお借りいたしますっ!」


 私の変わり身の早さに、またも声を上げて笑う彼に礼と別れの挨拶をして、準備室を出た。



 明日から、余分にノートを持ってこなきゃね!

お読みいただきありがとうございます。


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