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中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。【書籍化】  作者: こる
本編

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43/84

42:誰に対してもソレなのね

 帰り際、選択教科の件でローディ先生に呼ばれた。


 重複できない教科の取り方をしてしまったらしい、一緒に教科を選び直すぞと言われている。

 ううむ、残念だが仕方あるまいな。




 すぐ帰れるように荷物を持って、職員室に顔を出した。


「それにしても、びっちり取ったな。予習をしっかりやらないと、ついていけなくなるぞ」


 提出用紙に書き出された教科に、彼は頬を掻きながら助言をくれる。


「予習をすれば問題ないのですね。でしたら、この内容で頑張りたいと思います」


 前期までしか通わないつもりなので、とにかく取れるものを取っておきたいのよね。

 だから、ちょっとハードな取り方をした自覚はある。


 この学校は午前中が基礎的な必須教科で、午後からそれぞれ選択した教科を学ぶ。

 だから、貴族のご令嬢なんかは午前中の基礎教科だけを受けて、午後の教科はまるっきり取らない人もいるのだ。今、先生に聞いて知ったことだけどね。


 そういう取り方をするのはB組のご令嬢に多いらしく、例えば、アーリエラ様なんかが筆頭じゃないかな、公爵令嬢だし。


 彼らは本当に勉強したいことがあれば、自宅に教師を招いて、マンツーマンで学ぶことができるので、必要ないらしい。財力素晴らしいね。



「そういえば、レイミ君はミュール君と……なにか、交流はあるのか?」


 いま気づいたけれど、ちゃんと君付けで呼んでくれてる。

 シュレイン先生の指導のたまものだねきっと。

 それだけで、なんだかワンランクアップしたように見える。


「いえ、この学校に入るまでは、お会いしたこともございませんし。今後も交流するつもりはありませんけれど」


 つるっと本音が出てしまったが、彼は「だろうなぁ」と嘆息しただけだった。


「一応反省はさせたが、あいつはどうも理解してるんだか、してないんだか。訳のわからんことを言って、煙に巻こうとするし」


 多分、本人に煙に巻こうとする意図はないだろうけれど、結果的にそうなってるんだろうな。


「とはいえ、同じ組の仲間だ」


「そうですね……彼女は学級委員長ですし」


 私の言葉に、彼が重いため息を吐き出した。気持ちはわかる。


「級長になれば、生徒会との接点も多いし、我が校の生徒としての自覚も出てくるだろう」


 我が校というか、貴族としての自覚を生徒会に促して貰おうって考えてますね。賛成です。


 あ、でも、生徒会長ってあのカレンド・ロークス先輩なのよね。貧乏くじ引きそうな雰囲気だから、ちょっと心配だな。


「とりあえず、選択教科についてはこれで提出を受け付けておく。もし、負担が大きく無理そうなら、いくらでも相談に乗るからな」


 右足のことを気にしてくれているのだろうな。

 初対面の時よりも、悪い先生ではないような気がしてる。シュレイン先生の以下略。


「ありがとうございます。そうならないように、頑張りますね」


 礼を言って職員室を出た。




 今日も上級生は授業中で、我々一年だけ下校なので、がらんとした玄関ホール……うぇい、居た。


 玄関を出たところに、アーリエラ様と取り巻きである伯爵令嬢のシエラーネ様と侯爵令嬢のリンナ様が居た。人待ちの様子だけど、まさか、私じゃないわよね。



 出て行こうかどうか迷っていると、私と逆の方向から走り寄る影が……。


「アーリエラさんっ! こんにちはっ!」


 驚くアーリエラ様の前で急停止したのは、金桃色の髪をした我らがヒロインちゃんだった。


 構内を走るな、そして公爵令嬢に向かってさん付けって、あり得ないことのオンパレードに思わず膝から力が抜けてしまう。

 杖があってよかった。


「あなた、どなた?」


「目下の者が目上の者に、許可無く話しかけるなんて、なんて無作法なんでしょうっ」


 アーリエラ様を守るように、シエラーネ様とリンナ様が前に出る。偉いぞ、お取り巻き!


 気の弱そうなリンナ様はちょっと泣きそうだけど、気が強くきっちり言うべきことを言うシエラーネ様に励まされて、ちゃんと壁になっている。頑張れー。


「取り巻きさんたちも、はじめましてっ! ミュール・ハーティですっ。他人行儀なのはやめましょうよぅ。――だって、わたし次第で、どう進むのか変わっちゃうのよ? 仲良くしたほうが、いいと思うなぁ」


 きゅるんと効果音がつきそうな笑顔で小首を傾げたけれど、言ってる内容はえげつない。

 取り巻きに、取り巻き言うな……かわいそうだろ。


「なにをおっしゃってるの?」


「そ、そうですわ。あなたE組の人でしょう。アーリエラ様に勝手に声を掛けるなんて、不敬ですよっ」


 シエラーネ様とリンナ様は、アーリエラ様からゲームの話を聞いていないんだね。

 てっきり、彼女たちにも教えてるんだとばかり思ってた。だって、彼女たちも、アーリエラ様の巻き添えで処罰される対象の人たちだし。

 リンナ様に至っては、アーリエラ様に見捨てられる役回りのはず。


 その二人のうしろで、アーリエラ様が真っ青な顔をしている。

 そうだよね、ミュール様の言葉は、アーリエラ様を脅してるもんね。


 薄々気づいてたけど、やっぱりヒロインと悪役は相容れないのね。

 いや、ミュール様の性格がよろしくないだけかもしれないけど。


「あんたたちはどうでもいいのよ。ね、アーリエラさんは、わかってるもんねー?」


 アーリエラ様の顔色を見て確信したのだろうな、にっこり笑って小首を傾げるのが実に小憎らしい。


 いまにも倒れそうなアーリエラ様に、追い打ちを掛けるのもまた意地が悪いわね。


 ため息……いや深呼吸して呼吸を整え、強化魔法の具合を確かめてから歩きだす。


 杖の音で気づいた四人がこちらを見た。


 努めてゆっくりと彼女たちに近づいていき、アーリエラ様の前で静かに貴族としての礼をとる。


「レイミ様ごきげんよう」


 アーリエラ様が声を掛けてくれるのを待ってから、挨拶を返す。


「アーリエラ様ごきげんよう。シエラーネ様とリンナ様も、このようなところで、どうかなさったのですか?」


 わざとらしくミュール様は無視する。


「レイミ様を待っておりましたの、ね、アーリエラ様」


 ホッとした顔のリンナ様がアーリエラ様に微笑みを向けると、アーリエラ様も微笑んだ。


「アーリエラ様が、レイミ様も、ご自宅の馬車で一緒に帰らないかと、お誘いにきたのよ。その、歩くのがお辛いだろうとお聞きしたので」


 シエラーネ様の言葉に顔色が回復しつつあるアーリエラ様は頷く。


「ええ、シエラーネ様の言うとおりなの。レイミ様、是非我が家の馬車に乗っていらして」


「まぁ、ありがとうございます。ですが、供の者が迎えに来ておりますから、足の運動も兼ねて、ゆっくり歩いていこうと思います。お声かけくださって、本当にありがとうございます。王子殿下の許嫁であられるアーリエラ様のお優しさ、私、本当に嬉しいです」


 よいしょ! よいしょっ!


「そうですか。無理強いはいたしませんわ、でも、どうかご無理はなさらないでくださいね」


「あっ! じゃぁ、わたし乗りたいです! レイミさんが乗らないなら、空いてますよねっ! 公爵家の馬車って二頭立てなんですよねっ、凄いなぁ! うち貧乏だから、馬車なんてないんですよー」


 ミュール様の厚かましさに顔を見合わせた三人は、彼女を無視することにしたらしく、そそくさと公爵家の馬車が待つ場所へと歩きだした。


 構内を走り回るミュール様を、貴族の令嬢の早足が勝てるはずもなく。ああ……粘着されてる……。



 それにしても、あの押しは凄いな。

 前世の記憶にヒロインとしてのなにかが加わって、ああなったのかしらね。


 今日もなんだか疲れちゃったし、私も早く帰ろう。

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中ボス令嬢
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中ボス令嬢2
― 新着の感想 ―
[良い点] ヒロインがひどすぎて、アーリエラ様も、呑気なこと言ってられなさそうですね。 [一言] 毎日更新楽しみにしてます。 執筆頑張って下さい。
[良い点] ミュールさんが怖すぎです。 どうなるのかわからなくてドキドキします。 いつも楽しみに拝読しています。
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