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40:KYヒロイン

 魔法学校二日目は、オリエンテーションからはじまった。


 私はほら、杖をついているのでうしろのほうに座らせてもらったんだけど、その私の横にはヒロインちゃんことミュール・ハーティさんがゼェハァ言いながら座っている。



 ついさっき、遅刻ギリギリ滑り込みセーフ、って言いながらこの講堂に駆け込んできたからね。


 私でもわかる、これは貴族の令嬢のすることじゃないわ。


 みんな、彼女を見ないようにしてるし、私も視界に入れないようにひたすら正面を向いている。触らぬ神に祟りなしだよね。


 昨日も思ったけれど、彼女ってちょっと注意力が足りないんじゃないかな。

 いろんな人にぶつかってたし、今日は遅刻ギリギリ……令嬢としては、アウトな時間に登校してくるし。


「ねぇ、ねぇ、リレアさん、リレアさんってば」


 こうやって、こそこそ話しかけてくるし……っ!

 壇上では、先生が我が校の校則と違反した場合の罰について説明をしてるから、静かにしてほしい! こっちは、魔法の無断使用以外での退学方法を知りたいのよっ! 選択肢は多いほうがいいからねっ。


 ということで、彼女をガン無視する。


 周りの生徒の迷惑そうな視線に気づかないんだろうか。


「ねぇってば、どうして無視するの? せっかく隣同士になったんだから、お友達になりましょうよ」


 絶対、ならない。黙れ馬鹿。

 いい加減、口を閉じて前を向いてよね。


 先生の話が終わり、次に壇上に現れたのは深緑の髪の、昨日階段で助けてくれた人だった。


「生徒会長のカレンド・ロークスです。皆様、入学おめでとうございます」


 ものすごく聞き覚えのあるお名前だった。

 カレンド・ロークス、辺境伯家の三男で生徒会長でローディ先生の弟。

 アーリエラ様の薄いノートに出てきた、ヒロインちゃんの障害となる人物だ。


 そっかー、あの人がそうなのかー。


 私やアーリエラ様もそうだけど、主要人物ってみんな顔がいいのね。まぁそうだよね、その方がゲームとして売れるだろうし。


 それで彼なんだけど、立ち位置的に、中ボスである私側の人間かと思いきや、そうじゃないのよね。

 彼はアーリエラ様の精神魔法は掛かっていなくて、純粋に校則や風紀の面からヒロインちゃんを指導してるだけ。真面目だねー、って感じ。


 そうよ、精神魔法に掛からない人もいるのよね。

 精神に作用するってくらいだから、気が弱かったり、心が弱ってる人間に強く作用するのかも知れないわね。

 とすると、レイミならイチコロだわ、うん。



 いまは生徒会長が、生徒会が主催するイベントについてや、生徒会という組織の仕組みを説明してくれてるんだけど……。

 ミュール様がさっきからずっと、こそこそ話しかけてきてるのよね。ちゃんと聞きたいのに、気が散って耳に入らない。


「ねぇねぇ、そういえば、従者の人は? 昨日は見なかったけど、きっといるのよね? ねぇ、どこにいるの? 意地悪しないで教えてよ」


 従者の人? バウディのことよね? なんで彼女が知ってるのかな、彼はここには来てないし彼女にも会っていないのに。


「いい加減、わたしとお友達になっておいたほうが、いいと思うんだけどなぁ」


 含みのある言い方をしてきたことで、彼女もアーリエラ様と同じように、ゲームの知識を持った人間で確定。



 あーっ、あーっ、あーっ! なんなのこの世界、どういう世界なの、本当にわけがわかんない! なんでポコポコ、日本人が転生してるのよ!


 いや、落ち着け、落ち着け自分。


 彼女が転生者だとしても、自分のできることをするだけなのは変わらないんだから。


 脳内はこんな調子だが顔には出してない、


 でもね目下の問題は隣の席で、バウディを探してキョロキョロと周囲を見回す彼女が恥ずかし過ぎることだ。


 私は彼女と無関係ですから。

 あっ、逆隣の子が、さりげなく椅子を離した! その気持ち凄くわかる!


 よし、私……も? あれ? なんだか、うまく身体強化ができない。いつもより、魔力がちゃんと巡らない感覚があるわね。


 どうしたのかしら、今朝も瞑想と魔力循環の訓練はしてきたのに。


 呼吸を整えて、ちゃんと集中すれば違和感は解消されたから、ホッとした。


 彼女がキョロキョロしている隙に、スッと腰を少し上げて、軽く椅子を横に移動して、するりと座る。音もなく距離を取ることに成功、といっても十センチくらいだけど。心の距離はキロ単位で離れたわ。


 逆隣の子と目が合ったので、近づいてごめんねの意を込めて目礼したら、苦笑して頷いてくれた。


「あっ、ねぇ、どうして離れるのよー、もーっ」


 だんだん声が大きくなっているうえに、椅子をガタガタさせてこっちに近づいてきた。ひぃっ!


「そこの、女生徒。先程から私語をしている君だ、一番後ろの金桃色の髪の女生徒っ!」


 壇上から、生徒会について説明をしていた生徒会長のカレンド・ロークスが、ついに名指しで切れた。

 壇上からゆびを指された彼女に視線が集まる。


「えっ? わたしっ!?」


 本気で驚く彼女に、周囲の人間は一様に引く。おまえ以外にいるか、と。


「そうだ、君だ。口を閉じて、うしろに立っていなさい」


 ビシッと言い放った彼に、彼女がポワンと赤くなる。「やだ、うそ、かっこいい」などと呟いて頬に手をあててもだえている。いや、早く立ってうしろに行きなさいよ。


 動かない彼女にしびれを切らせた彼が、執行部に目配せをすると、腕章をした生徒が二人来て、彼女を立たせて壁際まで連行した。


 周囲に安堵が広がり、私も、向こう隣の子もいそいそと椅子を元の位置に戻す。


「規律を乱す者は、執行部が取り締まるので、そのつもりで」


 風紀委員みたいなこともしてるのね。ご苦労様です。



 その後はつつがなくオリエンテーションが進み、教室に戻ることができた。

お読みいただきありがとうございます。


KY(空気読め)ってもう死語でしょうか……。



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