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中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。【書籍化】  作者: こる.
本編

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03:公爵令嬢からの招待状

誤字報告ありがとうございますっ!大変助かります!!

 バウディに車椅子を押してもらって、ダイニングに入る。


「おはようございます、お父様、お母様」


 元気に挨拶をした私に、ちょっと恰幅のいい父はあんぐりと口を開け、それからぱぁっと表情を輝かせた。お母様も驚いたように長い睫毛が色っぽい細い目を一度見開いてから、いつも通りおっとりと、だけどとても嬉しそうに微笑んだ。


「おはよう、レイミ! さぁさ、一緒に食べようじゃないか」


 父が自ら引いてくれた椅子に、バウディがお姫様抱っこで移動してくれる。

 ううむ、やっぱりこう抱えられるのって気恥ずかしいわね、どうにかならないものかしら。

 これもあって、レイミは部屋でご飯を食べるようになってたんじゃないかしら? でも、好きな人にお姫様抱っこされるのは、役得だと思うんだけど。レイミは奥手だからなぁ、恥ずかしかったのかも知れないし。


 ボラ夫人が私の分の食事をテーブルに用意してくれるのを待ってから、三人で食事がはじまった。一応ね、貴族だからね、使用人とは別なのよね。


 レイミはちゃんと貴族のお嬢様だから、お食事マナーも問題なし!

 こういう習慣化された部分は、なにも考える必要なくていいわぁ。食後のお茶のティーカップを、音も立てずにソーサーに戻した自分にびっくりしたもの。凄いわね、お嬢様。


「それにしても、レイミが元気になってくれてよかった。昨日のこと――」

「お父様、あまり沈んでばかりもいられませんもの、少しずつ体力も付けようかと思っているのよ」


 迂闊に話題に出そうとする父の話をぶった切って、牽制する。


「そ、そうだね。それはいいことだ、向こうにとつ――」

「お母様、そういえば、私の服、裾の短いものを長くすることはできないでしょうか。このままでは、折角あるのに着れないのが勿体なくて」


「そうねぇ、少し形を変えてお直ししてみましょうか」


 母は婚約の話を一切出さずにいてくれるのでありがたい。というか、父、昨日の今日なのだからすこしは空気を読んで欲しい。

 それともあれか? 婚約話の直後に、私がこうして元気な顔を見せているから、話に前向きだとでも思っているのかな。


 甘いわね、そんなわけないじゃない。

 私とレイミの怒りと哀しみは、マグマよりも熱くマリアナ海溝よりも深いわよ。絶対に許さねぇ、あの馬鹿は、絶対にだ。


 何度か話を強引に変えたことで、父も私がその話を一切したくないということを察してくれて、その話を出さなくなった。


 その代わりに「元気になってよかった」を連発する。

 そういえば食事中も妙に『元気になった』を連呼してたのよね……なにか妙だわ。


 まるで、なにか言いにくいことがあるときみたいな前振りじゃない?


 ほら、母も……目が細くてよくわからないけれど、父にアイコンタクトしてるもの! 父も『うん』って頷いてるんじゃないわよっ、一応気付かないふりしておくけれどもっ。


 きっと、よくないことなんだろうな。

 まぁ、あの馬鹿との結婚話より悪いことは、ないだろうけど。



 意を決したらしい父は上着のポケットから一枚の封筒を取り出し、そっと私の前に置いた。


「ええと……レイミ宛ての、手紙だよ」


「私宛の? 読んでもいいかしら?」


 確認すると食い気味に頷かれたので、既に開封されている封筒から手紙を抜き出した。

 それにしても、随分と立派な手紙ねぇ。

 無言で手紙の内容に目を通し、そっと封筒に戻す。





 公爵令嬢サマが、なにゆえ引きこもりの伯爵令嬢をお茶会に誘うのかしら?



 レイミの記憶を思い返してみても、公爵令嬢のアーリエラ・ブレヒスト様との接点がまったく思い出せない。


 思い出すために難しい顔をしていた私に、父が慌てる。


「ごめんねレイミ、こういうのはなるべく断っていたんだが、先方がどうしてもといってね。ええと、レイミの気が晴れるようにと心を尽くしてくださるそうだよ。でも、あのね、具合が悪くなったらすぐに帰ってきていいからね、バウディも一緒にいくから心強いだろう? 本当は父様も一緒にいってあげたいんだけど、お仕事があるから……」


 そうよねー、一介の下級貴族が超VIPである公爵家のお誘いを断るのは、ちょーっとハードル高いもんねぇ。御貴族様の上下関係ってシビアみたいだし、レイミの記憶にもお茶会で気疲れした思い出が残っているもの。


 でもさ、手紙も本当にこちらをいたわる内容で、悪意は感じられなかったからきっとそう悪いこともないと思うのよね。


 ショボーンの顔文字をリアルで見せてくれた、父の顔芸に免じてここは私が頑張ろう。



「大丈夫よ、お父様。公爵家のご令嬢が、折角私のために開いてくださるお茶会ですもの、楽しんでまいりますわ」


 もし見世物になるとしても、この先一生この体と付き合っていかなきゃならないわけだし、いつかは外に出るなら、それがこのお茶会でもいいわよね、レイミ。だからさ、いい加減勝手に悲しい気持ちになるのやめてよね。


 感傷なんて、がらじゃないのになぁもう。


 食後のお茶を終えて、慌ただしく出勤する父を母と一緒に見送り、そのまま車椅子をバウディに押してもらって部屋に戻った。



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