37:大事なところを端折ってはいけない
誰もいないB組の教室でこっそり女子トーク。いぇーぃ!
なんてね、そんなテンションではありません。
女子トークというか、興奮しきりのアーリエラ様が一方的に話すので、相づちをうつ簡単なお仕事です。貴族社会の上下関係万歳。
「それで、ベルイド様に助け起こされたヒロインちゃんは、ビルクス殿下に膝の傷を魔法で治してもらったのに、ストーリー通りぷんすか怒っていらしたわ」
ベルイド様というのは宰相の将来有望なお孫さんで、ビルクス殿下は我が国の第二王子殿下でありアーリエラ様の婚約者だ。
「貴族でありながら、殿下のこともお知りでないのですか? さすがに、問題があると思うのですが」
傷を治してくれた第二王子殿下に怒るなんて、貴族としてどうかと思う以前に、人として感謝こそすれ怒る謂れはないのではないかと思うんだけどね。
「そうねぇ、ヒロインちゃんは元々平民だったからかしら? 男爵夫妻に拾われて、魔力があったから養女になったそうだから、教育がまだ足りていないのかも知れないわね。周りの者が王子であることを指摘したら、震え上がって平謝りしていたもの」
彼女はおおらかにクスクスと笑っているが、ミュール様にしたら一大事だっただろうな、恐ろしい。
それにしても……考えるより先に手が出るタイプの人間なのかな、ミュール様って。
そして、もうひとつ聞き捨てならないことがあるよね。
「ところで、平民から貴族籍を得ることができるのですか? いくら魔力があったからといっても貴族になれるなんて、そんな話を聞いたことはないのですが」
「おおっぴらにする話ではないから、あまり聞かないかも知れませんけれど、ないわけではないのよ。貴族の御落胤が市井にいるなんて、あり得なくはないでしょう?」
口元を隠してこっそりと教えてくれた話に、やっぱりあるんかーという思いが強い。
無いことはないと思ってたんだよね。
他にも没落した貴族の子供だって、魔力量は多いはずなんだから。ただ、貴族同士の結婚でなければ、どんどん魔力量は落ちていくのかも知れないけれど。
「教室ではちょっとぼんやりした、おとなしそうな子に見えましたが。そういうわけでもないのですね」
「おとなしそう? 彼女はいつも元気で、前向きで、おとなしいという感じではなかったのだけど……。ゲームとこちらでは、違うのかしらね――レイミ様も、思ったより行動的ですし……」
私をチラチラ見ながら、独り言のように呟く。
そうよね、私はかなりアーリエラ様の薄いノートの内容と逸脱してるもんね。
日本での記憶があるので当たり前といえば当たりま……あれ? もしかして、アーリエラ様って、私のこと生粋の現地人だと思ってるんじゃないの?
そういえば、私、自分が何者かなんて、バウディにしか打ち明けてないわね。
誰にでも言えることじゃないから、当然なんだけど。
だから、私に打ち明けてくれたアーリエラ様って、実は肝が据わってるのよね。だって、初対面の人間に、あんなこと言えば普通は引く、いや、私も引いたけど、日本出身って打ち明けられたから信じることができただけで。
もし、私が信じないで他の人に、アーリエラ様のことを吹聴したらどうするつもりだったんだろう――ん? 吹聴したとしても、どうにもならんのかなもしかして。
引きこもりのしがない伯爵令嬢と、貴族のトップともいえる公爵令嬢。
太刀打ちできる気がしない。
そして、なにより、立場的に彼女を無下にできるわけがない。染みついた階級制度があるもんねぇ。
なるほどなぁ、私が転生者でも生粋のこっちの人でも、問題はなかったのかも。
でも、そこまで考えての行動だったのかは、わからないし聞けない。怖くて聞けない。
「でも、ちゃんとゲームのシナリオ通りに進んでおりますから、この世界がゲームの世界ということで間違いはありませんわ」
目をキラキラさせて断言する彼女に、思わず肩を落として苦笑いする。
そんなにそのゲームが好きなのか。
「そうなんですね。ですが、我々がそのゲームの通りに、悪役である必要はありませんもの。これから、内容は変わってゆきますね」
どこか遠くを見てうっとりしている彼女は、私の言葉を聞いてやっと戻ってきた。
そして、すこし寂しそうに頷く。
「そうですわね。心を病み切ったレイミ様が両足を失うこともないでしょうし、レイミ様の父君が横領等の罪を被って田舎に左遷されることもないでしょうね。あ、でもバウディ様ルートはまだ可能性がありますわ」
私が両足を失うことも、父が横領等の罪で左遷というのもはじめて聞いたが。それよりもなによりも、聞き捨てならない話があるな。
「バウディ、さまルートですか?」
内心の焦りを表情に出さないようにしながら私が水を向けると、彼女は嬉々として教えてくれた。
「ええ、隣国の王位継承権を持つ彼は、我が国に視察に来ていた反王太子派の人間に発見されてしまうの。現王太子は王妃の子ではあるものの、才能に乏しくて凡庸だから、カリスマ性もあって容姿端麗なバウディ様を擁立しようとしているの」
「擁立って……そんなに簡単な話ではないのではないですか? 隣国は長く平和に国を維持しておりますし、バウディ、様を立てていいことなどないように思えますが」
その上、バウディが隣国で立つときに、我が国からも支援を送るという内容だったはず。
薄いノートを読んだあと、少し気になって、隣国のことを学んでみたけれど。野心はあまりないようで戦争など久しくなく、国の憂いといえば一部貴族に革新派という動きが出てきたことだろう。
それが、バウディを祭り上げようとしてるんだろうというのは察するにあまりある。
っていうか、そんな新興勢力の神輿に乗って、国のトップになりたがるような男ではないように見えるんだけどな、我が家のイケメンは。
そして、簡単に担がれるような男でもない。
薄いノートでは、我が国の助力もあってバウディは隣国の王になるらしいんだけど。他国からの介入を受けての、王位継承なんてどうなの? 国家にとっての弱みになるんじゃないの?
現体制で国民が窮していないのであれば、頭が変わる意味なんてあるのかしら。実際に、向こうに住んでいる訳じゃないから、実情がわからないのがもどかしいわね。
「確かに長く平和ではあるわ、表面上はね。でも、国家の中枢って平和だから平和ということでもないでしょう? 利権は偏り、不満は募るものですもの」
当たり前のことを当たり前に言う彼女は、利権を享受する側の人間だもんなぁ。
あー、あー、あー……聞きたくないー。とはいえ、我が家も貴族だから、享受する側なのよねぇぇ……。
そりゃ、お金持ち、って感じじゃないけど。それでも、人を雇って生活してるってことは、平民よりもよっぽど豊かなのよ。
「では、新興勢力側が、バウディを担ぎ上げて、利権を得ようとしているのですか。それでは、バウディは傀儡として王位を得ることになるのでは?」
「そこは大丈夫よ、新興勢力をうまく使って王位を得るけれど、駄目な人は切り捨てますもの。厳酷の王子っていう二つ名でね」
厳酷……やりかたが著しく厳しいこと。バウディが?
納得できずに首をひねる私に、彼女は少し考える素振りをする。
「レイミ様の死をきっかけに、性格が振り切れるはずですわ」
「私の死……あの、私、死ぬんですか?」
初耳だ!
「あら、言ってなかったかしら?」
きょとんという効果音と共に、小首を傾げた。
言ってなかったってばぁぁぁ!!!
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