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中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。【書籍化】  作者: こる
本編

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35:魔法学校なのに組分け帽子はない

 戻った玄関ホールには、新入生を迎えて案内してくれる上級生と、期待に顔を輝かせている新入生がひしめいていた。


 本当ならもっと早い時間にここを通過して、教室の隅っこでゆっくりしてるはずだったのになぁ。


 杖が邪魔にならないように壁際をゆっくり移動していると、新入生を案内している上級生のなかに、シーランド・サーシェルを見つけた。


 不自然なほどこちらを見ない様子に、向こうは既に私のことに気づいているのだとわかる。


 一瞬、近づいていって嫌がらせのひとつもしようかと思ったけれど、その前に、彼にぶつかる小柄な女生徒がいた。

 ぶつかるというか、他の生徒に押された彼女が玉突き事故よろしくシーランドにぶつかったのだが……なんか、覚えがあるな、このシチュエーション。


 ピンクがかった金色の髪に、瞳の大きな目、口紅なしでも鮮やかな桃色の唇。色彩がとても派手な彼女は――。


「あれが、ヒロインちゃんですわ。お名前はミュール・ハーティ様よ」


 いつの間にか私の背後に立っていたアーリエラ様が、こそこそと教えてくれる。

 忍者のように背後を取られ、ちょっとビックリしてしまったけれど、他人のフリごっこをしているようなので、私ものっておく。


「これも、オープニングでしたね」


 敢えてアーリエラ様のほうを見ないで、正面を向いたまま小声で確認する。


「ええそうよ、教室に入るまでがオープニングですわ」


 家に着くまでが遠足です、のノリですね。バナナはおやつに入るのかな。


「レイミ様と同じE組よ。教室に入る時に、担任のローディ先生と一緒に入ってくるはずなので、確認していただけるかしら」


「アーリエラ様は、どちらの組ですか?」


「わたくしはB組ですわ」


 なるほど、別の組かー。


「わかりました、確認しておきます」


「よろしくお願いいたしますね」


 こそこそとした私たちのやりとりを、通りすがりの生徒たちはチラチラ見るけれど、相手は腐っても公爵令嬢なので、みんな見て見ぬふりをしてくれる。


 離れたアーリエラ様から少し遅れて、私も自分の教室を目指す。


 っていうか、アーリエラ様もしかしてずっとオープニングイベントというやつを観察していたんだろうか。結構時間経ってるのに……っていうか、ヒロインちゃんことミュール様も今までなにしてたんだ……って、そうか、ここにくるまでに色々な主要キャラに会うんだっけ。


 シーランドに会ったってことは、残りはローディ先生か。

 誰にどこでどんな風に会うのか全部を覚えているわけじゃないけれど、浅からぬ因縁のシーランドのくだりは覚えていたから、本当にアーリエラ様の薄いノートの通りになってることは間違いない。

 言い知れぬ気持ち悪さを感じて、腕をさすった。


 書いてあることが本当になるということは、本当に私は中ボスとしてミュール様を追い詰めるだろうか。

 いやいや、ないわ、だって、私の自我があるもの、私がしないって決めてるんだから、そうなるわけがない。


 生徒たちもまばらになってきたし、とにかく教室へ行こう。


 受付があるわけではないけれど、上級生が順次教室へ案内してくれてるっぽいんだけどなぁ、誰からも声を掛けられないから他の人たちについて行けばいいよね。


 身体強化を使わずに、えっちらおっちらと校舎を奥へと進む。




 だよねぇ、一年生の教室って普通一番遠いもんねぇ。私の通ってた学校もそうだったもん。


 コ字型の校舎の三階。三階!

 玄関入って右翼の一階から三年生、二階は二年生、三階は一年生。さらに奥には講堂。

 左翼は二階建てで、職員室と各教科の実習室がある。


 ひとクラス十人前後で、五クラス。全校生徒でも二百人に満たないようだ。

 貴族の子供だけってくくりだから、これでも多いかもしれないけど。


 ちょっと急がないと、教室に入るの遅刻しそうね。生徒たちはもう階段にはいなくなっていて、みんな教室に入ったんだろうな。


 階段苦手だわ、自宅で強化魔法を使わない階段の上り下りの練習をしておけばよかった。


 悔やんでも今更なので、とにかく転ばないように注意しながら一段一段登ってゆく。


 ひとけがないし、ちょっと身体強化の魔法を使ってもいいかな?


「手をお貸しましょうか、お嬢さん」


「えっ? わわ……っ」


 突然声を掛けられ、驚いてバランスを崩しそうになった腰を支えられた。


「大丈夫ですか?」


 マントの色は三年生のもので、どこかで見覚えのある深緑の髪に、焦げ茶色の瞳をもつイケメンだった。


 よ、よかった、強化魔法使わなくて。


「はい、ありがとうございます」


「大変申し訳ないが、間に合わなそうなので、ちょっと失礼するよ。杖と鞄はしっかり握っておいで」


 そう言ってしゃがんだかと思うと、するりと私を持ち上げた。お姫様抱っこではなく、腕の上にお尻をのせるような、子供抱っこ、とでもいうのかな。


 私、子供抱っこするようなサイズ感じゃありませんけれどもーっ!


 驚いている間に階段を登りきり、三階で私を下ろしてくれた彼にお礼を言う。


「本当に、ありがとうございました。素晴らしい身体強化ですね」


 思わず褒めてしまった私に、彼は少し驚いた顔をしてから小さく笑った。


「ふふっ、どういたしまして。君の組はそこの、Eのプレートの所だよ。まだ、担任は来ていないようだが、早く入った方がいいだろう」


 階段を降りていく彼にもう一度お礼を言ってから、少し先にあるE組に入った。


 同じ制服に身を包んでいるけれど、みんな色とりどりの髪色をしている。

 こっちの世界って、本当にいろんな髪色なんだよね。私も見慣れた黒じゃなくて、オレンジ色とかでもよかったのにな。


 そういえば、さっきのイケメン先輩の髪色……どっかで見た気がするのよね。


 ぼんやり考えていた答えは、すぐに出ることになった。

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